96 / 109
~街道移動編~
17
しおりを挟む
王都から離れることまた半月──最初の方にはまた検問があったが、ディーヴァント一族の秘薬と秘術で捕まることなくシロンたちは平和にその道を進む。
王都の憲兵などを避けるのは罪のないシロンたちだけでなく、後ろ暗い所がある者も鳴りを潜めるのだから、当然と言えば当然だ。
「いやぁ~、こんなに平和なのは建国祭とか王族の誕生祝ぐらいじゃないかぁ~?」
「そんな時ぐらいしか平和じゃないっていうのも問題だがな……というか、そんなに普段は物騒か?」
シロンは首を傾げるが、危機管理能力が他国の者とは違うのかもしれないと思い至る。
「ん~……?まぁ……そうか……お互い、自国ではそんなに危険だとは思わなくても、自分ではそうではない…のか?」
問い返されたバディアスも考え込んで、自問自答で返す。
「いやでもやっぱり、今こうやって街道を通りつつ『平和だなぁ』って実感できるってこと自体、やっぱり普段はそんなに平和じゃないんじゃねぇの?」
確かにそうかもしれない。
たとえ近場でもある村から隣の村なり町まで行くのでも、村の男が女子供についていくのは当然だし、ディーヴァントの集落の中でもたった一軒だけは街道のすぐそばに建ててあって、何か問題が起こった者であれば見つけられるように術が施されている。
男であるシロンであっても子供の頃は父から離れないようにと言われていたし、母と三人で旅をしていた頃は、幼くともシロンが母を守るようにと言い含められていた。
そんな危険なことが起こった試しがないから、大人になってしまったシロンはすっかり忘れていたが──もしシロンたちが『ただの村人』であれば、まさしく父が危惧していたように何かしら危ないことが起こったのかもしれない。
だが平和なのはいいことなので、特に事を荒立てることはしないように、だが不自然に荷馬車が見失われないようにとシロンたちは進んでいく。
そう、見失われないように──
「……どうも目端の利く奴がいるみたいだな」
「鼻もいいんだろう。香への耐性が付くぐらい好かれているとは思わなかったけどな……」
「ディーの一族って、国家レベルで守られてるんじゃないのか?」
「……という建前だが。そんなのは『紳士協定』と変わらない。書面を交わしたわけでもないし。例えそんな書面が残っていたとしても、誰も読めないほど古いものだろうさ」
だいたいディーヴァント一族に対する正しい知識など、きっと今の王族ですら持ち合わせていないだろう。
ましてや一獲千金をダンジョン探索や魔物退治で狙うのではなく、旅人の荷を狙う盗賊には獲物がどんな身分の者なのかなどまったく関係ないだろう。
もっともシロンたちを仕留めて荷を奪ったところで、売り捌いた瞬間に自分たちが縛り首になって、せっかく手に入れた盗品はあっという間に国庫にしまい込まれてしまうのに。
「まったく……普通の旅人狙うのだって許せないけど、変なとこで欲出さないで、真面目に畑でも耕しゃぁいいのになぁ」
「なるべく殺さず、動けないようにだけして転がしておこう。後始末が面倒だし、放っておけば近くの村から人が来るだろうさ」
「……どうせその『お知らせ』も俺が行ってくるんだろう?」
「頼むぜ、相棒」
トン、とシロンがバディアスの方を叩くと、頼まれた方はスルリと馬車から忍び降りる。
追ってくる方が顔に布を巻いて人相をわからなくさせているのを見て、バディアスも同じように顔を隠した。
ここら辺は隠密行動の基本であり、本来王族であれば身に着けなくてもいい暗躍するための業であるが、身に着けた以上は役立てるのが一番いい。
「……というか、黙って殺される趣味はないからな……っと」
痺れる類の飛び矢をそっと放ち、見えざる敵に倒れる味方にあたふたする盗賊どもを分断して、バディアスは次々と意識を刈っていく。
足や腕の腱を小さく傷つけて断ち、いずれ回収されても長期間仕事ができないようにと仕込みをしてから、シロンたちの下に戻った。
