今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

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~育児旅偏~

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この家にいる間に行わなければいけない更なる結界の強化の他、旅の準備に必要な物を揃えるため、敢えてバディアスには即効性の睡眠薬と疲労回復薬を混ぜたスープを飲ませた。
酒でもよかったのだが、前回の轍を踏まないよう敢えて食べ物に仕込んだが、どうやら正解だったようである。
「じゃあ、エルミナ…いや、『レシャ』と呼んだ方がいいのか?恥ずかしいな……母さんの名前なんて付けるもんじゃないのか……?」
真名である『エルミナ』を人前で呼ぶのは賢明でないため、誰かの記憶に残ってしまった場合を考えてミドルネームとして付けたが、考えてみたら母の名──バディアスに名前の由来を訊かれたら、笑われてしまいそうだが。
「う~ん……どうだろう……本当だったら、名付けた時から呼ばないと、反応しないのか……?」
そう思って試しに「レシャ」と呼びかけてみたが、『自分の名前』という認識よりも、『父が何か言っている』ぐらいの認識らしいとわかった。
「……しょうがない……エルミナ」
「んぅ?」
やはり反応が違う。
明らかに『エルミナ』が自分の名だとしっかり認識している。
今は仕方がないと諦めて、シロンはキョトンと自分を見上げる澄んだ目を見つめ、バディアスおじちゃんの側にいるようにと言い付けた。
赤ん坊がちゃんと聞きわけるとは思わないが、床を這って移動することができる以上、ちゃんと言うことが大切だと村長の妻が言っていた。
「念のため……」
部屋の隅にあるソファベッドを眠れるように整えてから体格的にそう変わらないバディアスを軽々と脇に抱えて運び、エルミナをその横に座らせると、見えない壁を作るための古代語呪文を半円形に床に書き記す。
「とりあえず父は他の家も見回って来るから、バディアスおじさん遊んでなさい」
何やら自分の手を弄って、赤ん坊にしかわからない遊びを始めたらしいエルミナは、シロンの方に顔を向けることなくコクンと頷くのを見届けてから、念のため封印の呪符を張って玄関を封鎖した。

今では現状を留めているのはシロンのいる家を除くと三軒が固まっているが、ひと気が無くなって久しいにも関わらず、室内は多少埃っぽいぐらいで、暮らすにはまだ十分に機能している。
「よし……危険な物はないな。<同族の霊よ。地の霊よ。名も無き旅する霊よ。この家を護らんことを。約束ある限りそなたらの安息の家として封印を守らん>」
紙ではなく、古代語が紡がれることで発揮される魔術陣サークルが浮かび上がり、光が消えると共に家の存在自体が希薄になるのを感じる。
同じように点検と呪文による封印を繰り返し、シロンは夜の闇に紛れるように自分たちの家に戻った。
この辺りも一応結界が張られて認識されづらいとはいえ、ランタンの灯など熱を発するものを見つけられてしまうことは避けたい。
自分が施した封印の呪符が破られていないことを確認すると、シロンはそっと扉を開けて室内に戻った。

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