今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
93 / 109
~街道移動編~

14

しおりを挟む
王都が近くなれば人の行き来も多くなる。
あたりまえのことだがシロンかバディアスのどちらかがエルミナを抱えて荷馬車の座席にいると、奇異の視線を向けられることもあった。
それでも特に咎められないのは、シロンがディーヴァント一族の者と顔を覚えられているわけではなく、どちらか一方がエルミナと共に幌を張った荷台で休憩したり、食事時のような比較的人通りの少ない時間を選んで進んでいるということもあるだろう。
「まあ……男ふたり、赤ん坊ひとりって……さすがに人攫いとは思われないだろうけども」
「どちらかがやもめか、家出した妻を追いかけていると思われているかもな」
バディアスがそこらへんで摘んだふわふわの綿帽子でエルミナをあやしながら、今はひとりで御者台に座るシロンに声を掛けると、笑いを含んだ声で返された。
初めの頃のあまり人を人と思わない状態よりもずっといいと、バディアスはひっそりと笑う。

一方手綱を握って馬車を進ませるシロンはシロンで、今のバディアスを好ましく思う。
エルミナを魔素毒の森で拾ったことも想定外だが、そのおかげで母の生まれ育った村に滞在し、『正体不明の不法住居者を突き止める』という謎の依頼を受けたバディアスは、その手の仕事をするには少し無謀が過ぎたと言えなくもない。
『死にたがり』というわけではなかったが、依頼が成功しようと失敗しようとどうでもいいかのようにあまり慎重さを感じられず、実際自分自身がどうなろうと頓着しないような雰囲気があった。
エルミナの不思議な魅了もあるのかもしれないが、少なくともシロンが魔術で吹っ飛ばされないようにと上書きした契約のおかげで晴れて自由の身となってからは、バディアスが言うところの『ディーの一族』の家々の設備や技術、魔術などにいちいち反応してしかも喜んでいる様子がいい。
共に旅をするならば、お互い心が死にかけた者ではない方がずっと気持ち良く過ごせるはずで、自分ひとりきりより、エルミナとふたりきりより、今の三人がずっといい。


王都と大魔素毒の森を避けるようにぐるりと迂回し、国王への挨拶もせずに通り過ぎようとしているシロンたちを監視している者たちがいる。
隠密活動が得意なはずの自分たちの目をたびたび掻い潜り、実態を掴ませないディーヴァント一族を胡散臭く思う王侯貴族の雇われ者だが、はっきり言っていにしえの契約など知ったことではない。
一部では不老不死ではないかと囁かれるディーヴァント一族の秘密を独占したいと思いつつ、一向にこちらに媚びへつらわないことを忌々しく思っている。
だが彼らを支配しようとすれば不思議な術でもって一夜で国が壊滅するという言い伝えもあり、まさかそれが本当かどうか確かめるために手を出すわけにもいかないと来ているため、こうやって遠くから監視だけを続けるしかないのだ。
「……また、見失いました」
「クソッ!この街道を通るというのは、今までの動きから予測できたはずだ!いったいどこで見失ったんだ?!」
「そ、それが……『気が付いたらいなくなっていた』と。見張りは必ず十人一組で行わせているため、伝令が抜けたとしても、複数の監視の目の前で消えてしまうなど……」
「クッ……仕方ない。見つけ次第、王宮へ参内させろとの勅命だ。こちらの一班を残して姿を消したと思われる付近一帯を虱潰しに探せ!」
忌々しそうに地面に唾を吐き、命令を下した隠密隊の隊長はシロンたちの来るはずだった道の先へ視線をやった。
「いつもいつも消えやがって……『必要がないからご機嫌伺いに行く必要がない』だとぉ?てめぇら平民が貴族様に逆らっていいと思っているのか?!」
残念ながらこの隊長は貴族といえど末端の末端で、王家がディーファン一族の恩恵を優先的に与えられているのは、王家主導ではないという事実を知らなかった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...