王都の憲兵などを避けるのは罪のないシロンたちだけでなく、後ろ暗い所がある者も鳴りを潜めるのだから、当然と言えば当然だ。
「いやぁ~、こんなに平和なのは建国祭とか王族の誕生祝ぐらいじゃないかぁ~?」
「そんな時ぐらいしか平和じゃないっていうのも問題だがな……というか、そんなに普段は物騒か?」
シロンは首を傾げるが、危機管理能力が他国の者とは違うのかもしれないと思い至る。
「ん~……?まぁ……そうか……お互い、自国ではそんなに危険だとは思わなくても、自分ではそうではない…のか?」
問い返されたバディアスも考え込んで、自問自答で返す。
「いやでもやっぱり、今こうやって街道を通りつつ『平和だなぁ』って実感できるってこと自体、やっぱり普段はそんなに平和じゃないんじゃねぇの?」
確かにそうかもしれない。
たとえ近場でもある村から隣の村なり町まで行くのでも、村の男が女子供についていくのは当然だし、ディーヴァントの集落の中でもたった一軒だけは街道のすぐそばに建ててあって、何か問題が起こった者であれば見つけられるように術が施されている。
男であるシロンであっても子供の頃は父から離れないようにと言われていたし、母と三人で旅をしていた頃は、幼くともシロンが母を守るようにと言い含められていた。
そんな危険なことが起こった試しがないから、大人になってしまったシロンはすっかり忘れていたが──もしシロンたちが『ただの村人』であれば、まさしく父が危惧していたように何かしら危ないことが起こったのかもしれない。
だが平和なのはいいことなので、特に事を荒立てることはしないように、だが不自然に荷馬車が見失われないようにとシロンたちは進んでいく。
そう、見失われないように──
「……どうも目端の利く奴がいるみたいだな」
「鼻もいいんだろう。香への耐性が付くぐらい好かれているとは思わなかったけどな……」
「ディーの一族って、国家レベルで守られてるんじゃないのか?」
「……という建前だが。そんなのは『紳士協定』と変わらない。書面を交わしたわけでもないし。例えそんな書面が残っていたとしても、誰も読めないほど古いものだろうさ」
だいたいディーヴァント一族に対する正しい知識など、きっと今の王族ですら持ち合わせていないだろう。
ましてや一獲千金をダンジョン探索や魔物退治で狙うのではなく、旅人の荷を狙う盗賊には獲物がどんな身分の者なのかなどまったく関係ないだろう。
もっともシロンたちを仕留めて荷を奪ったところで、売り捌いた瞬間に自分たちが縛り首になって、せっかく手に入れた盗品はあっという間に国庫にしまい込まれてしまうのに。
「まったく……普通の旅人狙うのだって許せないけど、変なとこで欲出さないで、真面目に畑でも耕しゃぁいいのになぁ」
「なるべく殺さず、動けないようにだけして転がしておこう。後始末が面倒だし、放っておけば近くの村から人が来るだろうさ」
「……どうせその『お知らせ』も俺が行ってくるんだろう?」
「頼むぜ、相棒」
トン、とシロンがバディアスの方を叩くと、頼まれた方はスルリと馬車から忍び降りる。
追ってくる方が顔に布を巻いて人相をわからなくさせているのを見て、バディアスも同じように顔を隠した。
ここら辺は隠密行動の基本であり、本来王族であれば身に着けなくてもいい暗躍するための業であるが、身に着けた以上は役立てるのが一番いい。
「……というか、黙って殺される趣味はないからな……っと」
痺れる類の飛び矢をそっと放ち、見えざる敵に倒れる味方にあたふたする盗賊どもを分断して、バディアスは次々と意識を刈っていく。
足や腕の腱を小さく傷つけて断ち、いずれ回収されても長期間仕事ができないようにと仕込みをしてから、シロンたちの下に戻った。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる