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~街道移動編~
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シロンの言ったとおり、雨はほとんど降らず、降ってもすぐに上がるようなにわか雨が昼間にサッと降るぐらいで、荷馬車に幌を張れば簡単にしのげてしまった。
しかもその湿りのおかげで夜に火を焚いても、燃え広がる心配はない。
「もうすぐで次の集落だ。王都にかなり近い『大魔素毒の森』の側にあるんだが……魔素毒の森から採れる物で受けられる恩恵も大きいんだが、厄介な依頼も多く受ける場所だ。今回は見つからないように確認をするだけですぐに出発する予定だから、お前もあまり近隣の村には立ち寄らないでくれ」
「大魔素毒……ね……王都のギルドでは『絶対に依頼がある時以外、依頼者と随従以外では立ち入らない』という誓約書を別に書かされたな。そんなに危険なのか?」
「危険……というか…うん、危険だな。どういうわけか王国中の瘴気が集約したような状態で、なのに結界があるかのように、魔物はめったに森の外には出てこない。逆にそういう状態だからこそどんどん魔素毒が集まって……『ダンジョン』っていうのは魔素毒のせいで地下に迷宮ができるんだが、それが森の中にできている状態だな。だからダンジョンと違ってディーヴァント一族がいなければ入ったが最後、出てくることはほぼできないと言われている」
「『言われている』って……出てきた奴がそう言っているのか?」
「出てきた奴はいるんだが……迷った末、出た先はまったく違う地方の森で、自分がどこにいるかわからなかったらしい。たまたまその時管理していたディーヴァントの者が森に伐採に訪れたために、魔物の餌食になる前に一緒に出られたんだ。たぶんその話をわざと大袈裟に広めたんだと思うけどな」
「へぇ~…………それって、いつの話?」
「ん?俺も父さ…父親に聞いただけだから……ざっと三百年以上前としか」
つまりそれより前よりずっと魔素毒の森はあり、それを管理しているディーの一族もずっと前から管理しており──気の遠くなるような歴史の源流にいるのかもしれない。
バディアスはそう考え、少しばかりゾッとした気分になる。
その言葉通り、『もうすぐ』とシロンが話した集落には二日後に到着した。
赤ん坊には移動しっぱなしであまり快適とは言えない日々だったはずなのに、エルミナはほとんどグズることなく機嫌よく過ごしてくれたのが、救いといえば救いだった。
しかもその間に驚くほど成長し──立って歩くことはまだできないが、少なくともひとりで座ったりコロンと寝返りを打ったりハイハイしたりと動きが激しくなってきてしまい、なかなか見ていて楽しい。
満月が近付くと頭部の耳のような部分が少し目立つようになり、ピコピコと小さく揺れるのを揶揄うのも面白く、だんだんとバディアスは『獣人』という種族に慣れたように思う。
「……でも、まぁ……この子が『人間』と変わらない顔をしてるっていうのもあるかもなぁ」
「そうだな。しかも月の周期に合わせるように『獣人』の印も出たり消えたりする……やはり、あり得ないとは思うが……半獣人……いや、そんな文献を見たことも話してもらったこともないし……しかし、完全に『この種族の獣人である』という決定的なものがないんだよな……」
猫のような耳。
満月には身体を包んでしまう羽根。
最近気が付いたが尻の上にある突起がゆるりと伸びて尻尾のようにも見える。
しかも手を握りしめてその内側がフニフニとした弾力を増していく。
なのに顔が獣と化していく様子はない。
「あとさぁ……俺、最近気が付いたんだけど」
「何だ?」
「ここ」
バディアスがエルミナの前髪を上げると、額の中心がわずかに盛り上がっている。
「腫れ物か?!いつのまに?」
「いや、腫れとは違うっていうか……固いんだ、まるで骨みたいに……」
「骨?」
骨。
