71 / 109
~隠里中継編~
10
しおりを挟む
とりあえずは調査のためにひとりで出かけると言ったのに、赤ん坊とふたりきりは不安だと言い返してきたバディアスは、今はご機嫌でシロンの代わりに荷馬車を操っている。
「ふふふ~ん♪」
「……何が楽しいんだか。俺が正式に魔素毒の森への護衛依頼を出しても、まともな冒険者は尻ごむっていうのに……」
「え?だって『魔素毒の森』だぜ?未知なる森!入ったら最後、出るにはディー一族の加護がなければ生きては出られない!……そんな場所に金で雇われたんじゃなくて、『仲間』として同行する!冒険者人生において『ダンジョンマスター攻略』とか、『伝説の魔王討伐』ぐらいのインパクトがあるんだぞ?!」
「仲間って……まあ、仲間でいいけど、一応お前のことは護衛雇用として賃金は払うつもりだぞ?」
「え?あれ冗談じゃなかったの?マジで?!」
何故だかバディアスは『シロンに雇われた護衛』という直接雇用をサッパリと忘れていたことに、逆にシロンは驚いた。
考えてみたら、そのあたりをきちんと話した覚えもない。
近いうちにちゃんとそのあたりを話して決めねばならないだろう。
「まあ……それはいいとして……『入ったら最後』?出られないわけではないが……」
「うーん……そうなんだけどさ。それでもやっぱりあの森は禁足だって、俺らの国では言われているぞ?入り口付近ならともかく、奥まで行くと道に迷って出られないって」
「あー……あぁ、そう…かもな……森に生えているモノによっては人間を取り込んでしまったり、魔物の餌になったりするし……」
「獣人に喰われたり?」
「あ、それはない」
「はぇ?」
嫌悪感と怯えを込めて話すバディアスに向かって、シロンはあっさりと言い伝えを否定した。
「そうか……この国ではもう獣人が人を襲うことはあったとしても、『捧げ物』として何割か魔物の死体を置いていく『共存共栄』の決まりを守らなかった場合だとわかっている。だいたい獣人の口に人間の肉は合わないらしくて、魔素毒と魔物の血の匂いをつけた人間は単に嬲り殺されるだけだ。それを喰らうのはけっきょく魔物さ」
「そ……そう、なのか……『捧げ物』ってのは……?」
「ひとつは『魔石も討伐部位も丸ごと残した魔物』、ひとつは『魔石を抜いたとしても討伐部位を切り取らない魔物』……討伐したうちの二割ほどのそれらをその場に残しておくことだ。ラウナ国でも冒険者ギルドなんかで依頼を受けたら説明されるはずだけどな……」
「あ~……ディー一族の依頼に関しては王宮から特定の冒険者たちが付けられるんだ。何でも隠匿しなければいけないことが多い…と……か……って!それかぁ!!」
何か思い当たったようで、バディアスは髪をガシガシとかき乱す。
「国によっていろいろ扱いが変わるんだな……まあ、ディーヴァント一族の仕事や魔素毒で採取される物の加工なんかは門外不出のものが多いし、それらはこの世のどんな権力にも屈することなく守られてきた不可侵のものだし……そういう待遇でディーヴァント一族の恩恵を独占するような国があってもおかしくはない」
「独占……?」
言葉は強いかもしれないが、実際王政だけでなくどんな政治を用いていても、ディーヴァント一族の持つものを奪おうとしてもできないのならば、囲い込もうとする国は多い。
何せディーヴァントの血を引いてその知識を受け継いでいる者は、魔素毒の森から得られる様々に有益な物をすべて灰と塵に化すことができるのだから。
「ふふふ~ん♪」
「……何が楽しいんだか。俺が正式に魔素毒の森への護衛依頼を出しても、まともな冒険者は尻ごむっていうのに……」
「え?だって『魔素毒の森』だぜ?未知なる森!入ったら最後、出るにはディー一族の加護がなければ生きては出られない!……そんな場所に金で雇われたんじゃなくて、『仲間』として同行する!冒険者人生において『ダンジョンマスター攻略』とか、『伝説の魔王討伐』ぐらいのインパクトがあるんだぞ?!」
「仲間って……まあ、仲間でいいけど、一応お前のことは護衛雇用として賃金は払うつもりだぞ?」
「え?あれ冗談じゃなかったの?マジで?!」
何故だかバディアスは『シロンに雇われた護衛』という直接雇用をサッパリと忘れていたことに、逆にシロンは驚いた。
考えてみたら、そのあたりをきちんと話した覚えもない。
近いうちにちゃんとそのあたりを話して決めねばならないだろう。
「まあ……それはいいとして……『入ったら最後』?出られないわけではないが……」
「うーん……そうなんだけどさ。それでもやっぱりあの森は禁足だって、俺らの国では言われているぞ?入り口付近ならともかく、奥まで行くと道に迷って出られないって」
「あー……あぁ、そう…かもな……森に生えているモノによっては人間を取り込んでしまったり、魔物の餌になったりするし……」
「獣人に喰われたり?」
「あ、それはない」
「はぇ?」
嫌悪感と怯えを込めて話すバディアスに向かって、シロンはあっさりと言い伝えを否定した。
「そうか……この国ではもう獣人が人を襲うことはあったとしても、『捧げ物』として何割か魔物の死体を置いていく『共存共栄』の決まりを守らなかった場合だとわかっている。だいたい獣人の口に人間の肉は合わないらしくて、魔素毒と魔物の血の匂いをつけた人間は単に嬲り殺されるだけだ。それを喰らうのはけっきょく魔物さ」
「そ……そう、なのか……『捧げ物』ってのは……?」
「ひとつは『魔石も討伐部位も丸ごと残した魔物』、ひとつは『魔石を抜いたとしても討伐部位を切り取らない魔物』……討伐したうちの二割ほどのそれらをその場に残しておくことだ。ラウナ国でも冒険者ギルドなんかで依頼を受けたら説明されるはずだけどな……」
「あ~……ディー一族の依頼に関しては王宮から特定の冒険者たちが付けられるんだ。何でも隠匿しなければいけないことが多い…と……か……って!それかぁ!!」
何か思い当たったようで、バディアスは髪をガシガシとかき乱す。
「国によっていろいろ扱いが変わるんだな……まあ、ディーヴァント一族の仕事や魔素毒で採取される物の加工なんかは門外不出のものが多いし、それらはこの世のどんな権力にも屈することなく守られてきた不可侵のものだし……そういう待遇でディーヴァント一族の恩恵を独占するような国があってもおかしくはない」
「独占……?」
言葉は強いかもしれないが、実際王政だけでなくどんな政治を用いていても、ディーヴァント一族の持つものを奪おうとしてもできないのならば、囲い込もうとする国は多い。
何せディーヴァントの血を引いてその知識を受け継いでいる者は、魔素毒の森から得られる様々に有益な物をすべて灰と塵に化すことができるのだから。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる