今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

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~街道移動編~

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そんな感じでどうしても避けられない接触も最低限に避け、シロンとバディアスは王都を囲む外郭に沿うように迂回し、大魔素毒の森方面へと馬車を進めた。
とはいえ森へは近付かず、そこからまた違う方面へと馬を誘導するのを見て、バディアスは不審に思う。
「おいおい、いいのか?あの森は放置しておいて……」
「いいわけじゃないんだが……エルミナを連れて行くのはあまり良くない気がするんだ。行くならお前とふたりでの方がまだ……もしくはこの子を隠れ家で見ていてもらうためにレビウスを連れてきた方がいいんだが、お前が受け入れられるかどうかが問題だからな」
むろん今から向かう家にはそのレビウスがいるのだが、隠れ家は少なくても五軒、一族が皆集まるところではちょっとした村に匹敵する百軒ほどの集落であるから、シロンとバディアスが別々に寝泊まりする家がある。
だから直接レビウスと顔を合わせ、互いに見知ってから「やっぱり獣人族とは暮らせない」とバディアスが判断すれば、しばらく同じ集落で家だけ別に使ってもらえばいいと思っていた。
それでなくともこの旅ではひとりっきりになることはないのだ──ようやくディーヴァント一族の家の使い方もわかってもらえただろうから、ひとりの空間を持つのもいいと思う。

それはともかく──

「ふぅん……まあ……ミナの能力?体質?何というか……ヤバそうだもんな。あのでっかい森が丸裸になったら、慌てる奴ら、多そうだもんな~」
「丸裸……そうか……確かにそう、だな……」
「はぇ?」
軽い気持ちでバディアスは笑ったが、シロンは王都から離れていても黒々と覆いかぶさるような大森林を見つめ、考え込むようにボソリと呟く。
「いや、王都の森はだいたいどこに行くんでも通らざるを得ないから、他の森よりも管理が行き届いている。今はほぼ俺だけかもしれないが……祖父より前の代にはまだ多くのディーヴァント一族がいて、世界中縦横に管理に回っていたから特にな。だが数年経てば規模が大きくなる。一度丸裸といかないまでも、ある程度更地にしてもらうことができれば……」
地面の魔素毒が集まれば集まるほど、魔毒を持った植物の成長は著しくなり、その分魔物たちも多く発生する。
そしてそれらを狙って獣人族の発見も多くなり──人間族の『襲われる前に襲え』という勝手な考えで襲われ、捕らわれて奴隷にされるのだ。
しかしエルミナの不思議な力があれば、せめて地面に密集する下草を取り除き、地面からもある程度魔毒を取り除くことができるかもしれない。
「しかしそれがどういう能力か体質で、エルミナ自身も自覚しているのかどうか……今はたぶん無意識に無毒化というか消失させているのだろうが、成長してもその能力が消えないのかどうかも観察して……」
「お~い?シロンさ~ん?それは『親』としての心配なのか?ディーの一族としての『使命』なのか?それとも単なるお前さんの『知的好奇心』か?」
「……さぁな。『興味深い獣人の赤ん坊』には違いないが……俺は結婚どころか、恋人がいたことすらないからな。エルミナに対する気持ち……う~ん……」
シロンが困ったような表情で黙り込むと、バディアスもそれ以上揶揄う気にならず、そのまま荷台に移動してゴロリと横になった。


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