額にある骨。
それは──角のような。
まだ柔らかい髪の毛を持ち上げるほどでもないその膨らみだからこそか、シロンはまったく気が付かなかった。
しかもその湿りのおかげで夜に火を焚いても、燃え広がる心配はない。
「もうすぐで次の集落だ。王都にかなり近い『大魔素毒の森』の側にあるんだが……魔素毒の森から採れる物で受けられる恩恵も大きいんだが、厄介な依頼も多く受ける場所だ。今回は見つからないように確認をするだけですぐに出発する予定だから、お前もあまり近隣の村には立ち寄らないでくれ」
「大魔素毒……ね……王都のギルドでは『絶対に依頼がある時以外、依頼者と随従以外では立ち入らない』という誓約書を別に書かされたな。そんなに危険なのか?」
「危険……というか…うん、危険だな。どういうわけか王国中の瘴気が集約したような状態で、なのに結界があるかのように、魔物はめったに森の外には出てこない。逆にそういう状態だからこそどんどん魔素毒が集まって……『ダンジョン』っていうのは魔素毒のせいで地下に迷宮ができるんだが、それが森の中にできている状態だな。だからダンジョンと違ってディーヴァント一族がいなければ入ったが最後、出てくることはほぼできないと言われている」
「『言われている』って……出てきた奴がそう言っているのか?」
「出てきた奴はいるんだが……迷った末、出た先はまったく違う地方の森で、自分がどこにいるかわからなかったらしい。たまたまその時管理していたディーヴァントの者が森に伐採に訪れたために、魔物の餌食になる前に一緒に出られたんだ。たぶんその話をわざと大袈裟に広めたんだと思うけどな」
「へぇ~…………それって、いつの話?」
「ん?俺も父さ…父親に聞いただけだから……ざっと三百年以上前としか」
つまりそれより前よりずっと魔素毒の森はあり、それを管理しているディーの一族もずっと前から管理しており──気の遠くなるような歴史の源流にいるのかもしれない。
バディアスはそう考え、少しばかりゾッとした気分になる。
その言葉通り、『もうすぐ』とシロンが話した集落には二日後に到着した。
赤ん坊には移動しっぱなしであまり快適とは言えない日々だったはずなのに、エルミナはほとんどグズることなく機嫌よく過ごしてくれたのが、救いといえば救いだった。
しかもその間に驚くほど成長し──立って歩くことはまだできないが、少なくともひとりで座ったりコロンと寝返りを打ったりハイハイしたりと動きが激しくなってきてしまい、なかなか見ていて楽しい。
満月が近付くと頭部の耳のような部分が少し目立つようになり、ピコピコと小さく揺れるのを揶揄うのも面白く、だんだんとバディアスは『獣人』という種族に慣れたように思う。
「……でも、まぁ……この子が『人間』と変わらない顔をしてるっていうのもあるかもなぁ」
「そうだな。しかも月の周期に合わせるように『獣人』の印も出たり消えたりする……やはり、あり得ないとは思うが……半獣人……いや、そんな文献を見たことも話してもらったこともないし……しかし、完全に『この種族の獣人である』という決定的なものがないんだよな……」
猫のような耳。
満月には身体を包んでしまう羽根。
最近気が付いたが尻の上にある突起がゆるりと伸びて尻尾のようにも見える。
しかも手を握りしめてその内側がフニフニとした弾力を増していく。
なのに顔が獣と化していく様子はない。
「あとさぁ……俺、最近気が付いたんだけど」
「何だ?」
「ここ」
バディアスがエルミナの前髪を上げると、額の中心がわずかに盛り上がっている。
「腫れ物か?!いつのまに?」
「いや、腫れとは違うっていうか……固いんだ、まるで骨みたいに……」
「骨?」
骨。
額にある骨。
それは──角のような。
まだ柔らかい髪の毛を持ち上げるほどでもないその膨らみだからこそか、シロンはまったく気が付かなかった。
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