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~隠里中継編~
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しばらくシロンは考えていたが、ちょいちょいと手首だけを動かしてバディアスを傍に呼んだ。
「あ?何だ?」
「これを握ってくれ」
誰も聞く者がいないはずなのに、シロンは口を動かさずに囁いてバディアスの手のひらに小さな石を乗せる。
何の変哲もない灰色の石だが──
「思いっきり、握り潰すぐらいの気持ちで握ってくれ」
「は?」
説明もされなかったが、シロン自ら石を力いっぱい握るのを見て、慌てて同じことをした。
ジッと待つこと数十秒──
「よし」
短く息を吐くと、そっと開いたシロンの手のひらには青みの強い緑色をメインに、オレンジと赤のマーブル模様の石がある。
バディアスも恐る恐る指を解くと、こちらは赤から青みがかった桃色のグラデーションの宝石のような石に変わっていた。
「な、な、な………?」
「これは魔素毒の森にある石なんだが……魔術師になるための儀式のひとつに、属性を審査する『魔球』と呼ばれる研磨された大きな玉がギルドにあるのを知っているよな?」
「あ、ああ……ギルドの大きさにもよるけど、確かあれはけっこうこーんな……」
そう言うとだいたい直径三十センチほどの大きな円を胸の前で描く。
ギルドの規模にもよるが、王宮にある魔術研究所には人では運べないほどの巨大な魔球が獣人奴隷たちによって運び込まれているが、大規模ギルドでも直径五十センチの威厳のある大きさ、小さな村にあるギルドなら持ち運びが簡単な十~十五センチぐらいの台座付きのものが必ずある。
「ああ、それぐらいだとどっかの地方の市か?試験でもない限りは人目に付かないところに置いてあると思うが……」
「ん?俺が見た時も確かに試験中……というか、適性検査中?終わったら布だけ被せてたけど?」
「……取り扱いの説明がされてないのか……それはいつの話だ?」
少し焦ったようにシロンが問いかけるのを不思議に思いながら、バディアスは指を折った。
「えぇ……と……三…四年前?いっぺん故郷に帰らなきゃいけなくて、そん時に稼いだ金をギルドに預ける時に立ち寄ったデカい町だったな……もうすぐ市として領主に認められそうだとかって」
「……マジか」
ガクリと首を折り、シロンはのろのろと説明を始めた。
「さっきも言ったが、それは魔素毒の森の石……いわゆる『魔球』の欠片のような物だ。森に埋まっているデカい石を掘り出し、研磨してギルドや王宮に収めるんだが……そんな小さな物でも判定はできる。ただし小さすぎるので、自分の持つ魔力のすべてが混じった状態になってしまうため、おおざっぱな属性しかわからない。俺は緑が大半だから『植物に関する魔術が得意』、お前は赤がほとんどだから『火系魔法に適している』ぐらいしかわからない」
「え?マジか?!そんなこと、言われたこともないけど……?」
「ということは、『火系魔法に耐性がある』のかもしれない。それを詳しく調べられるのが、だいたい三十センチ以上の大きさのものなんだ」
「はへぇ………」
「大きい物ならどんな人間でも魔力判定をしてくれるから、より詳しく職業が決められる。代わりに小さい物でしか判定していない奴は、『魔術師になれるほどの魔力があるかどうか』ぐらいしかわからない。たぶんお前も最初に小さい魔球で判定して、それ以降はやっていないんだろう?」
「あ、ああ……だって、やる必要はないだろう?」
冒険者になるのにどんな職業に適しているか──それを判定するテストはいろいろあるが、だいたい最初に量るのが『魔力の有無』である。
丸い石に手のひらをあてて、魔球が光るかどうか──それだけで魔術師の職に就けるかどうかが決められた。
光らなければ次は持久力、剣技、腕力といった体力測定となる。
バディアスもその試験では石が微かに赤く染まったが、『気のせい』と言われればそうとしか思えない変化だったので、魔術師としての適性はないものとして今まで生きてきた。
「……それは本当に『魔力量』の検査だな。実際はさっきみたいに石に力を流さないと、本当の保持魔力はわからないんだ」
「………はぇ?」
