今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

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~隠里中継編~

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うっかりくちを滑らせてしまったと後悔する様子を見せていたバディアスだったが、思いのほか赤ん坊の面倒をよく看てくれる。
最初からこうすればよかったと思わないでもないが、初めの頃はエルミナが獣人の赤ん坊ということで手を出そうとしなかったし、寝ているだけを見守ったり、スリングを無理やり押しつけて抱っこを替わってもらったりと責任を持たせてきた効果だろうと思っていた。
しかしそれにしては昨日は普通にエルミナに接し、しかも風呂に入れるのにも抵抗は見せなかったのは、一体どうしたことか──
ふと思いついてエルミナの髪を梳かそうと思ったのは、何の気紛れだろう。
ペタリと触れた柔らかい赤ん坊らしいその髪の毛には違和感がなく、それが違和感だ。
慌てて身体のあちこちをひっくり返すように見れば、エルミナの背中に羽根の痕はほとんどなく、尻尾もほぼ無い。
「こ、れ……?」
「あ~……やっぱり気が付いてなかったかぁ……」
バディアスがニヤニヤと笑いながら、手にエールの瓶を持って小あがりに上がってきた。
「ここ数日……か?何かバランスがおかしかったんだ。よくわからんけど……妙に人間臭いっていうか……耳がほとんど小さくなってるのに気が付いたのは、風呂で頭洗ってる時かな……?羽根の痕もだんだんと消えてるみたいだったけど……このまま、この子は人間みたいになる……のか?」
「どう……なんだろうな?ディーヴァント一族の中でも獣人と意思疎通した記録がないんだ。ましてや半人半獣なのか、まったく違うモノなのかすらわからないし、このまま成長していってどういう姿に育つのかも……」
特に恐ろしいとは思わないが、想像が追いつかないのも事実だ。
「でもなぁ……」
「まぁ……いいんじゃないか?」
「だよなぁ……」
シロンもバディアスもそんなに深刻ではないというか、何か諦観を感じるような気の抜けた笑いを浮かべ、お互いの顔を見る。
「何だろうな……エルミナの血と涙のせいか?ものすごく可愛いんだ……性的な意味ではなくて、本当に……俺、ひとりっ子だし……いや、違うわ。父親の方にはバカみたいに兄姉がいるけど、母親の方には親戚って本当に少なかったから身近な女の子っていうアレじゃなく……うん、何て言っていいかわからんが、可愛い……」
「気にするな。たぶん俺の方が、普通の人間関係は希薄だ。それでもやっぱり可愛い。娘として……って言っても、娘どころか幼馴染みの女の子がいたわけでもないし、母に感じる愛おしさとも違う感じだけど、うん、可愛いんだ……不思議だ」
けっきょくよくわからないまま酒が進み、一度は目が覚めたエルミナにバディアスが離乳食を食べさせ、もっと欲しがるところをミルクを飲ませるという理不尽な食事風景をシロンが眺めつつ、自分たちが食べるつまみをもっと作り、おしめを変えるなどして寝かせてまた酒と「可愛いよな」というふたりの呟きが繰り返された。

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