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~隠里中継編~
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とりあえず魔素毒の森の外周だけを回って、ガランの葉を採取しておいた方がいい部分を確認する。
シロンが来れなかった間にずいぶんと成長したらしく、確かにだいぶ手入れが必要な状態だった。
「ふーん……これが問題の葉っぱかぁ」
バディアスが何も考えずに手を伸ばし、スッと枝から離れて指の間に収まる葉に少し驚いた表情をした。
特に葉を捻ったわけでも引っ張ったわけでもないのに、まるで元からそこにあるのが当たり前のような感覚になるからである。
「え~……?」
「聞く前に触るなよ。今は手袋をしているから影響がないが、素手で触ったら痺れてしばらくは動かなくなるんだからな」
そういうシロンもいつもは着けない薄皮の手袋をした指を伸ばし、触れはするけれど摘ままないようにと慎重に表面だけを触った。
「……ふむ。覚えておいてくれ。このぐらいの大きさまでの葉なら、万が一触れても大丈夫だ。感覚が鈍くなる程度で、すぐ元に戻る。今お前が手にしているのより大きいと、大きさによって痺れ具合と動かなくなる感覚が長引く。一番大きい葉で半日ぐらいだな」
「え?痺れる?だけ?そんなんで金儲けって……」
バディアスは魔素毒を含んだ葉が引き起こすにしては微妙な効果に首を捻ったが、それでもかなり用途はある。
本当に薄い効果の物は乾かして葉を砕き、お茶のようにして飲むことで筋肉の緊張を緩やかにほぐす。
もう少し毒のある物ならばそのまま擂り潰し、食用油や膏薬などに混ぜて痛み止めとして使用する。
手術などを行う際に麻酔薬として直接肌に塗ることもできるため、医師たちが王宮に使用許可をもらって求めることもある。
そして一番毒の強い物は──
「主に拷問などだな。感覚のない手足を見ている目の前で落とすとか。逆に拷問で負った傷口に練り込んで感覚を奪い、奴隷に落とすための契約をさっさとするとか。目に塗れば半日暗闇の中にいることになるが……あれは怖い」
「……な、何だよ……お前、まさか……っ」
しみじみと実感を込めてシロンが言うと、バディアスが慄いたように身体を竦める。
「いや、拷問じゃなくて。うっかりガランの葉を摘んだ手袋で目を擦ったんだ。『小さくてかわいい葉だけを摘むんだ』と言われていたからよかったものの……初めはまったく見えなくなって、しばらくしてボンヤリと薄明るくなった。輪郭が戻るまでには陽が落ちて、完全に戻ったのはけっきょく翌朝だったな」
「え……でも、半日だけなんだろう?目が見えないのは」
さっき聞いたことと矛盾している気がして、バディアスは手に持った葉を揺らしたまま尋ねた。
「そりゃ効果が出て見えなくなるのはすぐだが、逆に効果が切れて見えるようになるまでの時間が長いんだ。半日暗闇にいて、半日うすぼんやりとなって……たぶん完全に見えるように元通りになるのに三日はかかるものらしい。朝起きて目に薬を塗られて暗闇の中で拷問され、少し見えてきたと思ったら翌朝にはまた薬を塗られ……『暗闇刑』っていうんだが」
「あ……それってそう言う意味か!てっきり俺は目隠しかなんかするのかと……」
「目隠し布が取れてしまったら、刑罰に対する恐怖心が薄れてしまうからという理由らしい。やる方はどんな理由でもいいから、拷問される方の心に大きな負荷を掛けたいと思うものみたいだ」
「……残酷だな」
おそらくバディアスはそちらには関わってこなかったらしく、顔を青褪めて身震いした。
シロンもできればそういったことを知りたくはなかったが、父に注意されていたにも関わらずに起こしてしまった失敗に対し、さらに注意する意味も込めてかなりキツイ話をされて育った意味が、今ではよくわかる。
シロンが来れなかった間にずいぶんと成長したらしく、確かにだいぶ手入れが必要な状態だった。
「ふーん……これが問題の葉っぱかぁ」
バディアスが何も考えずに手を伸ばし、スッと枝から離れて指の間に収まる葉に少し驚いた表情をした。
特に葉を捻ったわけでも引っ張ったわけでもないのに、まるで元からそこにあるのが当たり前のような感覚になるからである。
「え~……?」
「聞く前に触るなよ。今は手袋をしているから影響がないが、素手で触ったら痺れてしばらくは動かなくなるんだからな」
そういうシロンもいつもは着けない薄皮の手袋をした指を伸ばし、触れはするけれど摘ままないようにと慎重に表面だけを触った。
「……ふむ。覚えておいてくれ。このぐらいの大きさまでの葉なら、万が一触れても大丈夫だ。感覚が鈍くなる程度で、すぐ元に戻る。今お前が手にしているのより大きいと、大きさによって痺れ具合と動かなくなる感覚が長引く。一番大きい葉で半日ぐらいだな」
「え?痺れる?だけ?そんなんで金儲けって……」
バディアスは魔素毒を含んだ葉が引き起こすにしては微妙な効果に首を捻ったが、それでもかなり用途はある。
本当に薄い効果の物は乾かして葉を砕き、お茶のようにして飲むことで筋肉の緊張を緩やかにほぐす。
もう少し毒のある物ならばそのまま擂り潰し、食用油や膏薬などに混ぜて痛み止めとして使用する。
手術などを行う際に麻酔薬として直接肌に塗ることもできるため、医師たちが王宮に使用許可をもらって求めることもある。
そして一番毒の強い物は──
「主に拷問などだな。感覚のない手足を見ている目の前で落とすとか。逆に拷問で負った傷口に練り込んで感覚を奪い、奴隷に落とすための契約をさっさとするとか。目に塗れば半日暗闇の中にいることになるが……あれは怖い」
「……な、何だよ……お前、まさか……っ」
しみじみと実感を込めてシロンが言うと、バディアスが慄いたように身体を竦める。
「いや、拷問じゃなくて。うっかりガランの葉を摘んだ手袋で目を擦ったんだ。『小さくてかわいい葉だけを摘むんだ』と言われていたからよかったものの……初めはまったく見えなくなって、しばらくしてボンヤリと薄明るくなった。輪郭が戻るまでには陽が落ちて、完全に戻ったのはけっきょく翌朝だったな」
「え……でも、半日だけなんだろう?目が見えないのは」
さっき聞いたことと矛盾している気がして、バディアスは手に持った葉を揺らしたまま尋ねた。
「そりゃ効果が出て見えなくなるのはすぐだが、逆に効果が切れて見えるようになるまでの時間が長いんだ。半日暗闇にいて、半日うすぼんやりとなって……たぶん完全に見えるように元通りになるのに三日はかかるものらしい。朝起きて目に薬を塗られて暗闇の中で拷問され、少し見えてきたと思ったら翌朝にはまた薬を塗られ……『暗闇刑』っていうんだが」
「あ……それってそう言う意味か!てっきり俺は目隠しかなんかするのかと……」
「目隠し布が取れてしまったら、刑罰に対する恐怖心が薄れてしまうからという理由らしい。やる方はどんな理由でもいいから、拷問される方の心に大きな負荷を掛けたいと思うものみたいだ」
「……残酷だな」
おそらくバディアスはそちらには関わってこなかったらしく、顔を青褪めて身震いした。
シロンもできればそういったことを知りたくはなかったが、父に注意されていたにも関わらずに起こしてしまった失敗に対し、さらに注意する意味も込めてかなりキツイ話をされて育った意味が、今ではよくわかる。
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