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~隠里中継編~
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「ん~~……?そういう時って、たいてい見た目より上なんだよな……俺が二十二歳で……お前さんの見た目二十五ぐらいだから……十歳年上の、三十五歳だろう!」
「年齢は二十五で合っている。見た目も。合わないのは……生きてきた年数」
「ん?んんっ????」
力強く答えたバディアスはシロンの答えに考え込み、その目に不信の色を強く帯びる。
「ディーヴァントの一族は十五歳で成人の儀を行った後から三年ごと、夏至か冬至のどちらかで歳を取る。その前にも子供の時点でも少しずつ成長する期間が普通の子供とズレてくる。五歳も差があるはずの父と母が同い年になるぐらいに」
「え……じゃ、じゃぁ……」
「さらに七十歳を過ぎると、十年ごとの夏至か冬至に歳を取る……俺自身は二十五歳だが、俺が生きてきた時間は五十年を超えている……ディーヴァント一族が他者と交わらず、謎に包まれてるっていうのはそういうわけさ」
ほぅと溜息をついてしまったのは、シロンにとってはあまり上げたくない話題だったからだろうか。
ちなみにまだ影響は出ていないが、シロンが作る食べ物や飲み物を摂取しているバディアス自身も、そのうち歳を取るのがゆっくりになっていくはずだ。
さすがに純粋なディーヴァント一族生まれのシロンとは違い、せいぜいが二年から三年未満の成長の遅れとなるはずである──かつての母のように。
「いったいいつから、誰が、こんなふうにしたのかはわからない。ディーヴァント一族の血のせいだとも、この流浪の生活のせいだとも、魔素毒の森の影響だとも……そのすべてだとも言われているが、誰も皆気にしていない。いや、いなかった…だな」
「いない……って」
「長寿は人を狂わせる。ディーヴァント一族は何故か狂わない。それは背負った使命のせいかもしれないし、元々無頓着なのかもしれないし、まあ……都合がいいっていうのもあるんだろうけれど」
「都合がいい?」
「魔素毒の森の成長は一定じゃない。不定期に起こることはめったにないが、周期がバラバラで、数週間から数十年という単位だ。森の拡がり方も、そこに生えている植物や発生する魔物のおかげで普通に生きていては対応できないこともある。だから次の世代にしっかりその情報を叩きこむためにも、俺たちには『長寿』というのは利用できるもののひとつでしかない。それだけの意味しかない」
「……じゃあ……それこそ、『普通の人』と婚姻するっていうのは……」
ゴクリとバディアスがつばを飲み込む。
夫や息子がゆっくりと成長したり、年老いていくのに、自分自身は恐ろしいぐらいの早さで老けていくのだ。
共に幾星霜と誓えど、そのうちに心変わりがあるかもしれない──そう思う恐怖に打ち勝つ自信は、自分にはない。
「まあ……よほど覚悟がないと。母は元々そんなに丈夫な人じゃなかったから、魔素毒の影響もあったんだとは思う……俺を産んで十年後に亡くなったよ。見た目は三歳ぐらいの俺を残して。その頃にはもうほとんど一族もいなくなって来たらしく、父と一緒に旅をしても、誰とも会わなかったな……」
「え……で、でも、あの家……ちゃんと明るくなったり、その…湯がちゃんと出たり……」
「ああ、なんかそういうのが半永久的に稼働する道具とかがあるらしいんだ。俺たち一家はそっちじゃなかったからよくわからないが……いずれは行く予定だ」
「ふぅん……じゃ、あ……親父さんは……」
「よくわからない……何か病気になって……けっこうアッサリと亡くなった。長寿を誇る一族のひとりなのにな。たぶん、他の人の半分ぐらいしか生きていないと思うけど……父さんは『やっと、母さんに追いつける』って最後に言ってから死んだよ」
愛し合っていたんだ。
お願い。私を想いすぎて、死なないで。シロンをお願い。ふたりで、生きて。私に後で話して。それまで、待ってるから。
逝くな。逝かないでくれ。ふたりっきりだ。シロンと三人で生きなきゃ、ダメなんだ。俺では教えられない、この世界のことを、もっと教えてやってくれ。
大丈夫。ふたりで見て来て。私の足では行けない、遠い遠い森の話を。国の話を。知らない言葉を。楽しみにしてる……
ああ。いつか。きっと。絶対。ディーヴァントの禁忌を使っても。君に話すよ。シロンの成長を見守っていて。俺たちを見守っていて……
すまない…シロン。俺はここまでしか、案内できなかった。お前と一緒に、もっと旅をしたかった。一族の地をすべて見せたかった。俺も見たかった。
