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~獣人救出編~
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バディアスから見ればある意味無敵のように思えるシロンだったが、しかし決してその力をむやみやたらと示すわけではなかった。
街道では存在が薄くなるという不思議な札や香で馬車ごと人目に触れることを避け、しかし小さな村の近くにディーファンの集落があれば必ず立ち寄って一軒ずつ確認した後に何かと荷物を持ち出したり、逆に馬車から降ろしたりする。
集落ではバディアスは「護衛だ」と言い訳をして遠慮なくシロンの後をついていっては家々を覗いたが、どこも無人とは思えないほどきれいに保たれ、設備の不具合すらなかった。
「はぁ~~~~~………今日もいい湯だぁ~~~~~~………」
すっかり『風呂』にも慣れ、湯が『蛇口』という管から出てくるだけでなく、シロンが調合したという『入浴剤』で疲れをいやすことに悦びを見出す。
金を出して寝泊まりする町の宿屋と違って掃除や後始末は自分たちでやらなければならないが、そんなことはどうでもよくなるくらいレビウスの作る食事は美味く、獣人だという嫌悪感はすっかり霧散していた。
今までどうして身体を清潔にすることもなく、干し肉や乾燥させた野菜を塩で味付けして煮ただけのスープもどきの食事で堪えてこれたのか忘れてしまうほど快適で安全な旅をする──いつまでという期限をつけられたわけではないが、シロンから任務完了として袂を分かった後に元の生活に戻れるかの自信がなくなってしまう。
「……こうして過ごしてみると、あの村のお前さんの家ですら『不便』だったんだなぁ……」
「ん?……ああ、そういえば……あの村はディーファン一族のものではないからな。あの小屋は村長の好意で用意してもらったものだし、この家のような設備を備えたとしても、動かすのに必要な動力や何かまでは備えられない」
「そういうもん?」
「そういうもんだ。どうしてとかは聞くな。俺も必要なものすべてを理解しているわけじゃない」
「あ、そうなんだ」
シロンにも不可能なことがあると聞くと、バディアスはパッと顔を輝かせた。
街道では存在が薄くなるという不思議な札や香で馬車ごと人目に触れることを避け、しかし小さな村の近くにディーファンの集落があれば必ず立ち寄って一軒ずつ確認した後に何かと荷物を持ち出したり、逆に馬車から降ろしたりする。
集落ではバディアスは「護衛だ」と言い訳をして遠慮なくシロンの後をついていっては家々を覗いたが、どこも無人とは思えないほどきれいに保たれ、設備の不具合すらなかった。
「はぁ~~~~~………今日もいい湯だぁ~~~~~~………」
すっかり『風呂』にも慣れ、湯が『蛇口』という管から出てくるだけでなく、シロンが調合したという『入浴剤』で疲れをいやすことに悦びを見出す。
金を出して寝泊まりする町の宿屋と違って掃除や後始末は自分たちでやらなければならないが、そんなことはどうでもよくなるくらいレビウスの作る食事は美味く、獣人だという嫌悪感はすっかり霧散していた。
今までどうして身体を清潔にすることもなく、干し肉や乾燥させた野菜を塩で味付けして煮ただけのスープもどきの食事で堪えてこれたのか忘れてしまうほど快適で安全な旅をする──いつまでという期限をつけられたわけではないが、シロンから任務完了として袂を分かった後に元の生活に戻れるかの自信がなくなってしまう。
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「ん?……ああ、そういえば……あの村はディーファン一族のものではないからな。あの小屋は村長の好意で用意してもらったものだし、この家のような設備を備えたとしても、動かすのに必要な動力や何かまでは備えられない」
「そういうもん?」
「そういうもんだ。どうしてとかは聞くな。俺も必要なものすべてを理解しているわけじゃない」
「あ、そうなんだ」
シロンにも不可能なことがあると聞くと、バディアスはパッと顔を輝かせた。
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