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~隠里中継編~
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家に到着すると、とりあえず荷馬車に積んだ物を運び込むようにとシロンに言われたバディアスは、素直に子供用のベッドマットレスやら大人用の寝具などを運び込んだ。
その間に裏口の方に回ったシロンは、バディアスに教えるつもりがない通用口とは別のドアを開ける。
中は大人一人も立てないような狭い物置だったが、その床には村にあった箱と対になるものが置いてあった。
「えぇと……まあ、酒は全部入れておくか。お菓子……?赤ん坊用の物もあるが……まだ食べられないと思うが……うん?珍味?珍しいな、生の肉もあったのか。ちょうど狩猟の時期だったか……いい時に寄れたな」
独り言を言いながらシロンはまだ箱の中の物を取り出し、物置の棚に日用品の予備を置き、家の中に運び込む物と荷馬車に乗せる物とを分ける。
「こんなところか。それと……」
棚にあったのは今買ってきたものばかりでなく、魔素毒の森で採取したものを入れるための特別な箱や袋、樽などだ。
その中から袋をいくつか選び、広場に造られた共同の水浴び場へと運んで洗うために、手押しの荷車に乗せる。
陽はまだ高く、遅い昼食を食べた後でも洗浄には間に合うだろう──今回は採取でも最上級の品を収めるわけではないので、そんなに気を使わなくていい。
「あ~、とにかく腹減ったわ~……って。何?今から森に行くのか?」
何かを期待するような目でバディアスが顔を覗かせたが、まずは食事である。
さっきの村では冒険者ギルド以外は立ち寄らないこととして必要最低限の用事しか済ませず、バディアスにいろいろと買い物をしてもらいつつ村の情報を仕入れてもらった。
その報告ももらいたいし、暗くなる前に魔素毒の森の被害状況と村に必要な薬草の見当をつけておきたい。
「ガラン?堕胎薬の?」
いくら『時間を止める』ということがかのうなマジックボックスに入っていたとしても、村で買った新鮮な野菜は何となく瑞々しさが違う気がする。
そう思いながら勢いよく野菜サラダを口に放り込みながら、バディアスが確認するように訊ねた。
「まぁ……そういう使い方もされるけど、本来は下剤なんだよ」
「えっ?!」
使うのはガランの若い葉だ。
花が終わった頃に摘み取りそれを煎じて飲むと緩やかに催す薬となるが、大きく育ってしまった葉は毒が多く含まれ過ぎて、娼館や一部の闇医者が取り扱う堕胎薬として流通している。
シロンとしてはそんな物を取り扱いたくはないのだが、正しく処理しないと堕胎どころか母体の命まで奪いかねない劇薬であるため、その採取や保存方法を知られないためにもディーヴァント一族が管理せざるを得ない。
「そんなわけで誰かが金儲けしようとしてるんだが……着眼点は悪くないんだが、ディーヴァント一族の者でないという時点で破綻してる悪事なんだ」
「んで、悪者退治?」
「そうならないために、先回りして『金の素』をある程度刈り取っておく。変なことに自分の生命維持に危険なほど採取されると、それ以上は何があっても一枚も葉が取れなくなるんだ」
「はぁ~……」
よくわかったようなわからないような声でバディアスは返事をした。
その間に裏口の方に回ったシロンは、バディアスに教えるつもりがない通用口とは別のドアを開ける。
中は大人一人も立てないような狭い物置だったが、その床には村にあった箱と対になるものが置いてあった。
「えぇと……まあ、酒は全部入れておくか。お菓子……?赤ん坊用の物もあるが……まだ食べられないと思うが……うん?珍味?珍しいな、生の肉もあったのか。ちょうど狩猟の時期だったか……いい時に寄れたな」
独り言を言いながらシロンはまだ箱の中の物を取り出し、物置の棚に日用品の予備を置き、家の中に運び込む物と荷馬車に乗せる物とを分ける。
「こんなところか。それと……」
棚にあったのは今買ってきたものばかりでなく、魔素毒の森で採取したものを入れるための特別な箱や袋、樽などだ。
その中から袋をいくつか選び、広場に造られた共同の水浴び場へと運んで洗うために、手押しの荷車に乗せる。
陽はまだ高く、遅い昼食を食べた後でも洗浄には間に合うだろう──今回は採取でも最上級の品を収めるわけではないので、そんなに気を使わなくていい。
「あ~、とにかく腹減ったわ~……って。何?今から森に行くのか?」
何かを期待するような目でバディアスが顔を覗かせたが、まずは食事である。
さっきの村では冒険者ギルド以外は立ち寄らないこととして必要最低限の用事しか済ませず、バディアスにいろいろと買い物をしてもらいつつ村の情報を仕入れてもらった。
その報告ももらいたいし、暗くなる前に魔素毒の森の被害状況と村に必要な薬草の見当をつけておきたい。
「ガラン?堕胎薬の?」
いくら『時間を止める』ということがかのうなマジックボックスに入っていたとしても、村で買った新鮮な野菜は何となく瑞々しさが違う気がする。
そう思いながら勢いよく野菜サラダを口に放り込みながら、バディアスが確認するように訊ねた。
「まぁ……そういう使い方もされるけど、本来は下剤なんだよ」
「えっ?!」
使うのはガランの若い葉だ。
花が終わった頃に摘み取りそれを煎じて飲むと緩やかに催す薬となるが、大きく育ってしまった葉は毒が多く含まれ過ぎて、娼館や一部の闇医者が取り扱う堕胎薬として流通している。
シロンとしてはそんな物を取り扱いたくはないのだが、正しく処理しないと堕胎どころか母体の命まで奪いかねない劇薬であるため、その採取や保存方法を知られないためにもディーヴァント一族が管理せざるを得ない。
「そんなわけで誰かが金儲けしようとしてるんだが……着眼点は悪くないんだが、ディーヴァント一族の者でないという時点で破綻してる悪事なんだ」
「んで、悪者退治?」
「そうならないために、先回りして『金の素』をある程度刈り取っておく。変なことに自分の生命維持に危険なほど採取されると、それ以上は何があっても一枚も葉が取れなくなるんだ」
「はぁ~……」
よくわかったようなわからないような声でバディアスは返事をした。
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