今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
56 / 109
~育児旅偏~

8

しおりを挟む
この家にいる間に行わなければいけない更なる結界の強化の他、旅の準備に必要な物を揃えるため、敢えてバディアスには即効性の睡眠薬と疲労回復薬を混ぜたスープを飲ませた。
酒でもよかったのだが、前回の轍を踏まないよう敢えて食べ物に仕込んだが、どうやら正解だったようである。
「じゃあ、エルミナ…いや、『レシャ』と呼んだ方がいいのか?恥ずかしいな……母さんの名前なんて付けるもんじゃないのか……?」
真名である『エルミナ』を人前で呼ぶのは賢明でないため、誰かの記憶に残ってしまった場合を考えてミドルネームとして付けたが、考えてみたら母の名──バディアスに名前の由来を訊かれたら、笑われてしまいそうだが。
「う~ん……どうだろう……本当だったら、名付けた時から呼ばないと、反応しないのか……?」
そう思って試しに「レシャ」と呼びかけてみたが、『自分の名前』という認識よりも、『父が何か言っている』ぐらいの認識らしいとわかった。
「……しょうがない……エルミナ」
「んぅ?」
やはり反応が違う。
明らかに『エルミナ』が自分の名だとしっかり認識している。
今は仕方がないと諦めて、シロンはキョトンと自分を見上げる澄んだ目を見つめ、バディアスおじちゃんの側にいるようにと言い付けた。
赤ん坊がちゃんと聞きわけるとは思わないが、床を這って移動することができる以上、ちゃんと言うことが大切だと村長の妻が言っていた。
「念のため……」
部屋の隅にあるソファベッドを眠れるように整えてから体格的にそう変わらないバディアスを軽々と脇に抱えて運び、エルミナをその横に座らせると、見えない壁を作るための古代語呪文を半円形に床に書き記す。
「とりあえず父は他の家も見回って来るから、バディアスおじさん遊んでなさい」
何やら自分の手を弄って、赤ん坊にしかわからない遊びを始めたらしいエルミナは、シロンの方に顔を向けることなくコクンと頷くのを見届けてから、念のため封印の呪符を張って玄関を封鎖した。

今では現状を留めているのはシロンのいる家を除くと三軒が固まっているが、ひと気が無くなって久しいにも関わらず、室内は多少埃っぽいぐらいで、暮らすにはまだ十分に機能している。
「よし……危険な物はないな。<同族の霊よ。地の霊よ。名も無き旅する霊よ。この家を護らんことを。約束ある限りそなたらの安息の家として封印を守らん>」
紙ではなく、古代語が紡がれることで発揮される魔術陣サークルが浮かび上がり、光が消えると共に家の存在自体が希薄になるのを感じる。
同じように点検と呪文による封印を繰り返し、シロンは夜の闇に紛れるように自分たちの家に戻った。
この辺りも一応結界が張られて認識されづらいとはいえ、ランタンの灯など熱を発するものを見つけられてしまうことは避けたい。
自分が施した封印の呪符が破られていないことを確認すると、シロンはそっと扉を開けて室内に戻った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...