シロンが色の消えた石を弄びながら説明すると、バディアスは自分の手の中にある石をポトリと落とした。
「あ?何だ?」
「これを握ってくれ」
誰も聞く者がいないはずなのに、シロンは口を動かさずに囁いてバディアスの手のひらに小さな石を乗せる。
何の変哲もない灰色の石だが──
「思いっきり、握り潰すぐらいの気持ちで握ってくれ」
「は?」
説明もされなかったが、シロン自ら石を力いっぱい握るのを見て、慌てて同じことをした。
ジッと待つこと数十秒──
「よし」
短く息を吐くと、そっと開いたシロンの手のひらには青みの強い緑色をメインに、オレンジと赤のマーブル模様の石がある。
バディアスも恐る恐る指を解くと、こちらは赤から青みがかった桃色のグラデーションの宝石のような石に変わっていた。
「な、な、な………?」
「これは魔素毒の森にある石なんだが……魔術師になるための儀式のひとつに、属性を審査する『魔球』と呼ばれる研磨された大きな玉がギルドにあるのを知っているよな?」
「あ、ああ……ギルドの大きさにもよるけど、確かあれはけっこうこーんな……」
そう言うとだいたい直径三十センチほどの大きな円を胸の前で描く。
ギルドの規模にもよるが、王宮にある魔術研究所には人では運べないほどの巨大な魔球が獣人奴隷たちによって運び込まれているが、大規模ギルドでも直径五十センチの威厳のある大きさ、小さな村にあるギルドなら持ち運びが簡単な十~十五センチぐらいの台座付きのものが必ずある。
「ああ、それぐらいだとどっかの地方の市か?試験でもない限りは人目に付かないところに置いてあると思うが……」
「ん?俺が見た時も確かに試験中……というか、適性検査中?終わったら布だけ被せてたけど?」
「……取り扱いの説明がされてないのか……それはいつの話だ?」
少し焦ったようにシロンが問いかけるのを不思議に思いながら、バディアスは指を折った。
「えぇ……と……三…四年前?いっぺん故郷に帰らなきゃいけなくて、そん時に稼いだ金をギルドに預ける時に立ち寄ったデカい町だったな……もうすぐ市として領主に認められそうだとかって」
「……マジか」
ガクリと首を折り、シロンはのろのろと説明を始めた。
「さっきも言ったが、それは魔素毒の森の石……いわゆる『魔球』の欠片のような物だ。森に埋まっているデカい石を掘り出し、研磨してギルドや王宮に収めるんだが……そんな小さな物でも判定はできる。ただし小さすぎるので、自分の持つ魔力のすべてが混じった状態になってしまうため、おおざっぱな属性しかわからない。俺は緑が大半だから『植物に関する魔術が得意』、お前は赤がほとんどだから『火系魔法に適している』ぐらいしかわからない」
「え?マジか?!そんなこと、言われたこともないけど……?」
「ということは、『火系魔法に耐性がある』のかもしれない。それを詳しく調べられるのが、だいたい三十センチ以上の大きさのものなんだ」
「はへぇ………」
「大きい物ならどんな人間でも魔力判定をしてくれるから、より詳しく職業が決められる。代わりに小さい物でしか判定していない奴は、『魔術師になれるほどの魔力があるかどうか』ぐらいしかわからない。たぶんお前も最初に小さい魔球で判定して、それ以降はやっていないんだろう?」
「あ、ああ……だって、やる必要はないだろう?」
冒険者になるのにどんな職業に適しているか──それを判定するテストはいろいろあるが、だいたい最初に量るのが『魔力の有無』である。
丸い石に手のひらをあてて、魔球が光るかどうか──それだけで魔術師の職に就けるかどうかが決められた。
光らなければ次は持久力、剣技、腕力といった体力測定となる。
バディアスもその試験では石が微かに赤く染まったが、『気のせい』と言われればそうとしか思えない変化だったので、魔術師としての適性はないものとして今まで生きてきた。
「……それは本当に『魔力量』の検査だな。実際はさっきみたいに石に力を流さないと、本当の保持魔力はわからないんだ」
「………はぇ?」
シロンが色の消えた石を弄びながら説明すると、バディアスは自分の手の中にある石をポトリと落とした。
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