大丈夫。俺が見てくるよ。全部。そうして、父さんと母さんを、一緒に眠らせるよ。安心してよ。大丈夫だよ。
「年齢は二十五で合っている。見た目も。合わないのは……生きてきた年数」
「ん?んんっ????」
力強く答えたバディアスはシロンの答えに考え込み、その目に不信の色を強く帯びる。
「ディーヴァントの一族は十五歳で成人の儀を行った後から三年ごと、夏至か冬至のどちらかで歳を取る。その前にも子供の時点でも少しずつ成長する期間が普通の子供とズレてくる。五歳も差があるはずの父と母が同い年になるぐらいに」
「え……じゃ、じゃぁ……」
「さらに七十歳を過ぎると、十年ごとの夏至か冬至に歳を取る……俺自身は二十五歳だが、俺が生きてきた時間は五十年を超えている……ディーヴァント一族が他者と交わらず、謎に包まれてるっていうのはそういうわけさ」
ほぅと溜息をついてしまったのは、シロンにとってはあまり上げたくない話題だったからだろうか。
ちなみにまだ影響は出ていないが、シロンが作る食べ物や飲み物を摂取しているバディアス自身も、そのうち歳を取るのがゆっくりになっていくはずだ。
さすがに純粋なディーヴァント一族生まれのシロンとは違い、せいぜいが二年から三年未満の成長の遅れとなるはずである──かつての母のように。
「いったいいつから、誰が、こんなふうにしたのかはわからない。ディーヴァント一族の血のせいだとも、この流浪の生活のせいだとも、魔素毒の森の影響だとも……そのすべてだとも言われているが、誰も皆気にしていない。いや、いなかった…だな」
「いない……って」
「長寿は人を狂わせる。ディーヴァント一族は何故か狂わない。それは背負った使命のせいかもしれないし、元々無頓着なのかもしれないし、まあ……都合がいいっていうのもあるんだろうけれど」
「都合がいい?」
「魔素毒の森の成長は一定じゃない。不定期に起こることはめったにないが、周期がバラバラで、数週間から数十年という単位だ。森の拡がり方も、そこに生えている植物や発生する魔物のおかげで普通に生きていては対応できないこともある。だから次の世代にしっかりその情報を叩きこむためにも、俺たちには『長寿』というのは利用できるもののひとつでしかない。それだけの意味しかない」
「……じゃあ……それこそ、『普通の人』と婚姻するっていうのは……」
ゴクリとバディアスがつばを飲み込む。
夫や息子がゆっくりと成長したり、年老いていくのに、自分自身は恐ろしいぐらいの早さで老けていくのだ。
共に幾星霜と誓えど、そのうちに心変わりがあるかもしれない──そう思う恐怖に打ち勝つ自信は、自分にはない。
「まあ……よほど覚悟がないと。母は元々そんなに丈夫な人じゃなかったから、魔素毒の影響もあったんだとは思う……俺を産んで十年後に亡くなったよ。見た目は三歳ぐらいの俺を残して。その頃にはもうほとんど一族もいなくなって来たらしく、父と一緒に旅をしても、誰とも会わなかったな……」
「え……で、でも、あの家……ちゃんと明るくなったり、その…湯がちゃんと出たり……」
「ああ、なんかそういうのが半永久的に稼働する道具とかがあるらしいんだ。俺たち一家はそっちじゃなかったからよくわからないが……いずれは行く予定だ」
「ふぅん……じゃ、あ……親父さんは……」
「よくわからない……何か病気になって……けっこうアッサリと亡くなった。長寿を誇る一族のひとりなのにな。たぶん、他の人の半分ぐらいしか生きていないと思うけど……父さんは『やっと、母さんに追いつける』って最後に言ってから死んだよ」
愛し合っていたんだ。
お願い。私を想いすぎて、死なないで。シロンをお願い。ふたりで、生きて。私に後で話して。それまで、待ってるから。
逝くな。逝かないでくれ。ふたりっきりだ。シロンと三人で生きなきゃ、ダメなんだ。俺では教えられない、この世界のことを、もっと教えてやってくれ。
大丈夫。ふたりで見て来て。私の足では行けない、遠い遠い森の話を。国の話を。知らない言葉を。楽しみにしてる……
ああ。いつか。きっと。絶対。ディーヴァントの禁忌を使っても。君に話すよ。シロンの成長を見守っていて。俺たちを見守っていて……
すまない…シロン。俺はここまでしか、案内できなかった。お前と一緒に、もっと旅をしたかった。一族の地をすべて見せたかった。俺も見たかった。
大丈夫。俺が見てくるよ。全部。そうして、父さんと母さんを、一緒に眠らせるよ。安心してよ。大丈夫だよ。
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