今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
75 / 109
~隠里中継編~

14

しおりを挟む
実はシロンにとってこの森でガランの葉を採取したことは、ある実験を行う上で最適な方法だった。
数時間ふたりきりでいるよりも、風呂に入れるぐらいはできるようになってきたバディアスにエルミナを任せ、屋根裏の明かり窓のある部屋へと葉のぎっしり詰まった鞄を上げる。
人間は乗れない貨物専用の小さな荷揚げ機に乗せてスイッチを押すと微かな稼働音がするが、鉱山などで使う大型の物とは違って石炭や魔石を使った火力によるものではなく、やはり太陽光で動くものなのでかなり静かで離れた風呂場に音が響くことはまったくない。
ついでに風呂上りに飲ませる湯冷ましや『適当に摘まめ』というメモと共にアルコール度数がほとんどない大人用の水分補給物とつまみを用意し、シロン自身は自分の足で屋根裏に上がった。

いつまでそうしていたのか、だいたいの大きさを揃える頃にはもう夕方から夜になってしまい、階下はずいぶん静かである。
また飲み潰れてもいいようにと、小あがりにはすでに大小の布団を敷いておいたから、ひょっとしたらもう寝ているのかもしれない──そう思いながら足音を殺して降りると、バディアスが静かに本を読みながらグラスを傾けていた。
「何だ、まだ起きていたのか?」
「こんな薄っすい酒で潰れねぇよ」
ニヤッと笑うバディアスの傍らでは、スゥスゥと大人しく眠るエルミナがいる。
「じゃあ、俺も風呂に入るか。強いのが飲みたかったら、冷蔵庫の下に入っている」
「冷……あの冷たい箱な」
「ああ、凍っている方じゃない。茶色い瓶のやつ」
「あ、エールみたいな瓶か。薬かと思って手を出しちゃいけないんだと思ってた」
「まさしくそのエールだよ」
「マジかっ!!こっちでは発泡酒は見たことなかったからな~」
さっそく今まで飲んでいた酒を飲み干し、バディアスはそぉっと音を立てないように移動する。
大人ふたりがそれぞれ赤ん坊を起こさないようにと行動するおかしさを自覚しつつ、シロンはひらひらと手を振って浴室へと向かった。

さすがに湯は冷めていたので、温泉と一緒に給水塔に貯めておいた熱い湯を浴槽に足しながら、洗い場ではちゃんと真水を沸かした湯で使って身体と髪を洗う。
さっきまでいた魔素毒の森の匂いだけでなく、仕分けていたガランの葉の青臭い匂い迄染みついているように感じ、いつも以上に念入りに洗った。
家だけでなくこの集落全体に結界を張っているから、人間だけでなく匂いに敏感な獣人も近寄ってこないとは思うが、用心に越したことはない。
ザバザバと湯が溢れるが気にせず、思いがけない魔素毒の森での労働をこなした自分を労わり、今夜は贅沢に湯を使うことにした。
エルミナと一緒ではない入浴は久しぶりで、こんなに開放感があるものかと思いながら、少しだけ寂しさも感じるのは父親代わりがもう身に染みているのかもしれない。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...