今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

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~隠里中継編~

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本当に魔素毒が薄れてしまっているのか、虫一匹出てこない平和な森での仮眠も終え、シロンは念のため荷馬車を置いていた位置に『惑いのこう』を振り撒いた。
薄黄色いその水は甘い匂いを一瞬だけ香らせたがすぐに消え、地面や草に当たるとジュッと焼けるような音を立てて、同じ色の煙をゆらりと立ち上らせる。
「……これは一応人にも獣にも魔物にも効果がある。昔お前が持って帰って怒られたという実が熟す前に絞った果汁が素だ」
「……いろいろあるんだな」
「ああ。熟す前の物も一応は甘い匂いがするんだが淡すぎるし、味が苦くて痺れる。それで寄って来るモノもいるんだろうが、中毒状態にまではならない。だからその状態の物を食べると『何か美味しそうな実を食べたが、どれだかわからない』と惑わせるんだ。で、さらに匂いが強くなって記憶を呼び覚ます……面倒なことをする魔素毒植物だよ」
「へぇ~~……」
聞いてもちんぷんかんぷんという顔をするバディアスに、シロンはそれでいいと思う。
あまり一族のことを口外されるのは困るのだ。

とはいえ──

万が一バディアスと袂を分かつようなことがあれば、それなりの対処・・・・・・・を考えねばならない。
「いや、いい」
「あん?」
「何でもない。とりあえず、これで誰かが不用意にここらに近付いたとしても目的を忘れる・・・・・・。半月も経てば効果はなくなるが、その頃には馬車があった形跡も消えるだろうし、『魔素毒の森』なんて物騒な場所に好き好んで近付く奴なんて、こうやって管理のために入るディーヴァント一族の者か、手っ取り早く金を稼ぎたい魔石探し中の冒険者のパーティーぐらいだ。それだってよっぽど手馴れてなきゃ、魔素毒の『匂い』をつけちまって、自分が『狩られる側』に回る」
「うひょぉ……嫌だね、俺はそんな死に方」
そんな死に方をする場所・・・・・・・・・・・だとわかってない奴が死ぬのさ」

それは冗談ではなく、真実。

シロンは自分たちがいた痕跡を消し、念入りに確認し、ようやくエルミナを抱き上げて荷馬車の御者台へ登った。
「次の家に着くまで……半月ぐらいだな。その間はほぼ野宿になるが、飯の心配はしなくていい。ただ、買い出しが必要になった場合、できればお前に頼みたいんだが……いいか?バディアス」
「んぁ?構わねーけど?………なんで?」
「………これも『言わなくていいこと』だったのかもしれないんだけどなぁ……俺はいったいいくつに見える?」
問われたバディアスは、じっくりとシロンの顔を見つめた。

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