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~街道移動編~
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王都が近くなれば人の行き来も多くなる。
あたりまえのことだがシロンかバディアスのどちらかがエルミナを抱えて荷馬車の座席にいると、奇異の視線を向けられることもあった。
それでも特に咎められないのは、シロンがディーヴァント一族の者と顔を覚えられているわけではなく、どちらか一方がエルミナと共に幌を張った荷台で休憩したり、食事時のような比較的人通りの少ない時間を選んで進んでいるということもあるだろう。
「まあ……男ふたり、赤ん坊ひとりって……さすがに人攫いとは思われないだろうけども」
「どちらかが寡か、家出した妻を追いかけていると思われているかもな」
バディアスがそこらへんで摘んだふわふわの綿帽子でエルミナをあやしながら、今はひとりで御者台に座るシロンに声を掛けると、笑いを含んだ声で返された。
初めの頃のあまり人を人と思わない状態よりもずっといいと、バディアスはひっそりと笑う。
一方手綱を握って馬車を進ませるシロンはシロンで、今のバディアスを好ましく思う。
エルミナを魔素毒の森で拾ったことも想定外だが、そのおかげで母の生まれ育った村に滞在し、『正体不明の不法住居者を突き止める』という謎の依頼を受けたバディアスは、その手の仕事をするには少し無謀が過ぎたと言えなくもない。
『死にたがり』というわけではなかったが、依頼が成功しようと失敗しようとどうでもいいかのようにあまり慎重さを感じられず、実際自分自身がどうなろうと頓着しないような雰囲気があった。
エルミナの不思議な魅了もあるのかもしれないが、少なくともシロンが魔術で吹っ飛ばされないようにと上書きした契約のおかげで晴れて自由の身となってからは、バディアスが言うところの『ディーの一族』の家々の設備や技術、魔術などにいちいち反応してしかも喜んでいる様子がいい。
共に旅をするならば、お互い心が死にかけた者ではない方がずっと気持ち良く過ごせるはずで、自分ひとりきりより、エルミナとふたりきりより、今の三人がずっといい。
王都と大魔素毒の森を避けるようにぐるりと迂回し、国王への挨拶もせずに通り過ぎようとしているシロンたちを監視している者たちがいる。
隠密活動が得意なはずの自分たちの目をたびたび掻い潜り、実態を掴ませないディーヴァント一族を胡散臭く思う王侯貴族の雇われ者だが、はっきり言っていにしえの契約など知ったことではない。
一部では不老不死ではないかと囁かれるディーヴァント一族の秘密を独占したいと思いつつ、一向にこちらに媚びへつらわないことを忌々しく思っている。
だが彼らを支配しようとすれば不思議な術でもって一夜で国が壊滅するという言い伝えもあり、まさかそれが本当かどうか確かめるために手を出すわけにもいかないと来ているため、こうやって遠くから監視だけを続けるしかないのだ。
「……また、見失いました」
「クソッ!この街道を通るというのは、今までの動きから予測できたはずだ!いったいどこで見失ったんだ?!」
「そ、それが……『気が付いたらいなくなっていた』と。見張りは必ず十人一組で行わせているため、伝令が抜けたとしても、複数の監視の目の前で消えてしまうなど……」
「クッ……仕方ない。見つけ次第、王宮へ参内させろとの勅命だ。こちらの一班を残して姿を消したと思われる付近一帯を虱潰しに探せ!」
忌々しそうに地面に唾を吐き、命令を下した隠密隊の隊長はシロンたちの来るはずだった道の先へ視線をやった。
「いつもいつも消えやがって……『必要がないからご機嫌伺いに行く必要がない』だとぉ?てめぇら平民が貴族様に逆らっていいと思っているのか?!」
残念ながらこの隊長は貴族といえど末端の末端で、王家がディーファン一族の恩恵を優先的に与えられているのは、王家主導ではないという事実を知らなかった。
あたりまえのことだがシロンかバディアスのどちらかがエルミナを抱えて荷馬車の座席にいると、奇異の視線を向けられることもあった。
それでも特に咎められないのは、シロンがディーヴァント一族の者と顔を覚えられているわけではなく、どちらか一方がエルミナと共に幌を張った荷台で休憩したり、食事時のような比較的人通りの少ない時間を選んで進んでいるということもあるだろう。
「まあ……男ふたり、赤ん坊ひとりって……さすがに人攫いとは思われないだろうけども」
「どちらかが寡か、家出した妻を追いかけていると思われているかもな」
バディアスがそこらへんで摘んだふわふわの綿帽子でエルミナをあやしながら、今はひとりで御者台に座るシロンに声を掛けると、笑いを含んだ声で返された。
初めの頃のあまり人を人と思わない状態よりもずっといいと、バディアスはひっそりと笑う。
一方手綱を握って馬車を進ませるシロンはシロンで、今のバディアスを好ましく思う。
エルミナを魔素毒の森で拾ったことも想定外だが、そのおかげで母の生まれ育った村に滞在し、『正体不明の不法住居者を突き止める』という謎の依頼を受けたバディアスは、その手の仕事をするには少し無謀が過ぎたと言えなくもない。
『死にたがり』というわけではなかったが、依頼が成功しようと失敗しようとどうでもいいかのようにあまり慎重さを感じられず、実際自分自身がどうなろうと頓着しないような雰囲気があった。
エルミナの不思議な魅了もあるのかもしれないが、少なくともシロンが魔術で吹っ飛ばされないようにと上書きした契約のおかげで晴れて自由の身となってからは、バディアスが言うところの『ディーの一族』の家々の設備や技術、魔術などにいちいち反応してしかも喜んでいる様子がいい。
共に旅をするならば、お互い心が死にかけた者ではない方がずっと気持ち良く過ごせるはずで、自分ひとりきりより、エルミナとふたりきりより、今の三人がずっといい。
王都と大魔素毒の森を避けるようにぐるりと迂回し、国王への挨拶もせずに通り過ぎようとしているシロンたちを監視している者たちがいる。
隠密活動が得意なはずの自分たちの目をたびたび掻い潜り、実態を掴ませないディーヴァント一族を胡散臭く思う王侯貴族の雇われ者だが、はっきり言っていにしえの契約など知ったことではない。
一部では不老不死ではないかと囁かれるディーヴァント一族の秘密を独占したいと思いつつ、一向にこちらに媚びへつらわないことを忌々しく思っている。
だが彼らを支配しようとすれば不思議な術でもって一夜で国が壊滅するという言い伝えもあり、まさかそれが本当かどうか確かめるために手を出すわけにもいかないと来ているため、こうやって遠くから監視だけを続けるしかないのだ。
「……また、見失いました」
「クソッ!この街道を通るというのは、今までの動きから予測できたはずだ!いったいどこで見失ったんだ?!」
「そ、それが……『気が付いたらいなくなっていた』と。見張りは必ず十人一組で行わせているため、伝令が抜けたとしても、複数の監視の目の前で消えてしまうなど……」
「クッ……仕方ない。見つけ次第、王宮へ参内させろとの勅命だ。こちらの一班を残して姿を消したと思われる付近一帯を虱潰しに探せ!」
忌々しそうに地面に唾を吐き、命令を下した隠密隊の隊長はシロンたちの来るはずだった道の先へ視線をやった。
「いつもいつも消えやがって……『必要がないからご機嫌伺いに行く必要がない』だとぉ?てめぇら平民が貴族様に逆らっていいと思っているのか?!」
残念ながらこの隊長は貴族といえど末端の末端で、王家がディーファン一族の恩恵を優先的に与えられているのは、王家主導ではないという事実を知らなかった。
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