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~隠里中継編~
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実はシロンにとってこの森でガランの葉を採取したことは、ある実験を行う上で最適な方法だった。
数時間ふたりきりでいるよりも、風呂に入れるぐらいはできるようになってきたバディアスにエルミナを任せ、屋根裏の明かり窓のある部屋へと葉のぎっしり詰まった鞄を上げる。
人間は乗れない貨物専用の小さな荷揚げ機に乗せてスイッチを押すと微かな稼働音がするが、鉱山などで使う大型の物とは違って石炭や魔石を使った火力によるものではなく、やはり太陽光で動くものなのでかなり静かで離れた風呂場に音が響くことはまったくない。
ついでに風呂上りに飲ませる湯冷ましや『適当に摘まめ』というメモと共にアルコール度数がほとんどない大人用の水分補給物とつまみを用意し、シロン自身は自分の足で屋根裏に上がった。
いつまでそうしていたのか、だいたいの大きさを揃える頃にはもう夕方から夜になってしまい、階下はずいぶん静かである。
また飲み潰れてもいいようにと、小あがりにはすでに大小の布団を敷いておいたから、ひょっとしたらもう寝ているのかもしれない──そう思いながら足音を殺して降りると、バディアスが静かに本を読みながらグラスを傾けていた。
「何だ、まだ起きていたのか?」
「こんな薄っすい酒で潰れねぇよ」
ニヤッと笑うバディアスの傍らでは、スゥスゥと大人しく眠るエルミナがいる。
「じゃあ、俺も風呂に入るか。強いのが飲みたかったら、冷蔵庫の下に入っている」
「冷……あの冷たい箱な」
「ああ、凍っている方じゃない。茶色い瓶のやつ」
「あ、エールみたいな瓶か。薬かと思って手を出しちゃいけないんだと思ってた」
「まさしくそのエールだよ」
「マジかっ!!こっちでは発泡酒は見たことなかったからな~」
さっそく今まで飲んでいた酒を飲み干し、バディアスはそぉっと音を立てないように移動する。
大人ふたりがそれぞれ赤ん坊を起こさないようにと行動するおかしさを自覚しつつ、シロンはひらひらと手を振って浴室へと向かった。
さすがに湯は冷めていたので、温泉と一緒に給水塔に貯めておいた熱い湯を浴槽に足しながら、洗い場ではちゃんと真水を沸かした湯で使って身体と髪を洗う。
さっきまでいた魔素毒の森の匂いだけでなく、仕分けていたガランの葉の青臭い匂い迄染みついているように感じ、いつも以上に念入りに洗った。
家だけでなくこの集落全体に結界を張っているから、人間だけでなく匂いに敏感な獣人も近寄ってこないとは思うが、用心に越したことはない。
ザバザバと湯が溢れるが気にせず、思いがけない魔素毒の森での労働をこなした自分を労わり、今夜は贅沢に湯を使うことにした。
エルミナと一緒ではない入浴は久しぶりで、こんなに開放感があるものかと思いながら、少しだけ寂しさも感じるのは父親代わりがもう身に染みているのかもしれない。
数時間ふたりきりでいるよりも、風呂に入れるぐらいはできるようになってきたバディアスにエルミナを任せ、屋根裏の明かり窓のある部屋へと葉のぎっしり詰まった鞄を上げる。
人間は乗れない貨物専用の小さな荷揚げ機に乗せてスイッチを押すと微かな稼働音がするが、鉱山などで使う大型の物とは違って石炭や魔石を使った火力によるものではなく、やはり太陽光で動くものなのでかなり静かで離れた風呂場に音が響くことはまったくない。
ついでに風呂上りに飲ませる湯冷ましや『適当に摘まめ』というメモと共にアルコール度数がほとんどない大人用の水分補給物とつまみを用意し、シロン自身は自分の足で屋根裏に上がった。
いつまでそうしていたのか、だいたいの大きさを揃える頃にはもう夕方から夜になってしまい、階下はずいぶん静かである。
また飲み潰れてもいいようにと、小あがりにはすでに大小の布団を敷いておいたから、ひょっとしたらもう寝ているのかもしれない──そう思いながら足音を殺して降りると、バディアスが静かに本を読みながらグラスを傾けていた。
「何だ、まだ起きていたのか?」
「こんな薄っすい酒で潰れねぇよ」
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「冷……あの冷たい箱な」
「ああ、凍っている方じゃない。茶色い瓶のやつ」
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「まさしくそのエールだよ」
「マジかっ!!こっちでは発泡酒は見たことなかったからな~」
さっそく今まで飲んでいた酒を飲み干し、バディアスはそぉっと音を立てないように移動する。
大人ふたりがそれぞれ赤ん坊を起こさないようにと行動するおかしさを自覚しつつ、シロンはひらひらと手を振って浴室へと向かった。
さすがに湯は冷めていたので、温泉と一緒に給水塔に貯めておいた熱い湯を浴槽に足しながら、洗い場ではちゃんと真水を沸かした湯で使って身体と髪を洗う。
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ザバザバと湯が溢れるが気にせず、思いがけない魔素毒の森での労働をこなした自分を労わり、今夜は贅沢に湯を使うことにした。
エルミナと一緒ではない入浴は久しぶりで、こんなに開放感があるものかと思いながら、少しだけ寂しさも感じるのは父親代わりがもう身に染みているのかもしれない。
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