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~獣人救出編~
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せっかく拾った命を大切にして他人のためになるような仕事をするか、懲りずに旅人を襲って人生を終えるのか──その行く末を見届ける義理はない。
しかしシロンやバディアスの知るところではなかったが、しばらくするとこの街道上では等間隔に見張り台を兼ねた小屋が勝手に建てられ、そこに住み着いた男たちによって王都から次の町に行くまでかなり安全な道として有名になり、この制度が王都に続く街道すべてに配置されることになった。
時々は盗賊に狙われ、時々はエルミナが魔素毒の滲み出してきていた地面を丸裸にし、雨には滅多に当たらずしかしといって暑すぎもしないいい感じで旅程は進み──目指していた集落へと到着したのはシロンがエルミナとバディアスを拾ったあの家からほぼ三ヶ月経った朝だった。
「……いよいよ、だな」
ゴクリとバディアスがつばを飲み込み、大袈裟に怯えた顔をしながらシロンの後からついてくる。
別の家に落ち着いてもらうにしても、まずはレビウスと顔を合わせてもらおうとは決めていた。
だからあらかじめ決めてあったとおりにレビウスのいる集落の避難小屋あてに手紙を出している。
普通の郵便配達人では見つけられないだろうが、冒険者ギルド経由であれば預けてある簡易目印で一度だけ避難小屋に到着できるのだ。
その目印で小屋の前にある箱の投入口に手紙を入れてから前の扉を開ければ、ギルドから受け取る報酬とは別に何割かではあるが小遣い程度の金が入った布袋が現れるようにしてあるため、ディーヴァントのこの簡単なお使いは隠れた人気依頼である。
それはともかく毎日その投函箱をレビウスは確認しているはずなので、この扉を決めたノックで叩けば、獣人族である彼が出てくるはずだ。
コン。コココン。コン。コンコン。コココン。
シロンが何度か不規則なノックをすると、ゆっくりと扉が開いた。
その動きに合わせてエルミナを抱いたバディアスが赤ん坊を守るように抱きかかえて身構えたが、完全に開けられた扉の向こうに立つ獣人を見て、ポカンと口を開ける。
彼は口枷が外れているにも拘らず顔下半分を布で覆い、片手にはたきを持ってニコニコと笑っていたのだ。
「ふえぇぇ~……」
旅の汚れを落としたバディアスがリビングに戻ると、シロンはぐっすりと小上がりで眠り込み、無言で獣人──レビウスが赤ん坊をユラユラと揺らしていた。
食卓の上にはミルクの滴が残る哺乳瓶が置いてあり、お腹いっぱいにはなったらしいが眠りに落ちるには至らないらしい。
人間族の言葉がわからずとも、何かしらハミングするだけでも落ち着いて寝てくれるだろうと思うのだが、その獣人はただユラユラと揺らすだけである。
「おい?おいおいおい?なぁにやってんだよ……ほら、貸してみ?」
毛むくじゃらの腕に触るのに一瞬躊躇ったが、まだ口元を布で覆った獣人は困ったような表情のままコクコクと頷き、黙って愚図るエルミナを両手に乗せてバディアスに差し出してくるのを受け取った。
別に美声とも思ってはいないが、バディアスは自分が幼少の頃に母親に歌ってもらった子守歌を、そのまま異国の言葉で歌う。
聞き慣れたその声に安心したのか、ゆっくりとエルミナの瞼は落ち、低く落ち着いた歌声だけが部屋の中に流れた。
しかしシロンやバディアスの知るところではなかったが、しばらくするとこの街道上では等間隔に見張り台を兼ねた小屋が勝手に建てられ、そこに住み着いた男たちによって王都から次の町に行くまでかなり安全な道として有名になり、この制度が王都に続く街道すべてに配置されることになった。
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「……いよいよ、だな」
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それはともかく毎日その投函箱をレビウスは確認しているはずなので、この扉を決めたノックで叩けば、獣人族である彼が出てくるはずだ。
コン。コココン。コン。コンコン。コココン。
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その動きに合わせてエルミナを抱いたバディアスが赤ん坊を守るように抱きかかえて身構えたが、完全に開けられた扉の向こうに立つ獣人を見て、ポカンと口を開ける。
彼は口枷が外れているにも拘らず顔下半分を布で覆い、片手にはたきを持ってニコニコと笑っていたのだ。
「ふえぇぇ~……」
旅の汚れを落としたバディアスがリビングに戻ると、シロンはぐっすりと小上がりで眠り込み、無言で獣人──レビウスが赤ん坊をユラユラと揺らしていた。
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人間族の言葉がわからずとも、何かしらハミングするだけでも落ち着いて寝てくれるだろうと思うのだが、その獣人はただユラユラと揺らすだけである。
「おい?おいおいおい?なぁにやってんだよ……ほら、貸してみ?」
毛むくじゃらの腕に触るのに一瞬躊躇ったが、まだ口元を布で覆った獣人は困ったような表情のままコクコクと頷き、黙って愚図るエルミナを両手に乗せてバディアスに差し出してくるのを受け取った。
別に美声とも思ってはいないが、バディアスは自分が幼少の頃に母親に歌ってもらった子守歌を、そのまま異国の言葉で歌う。
聞き慣れたその声に安心したのか、ゆっくりとエルミナの瞼は落ち、低く落ち着いた歌声だけが部屋の中に流れた。
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