今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

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~街道移動編~

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王都から離れることまた半月──最初の方にはまた検問があったが、ディーヴァント一族の秘薬と秘術で捕まることなくシロンたちは平和にその道を進む。
王都の憲兵などを避けるのは罪のないシロンたちだけでなく、後ろ暗い所がある者も鳴りを潜めるのだから、当然と言えば当然だ。
「いやぁ~、こんなに平和なのは建国祭とか王族の誕生祝ぐらいじゃないかぁ~?」
「そんな時ぐらいしか平和じゃないっていうのも問題だがな……というか、そんなに普段は物騒か?」
シロンは首を傾げるが、危機管理能力が他国の者とは違うのかもしれないと思い至る。
「ん~……?まぁ……そうか……お互い、自国ではそんなに危険だとは思わなくても、自分ではそうではない…のか?」
問い返されたバディアスも考え込んで、自問自答で返す。
「いやでもやっぱり、今こうやって街道を通りつつ『平和だなぁ』って実感できるってこと自体、やっぱり普段はそんなに平和じゃないんじゃねぇの?」
確かにそうかもしれない。
たとえ近場でもある村から隣の村なり町まで行くのでも、村の男が女子供についていくのは当然だし、ディーヴァントの集落の中でもたった一軒だけは街道のすぐそばに建ててあって、何か問題が起こった者であれば見つけられるように術が施されている。
男であるシロンであっても子供の頃は父から離れないようにと言われていたし、母と三人で旅をしていた頃は、幼くともシロンが母を守るようにと言い含められていた。
そんな危険なことが起こった試しがないから、大人になってしまったシロンはすっかり忘れていたが──もしシロンたちが『ただの村人』であれば、まさしく父が危惧していたように何かしら危ないことが起こったのかもしれない。
だが平和なのはいいことなので、特に事を荒立てることはしないように、だが不自然に荷馬車が見失われないようにとシロンたちは進んでいく。

そう、見失われないように──

「……どうも目端の利く奴がいるみたいだな」
「鼻もいいんだろう。香への耐性が付くぐらい好かれているとは思わなかったけどな……」
「ディーの一族って、国家レベルで守られてるんじゃないのか?」
「……という建前だが。そんなのは『紳士協定』と変わらない。書面を交わしたわけでもないし。例えそんな書面が残っていたとしても、誰も読めないほど古いものだろうさ」
だいたいディーヴァント一族に対する正しい知識など、きっと今の王族ですら持ち合わせていないだろう。
ましてや一獲千金をダンジョン探索や魔物退治で狙うのではなく、旅人の荷を狙う盗賊には獲物がどんな身分の者なのかなどまったく関係ないだろう。
もっともシロンたちを仕留めて荷を奪ったところで、売り捌いた瞬間に自分たちが縛り首になって、せっかく手に入れた盗品はあっという間に国庫にしまい込まれてしまうのに。
「まったく……普通の旅人狙うのだって許せないけど、変なとこで欲出さないで、真面目に畑でも耕しゃぁいいのになぁ」
「なるべく殺さず、動けないようにだけして転がしておこう。後始末が面倒だし、放っておけば近くの村から人が来るだろうさ」
「……どうせその『お知らせ』も俺が行ってくるんだろう?」
「頼むぜ、相棒」
トン、とシロンがバディアスの方を叩くと、頼まれた方はスルリと馬車から忍び降りる。
追ってくる方が顔に布を巻いて人相をわからなくさせているのを見て、バディアスも同じように顔を隠した。
ここら辺は隠密行動の基本であり、本来王族であれば身に着けなくてもいい暗躍するための業であるが、身に着けた以上は役立てるのが一番いい。
「……というか、黙って殺される趣味はないからな……っと」
痺れる類の飛び矢をそっと放ち、見えざる敵に倒れる味方にあたふたする盗賊どもを分断して、バディアスは次々と意識を刈っていく。
足や腕の腱を小さく傷つけて断ち、いずれ回収されても長期間仕事・・ができないようにと仕込みをしてから、シロンたちの下に戻った。


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