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~街道移動編~
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自分の知らない人が増える──自分を知る者が先に逝く。
どちらが怖いだろうか?
そう自問したところで、バディアスの答えは決まっている。
「若さとかは別に必要ないけどさぁ……別に『次の家』までじゃなくていいぜ?エルミナを置いていくんだろう?そん時にひとりっきりじゃあ、旅もつまんねぇだろう?」
「バ……」
「いいぜ?別に世の果てまで付き合う。俺とお前を繋ぐ契約呪術を解くためじゃねぇ。てか、解かなくていい。どうせ母親以外に心残りなんか無いし、その母親すら『好きにおし』って感じだからな」
故郷に未練はないし、戻ったところで利用どころか逆に命を狙われる始末だ。
それならこのままシロンと共に一族の謎と生き残りを探す旅──望むところだ。
「だいたい俺って『冒険者』ライセンス持ってたって、やってることはほぼ諜報活動だぜ?戻ったら戻ったで、毒入りの何かで死んでないことを忌々しく思う兄姉たちに別に舌打ちされて王子様らしい扱いされるわけでなく、またどっかへやられて毒入りの何かを受け取って……どっちが長生きできそうか?って言えば、お前に付いてた方が生き延びる確率が高いだろう?」
「なるほどな……」
そういう考え方もあるか、とシロンは笑った。
少なくともディーヴァント一族の依頼を受ける者へのボーナス的な恩恵として、疲れがすぐ取れるとか怪我をしても驚くほど回復が早いだとかいった薬効を混ぜた食事を振る舞って同行の負担を軽減するようにしているが、それらもバディアスのような護衛担当としては『長生きできる要因』に当たるのかもしれない。
それにバディアスには契約にかこつけて、普通の護衛依頼の冒険者には明かさないディーヴァント一族の隠れ家まで使ってもらっているのだから、これから先も一緒に旅をする仲間と考えた方がいいようだ。
「その方が後から『忘却の薬』を飲ませる手間も省けるなぁ……」
「え?何?俺、この度が終わったら記憶消されて始末される予定だったの?」
「始末はしないが……まあ当り障りのない記憶に塗り替えることにはなったかもな。一緒に旅をしたのは普通の商人、魔素毒の森を避けた、赤ん坊はいない、危険なことはほとんどなかった……ぐらいに。ついでに俺の顔も忘れてもらって、次に会った時もまた『はじめまして』から始まるんだ」
「……『流浪のディー』が歴史に残らないわけが、わかった気がするよ」
物悲しそうにバディアスが、当たり前のような顔をして人の記憶を操作すると言ってのけるシロンを見つめる。
「お前さんたちはそうやって自分たちの一族や役目を隠し、『他人』と積極的に関わらないようにして、『秘密』を守ってきたんだな……魔素毒を利用できるだけ、利用して」
「……ま、あ……そうとも言えなくはない……かな?だが今以上に魔素毒の森の謎は、ディーヴァント一族でも把握していない。どうやってできたのかとか、なぜそこに魔素毒が吹き溜まって魔物が発生するのか……とかな」
実際研究した者もいるかもしれないし、どこかの家にそれが隠されているかもしれない。
だがシロンはそれを探したことも、探そうと思ったこともなかった──が、バディアスの言葉で『管理』するだけでない旅の目的を、シロンは見つけた気がした。
どちらが怖いだろうか?
そう自問したところで、バディアスの答えは決まっている。
「若さとかは別に必要ないけどさぁ……別に『次の家』までじゃなくていいぜ?エルミナを置いていくんだろう?そん時にひとりっきりじゃあ、旅もつまんねぇだろう?」
「バ……」
「いいぜ?別に世の果てまで付き合う。俺とお前を繋ぐ契約呪術を解くためじゃねぇ。てか、解かなくていい。どうせ母親以外に心残りなんか無いし、その母親すら『好きにおし』って感じだからな」
故郷に未練はないし、戻ったところで利用どころか逆に命を狙われる始末だ。
それならこのままシロンと共に一族の謎と生き残りを探す旅──望むところだ。
「だいたい俺って『冒険者』ライセンス持ってたって、やってることはほぼ諜報活動だぜ?戻ったら戻ったで、毒入りの何かで死んでないことを忌々しく思う兄姉たちに別に舌打ちされて王子様らしい扱いされるわけでなく、またどっかへやられて毒入りの何かを受け取って……どっちが長生きできそうか?って言えば、お前に付いてた方が生き延びる確率が高いだろう?」
「なるほどな……」
そういう考え方もあるか、とシロンは笑った。
少なくともディーヴァント一族の依頼を受ける者へのボーナス的な恩恵として、疲れがすぐ取れるとか怪我をしても驚くほど回復が早いだとかいった薬効を混ぜた食事を振る舞って同行の負担を軽減するようにしているが、それらもバディアスのような護衛担当としては『長生きできる要因』に当たるのかもしれない。
それにバディアスには契約にかこつけて、普通の護衛依頼の冒険者には明かさないディーヴァント一族の隠れ家まで使ってもらっているのだから、これから先も一緒に旅をする仲間と考えた方がいいようだ。
「その方が後から『忘却の薬』を飲ませる手間も省けるなぁ……」
「え?何?俺、この度が終わったら記憶消されて始末される予定だったの?」
「始末はしないが……まあ当り障りのない記憶に塗り替えることにはなったかもな。一緒に旅をしたのは普通の商人、魔素毒の森を避けた、赤ん坊はいない、危険なことはほとんどなかった……ぐらいに。ついでに俺の顔も忘れてもらって、次に会った時もまた『はじめまして』から始まるんだ」
「……『流浪のディー』が歴史に残らないわけが、わかった気がするよ」
物悲しそうにバディアスが、当たり前のような顔をして人の記憶を操作すると言ってのけるシロンを見つめる。
「お前さんたちはそうやって自分たちの一族や役目を隠し、『他人』と積極的に関わらないようにして、『秘密』を守ってきたんだな……魔素毒を利用できるだけ、利用して」
「……ま、あ……そうとも言えなくはない……かな?だが今以上に魔素毒の森の謎は、ディーヴァント一族でも把握していない。どうやってできたのかとか、なぜそこに魔素毒が吹き溜まって魔物が発生するのか……とかな」
実際研究した者もいるかもしれないし、どこかの家にそれが隠されているかもしれない。
だがシロンはそれを探したことも、探そうと思ったこともなかった──が、バディアスの言葉で『管理』するだけでない旅の目的を、シロンは見つけた気がした。
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