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~隠里中継編~
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代わり映えのしない荒野はどこまでも平和で、シロンは必要がない限りはどんなに小さくても集落には近付こうとはしなかった。
どうしても必要な時はバディアスに使いを頼んだが、シロンが言った通りほとんど買い物をする必要はないほど、荷馬車には何でもある。
さすがに野宿は赤ん坊にはキツいだろうと思ったが、シロンが組み立てるテントは畳まれた状態からは想像できないほど大きく、大人が四人はいっぺんに寝れそうな広さだったが、さらに簡易ベッドまで出されて仕切りの衝立もあるときては、バディアスはポカンと口を開けてしまった。
「……何なんだよ、ディーの一族って……」
「さあな。俺がその全てを理解する前に、父さんは逝ってしまったし。たぶん一番大きな集落に行けば、一族が回らなければならない魔素毒の森のために建てられている家のある場所はわかるはずだし、まあ……わからなくても、魔素毒の森付近に行けば勝手にわかるから大丈夫だ」
「勝手にわかるって……」
バディアスにしてみれば不安この上ない言葉のはずだが、シロンが言うからには何故か大丈夫だろうという気になった。
特に固いだけの保存食や味気のない焼いただけの肉ではなく、湯気の立つスープや冷たい水、柔らかいパンなどを目の前に出されると、『冒険者の常識』というものがバカバカしく思えてしまう。
「いや、確かにさ?マジックバッグやボックスには入れたその時のままの物があるとは聞いているよ?聞いてるけどさ……えらい高くて、魔力もそれなりにないと維持できないはずだろう?どんだけ高魔力持ちなんだよ、シロンは……」
「え?俺自身はそんなに?たぶん……まさかギルドで計測するわけにもいかないから、一般的な冒険者と同じぐらいだと思っているが……バディアスはどれくらいなんだ?」
「俺のは保存は効かない。鉄は錆びるし、肉は腐る。『物が入る』だけの物で、ほとんど魔力は使わない。じゃないと、いざって時にヘバっちまうぐらいに魔力がないからな」
「そ、そうか……じゃあ、お前を判断基準にはできないのか……」
「え?何?俺を基準にしようとしてたの?つぅか、普通、魔術師か錬金術師でもない限りは時間を止めるような高位のバッグとか持ってないからな?!ていうか、まず『保存のできるマジック・ボックス』って規格外を持ってる奴を見たことがないわ……」
おそらく国境をまたいで旅をする商業旅団でも、きっと保持しているのは『物を収納しておくだけ』の物だろうし、それだって付きっきりで魔術を付与できる者が数人いるはずだ。
しかしシロンの荷馬車にはそんなボックスがいくつもあり、料理も冷たい温かいがそのままの状態で保存されているなんて聞いたことがない。
確かにこれはディーヴァント一族にとって秘さなければならない物のひとつなのだろう。
すでにシロンが出してくれる料理や飲み物を口にしてしまっているバディアスは、契約魔法を交わしていることもあって、勝手に口外するつもりはないけれど──
どうしても必要な時はバディアスに使いを頼んだが、シロンが言った通りほとんど買い物をする必要はないほど、荷馬車には何でもある。
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