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~隠里中継編~
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とりあえずは調査のためにひとりで出かけると言ったのに、赤ん坊とふたりきりは不安だと言い返してきたバディアスは、今はご機嫌でシロンの代わりに荷馬車を操っている。
「ふふふ~ん♪」
「……何が楽しいんだか。俺が正式に魔素毒の森への護衛依頼を出しても、まともな冒険者は尻ごむっていうのに……」
「え?だって『魔素毒の森』だぜ?未知なる森!入ったら最後、出るにはディー一族の加護がなければ生きては出られない!……そんな場所に金で雇われたんじゃなくて、『仲間』として同行する!冒険者人生において『ダンジョンマスター攻略』とか、『伝説の魔王討伐』ぐらいのインパクトがあるんだぞ?!」
「仲間って……まあ、仲間でいいけど、一応お前のことは護衛雇用として賃金は払うつもりだぞ?」
「え?あれ冗談じゃなかったの?マジで?!」
何故だかバディアスは『シロンに雇われた護衛』という直接雇用をサッパリと忘れていたことに、逆にシロンは驚いた。
考えてみたら、そのあたりをきちんと話した覚えもない。
近いうちにちゃんとそのあたりを話して決めねばならないだろう。
「まあ……それはいいとして……『入ったら最後』?出られないわけではないが……」
「うーん……そうなんだけどさ。それでもやっぱりあの森は禁足だって、俺らの国では言われているぞ?入り口付近ならともかく、奥まで行くと道に迷って出られないって」
「あー……あぁ、そう…かもな……森に生えているモノによっては人間を取り込んでしまったり、魔物の餌になったりするし……」
「獣人に喰われたり?」
「あ、それはない」
「はぇ?」
嫌悪感と怯えを込めて話すバディアスに向かって、シロンはあっさりと言い伝えを否定した。
「そうか……この国ではもう獣人が人を襲うことはあったとしても、『捧げ物』として何割か魔物の死体を置いていく『共存共栄』の決まりを守らなかった場合だとわかっている。だいたい獣人の口に人間の肉は合わないらしくて、魔素毒と魔物の血の匂いをつけた人間は単に嬲り殺されるだけだ。それを喰らうのはけっきょく魔物さ」
「そ……そう、なのか……『捧げ物』ってのは……?」
「ひとつは『魔石も討伐部位も丸ごと残した魔物』、ひとつは『魔石を抜いたとしても討伐部位を切り取らない魔物』……討伐したうちの二割ほどのそれらをその場に残しておくことだ。ラウナ国でも冒険者ギルドなんかで依頼を受けたら説明されるはずだけどな……」
「あ~……ディー一族の依頼に関しては王宮から特定の冒険者たちが付けられるんだ。何でも隠匿しなければいけないことが多い…と……か……って!それかぁ!!」
何か思い当たったようで、バディアスは髪をガシガシとかき乱す。
「国によっていろいろ扱いが変わるんだな……まあ、ディーヴァント一族の仕事や魔素毒で採取される物の加工なんかは門外不出のものが多いし、それらはこの世のどんな権力にも屈することなく守られてきた不可侵のものだし……そういう待遇でディーヴァント一族の恩恵を独占するような国があってもおかしくはない」
「独占……?」
言葉は強いかもしれないが、実際王政だけでなくどんな政治を用いていても、ディーヴァント一族の持つものを奪おうとしてもできないのならば、囲い込もうとする国は多い。
何せディーヴァントの血を引いてその知識を受け継いでいる者は、魔素毒の森から得られる様々に有益な物をすべて灰と塵に化すことができるのだから。
「ふふふ~ん♪」
「……何が楽しいんだか。俺が正式に魔素毒の森への護衛依頼を出しても、まともな冒険者は尻ごむっていうのに……」
「え?だって『魔素毒の森』だぜ?未知なる森!入ったら最後、出るにはディー一族の加護がなければ生きては出られない!……そんな場所に金で雇われたんじゃなくて、『仲間』として同行する!冒険者人生において『ダンジョンマスター攻略』とか、『伝説の魔王討伐』ぐらいのインパクトがあるんだぞ?!」
「仲間って……まあ、仲間でいいけど、一応お前のことは護衛雇用として賃金は払うつもりだぞ?」
「え?あれ冗談じゃなかったの?マジで?!」
何故だかバディアスは『シロンに雇われた護衛』という直接雇用をサッパリと忘れていたことに、逆にシロンは驚いた。
考えてみたら、そのあたりをきちんと話した覚えもない。
近いうちにちゃんとそのあたりを話して決めねばならないだろう。
「まあ……それはいいとして……『入ったら最後』?出られないわけではないが……」
「うーん……そうなんだけどさ。それでもやっぱりあの森は禁足だって、俺らの国では言われているぞ?入り口付近ならともかく、奥まで行くと道に迷って出られないって」
「あー……あぁ、そう…かもな……森に生えているモノによっては人間を取り込んでしまったり、魔物の餌になったりするし……」
「獣人に喰われたり?」
「あ、それはない」
「はぇ?」
嫌悪感と怯えを込めて話すバディアスに向かって、シロンはあっさりと言い伝えを否定した。
「そうか……この国ではもう獣人が人を襲うことはあったとしても、『捧げ物』として何割か魔物の死体を置いていく『共存共栄』の決まりを守らなかった場合だとわかっている。だいたい獣人の口に人間の肉は合わないらしくて、魔素毒と魔物の血の匂いをつけた人間は単に嬲り殺されるだけだ。それを喰らうのはけっきょく魔物さ」
「そ……そう、なのか……『捧げ物』ってのは……?」
「ひとつは『魔石も討伐部位も丸ごと残した魔物』、ひとつは『魔石を抜いたとしても討伐部位を切り取らない魔物』……討伐したうちの二割ほどのそれらをその場に残しておくことだ。ラウナ国でも冒険者ギルドなんかで依頼を受けたら説明されるはずだけどな……」
「あ~……ディー一族の依頼に関しては王宮から特定の冒険者たちが付けられるんだ。何でも隠匿しなければいけないことが多い…と……か……って!それかぁ!!」
何か思い当たったようで、バディアスは髪をガシガシとかき乱す。
「国によっていろいろ扱いが変わるんだな……まあ、ディーヴァント一族の仕事や魔素毒で採取される物の加工なんかは門外不出のものが多いし、それらはこの世のどんな権力にも屈することなく守られてきた不可侵のものだし……そういう待遇でディーヴァント一族の恩恵を独占するような国があってもおかしくはない」
「独占……?」
言葉は強いかもしれないが、実際王政だけでなくどんな政治を用いていても、ディーヴァント一族の持つものを奪おうとしてもできないのならば、囲い込もうとする国は多い。
何せディーヴァントの血を引いてその知識を受け継いでいる者は、魔素毒の森から得られる様々に有益な物をすべて灰と塵に化すことができるのだから。
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