今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

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~旅立ち編~

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シロンからの要求に始めは渋っていた村長だったが、今やディーヴァント一族の姿を見たという情報がまったくないことを憂い、血筋をいまだに遺せていない自分の将来さきを考えてのことだという言葉に少しだけ考え込んでから、ようやく首肯してくれた。
「……あの子が本当にお前さんの子なら……」
「ハハ……嫁もいないのに、突然子供を授かるという荒唐無稽な話はないでしょう。いいんです。でも……やはり、本来はディーヴァントの一族ではない母がいたことぐらい残したとしても、父も祖父も嫌がりませんよ」
「うむ……それは私も、私の両親も……いや、お前にとってはもう覚えていないかもしれないが、お前のもう一組の祖父母だったんだ。あの人たちも、兄もきっとそう願うだろう」
そういえば、誰がバディアスを雇ったのか──それを追求したが、今のところはわかっていない。
「村の者か……出稼ぎに村を出ている者はいるが、お前さんがあの子を連れてきた時に戻ってきた者はいない……いや?わからんな……まあ、領都からそう離れてはいないから、知らんうちに帰ってきてまた出て行って……うぅむ……」
歯切れの悪さは村全体を掌握できていないかもしれないという焦燥感かもしれない。
「とにかく、次にまた俺があの子を連れて戻った時に、村長たちが忘れているといろいろ面倒なので……」
「そうだな。おい」
村長と向かい合って座っていたシロンが、そっとテーブルの上から防音の術を施した札を手のひらに隠すと、それを確認した村長はパンッとひとつ手を打った。
「誰か!奥様を……ああ、お前か」
そう言って顔を覗かせた若い娘に向かって他の使用人を遣わせるように言ってから、そのを招き入れる。
「ほとんど顔を合せなかったな。レイチャと言うんだが、この娘が次期村長だ。お前とは十歳ぐらい違うか……いとこ婚となってしまうが、他に兄弟でもいればお前さんとめあわせようかと思っていたんだが」
「辞めてくださいよ!二代続けて娘を失う・・・・なんて、悲しいでしょう……それに、母も幸せなばかりじゃなかった。父とふたりきり、俺とふたりきり……父がいても三人で寄りそっていたんだ。ここにはめったに帰ってこれなかった……普通に嫁入りするのとは、意味が違いすぎる」
「そうだな……」
村長の娘──レイチャは、黙ったまま自分の父と客人が話すことを黙って聞いていた。
チラリとその顔を見ると、何か遺恨があるかのように睨みつけてくる。
「……呼ばれました」
そっと気配を殺すように村長の妻が入ってきてサッと目線は伏せられたが、下から掬うようにやはりこちらを睨み続けてくるその娘に恨まれる覚えはなく、シロンは頭をひねるばかりだ。
そんな娘の様子をわかっているのかわからないが、シロンがまた札をテーブルの上に置くのを見てから、村長はふたりに向かって半透明の飴を差し出してかいつまんで事情を説明する。
「わかりました」
そう言って母が出された飴を疑問なく口に放り込み、微かな音を立てて噛み砕き、躊躇いもなく飲み込むのをレイチャは驚きの目で見つめた。
「どうした?」
「……何故……」
「うん?」
「何故!?何故っ、父様も母様も!こんな見も知らない者の話を鵜呑みにして……毒かもしれないものを平気で……あの人だって……」
突然激昂して、父が差し出す飴を払いのけると、レイチャは立ち上がって指を突き付ける。
「お前のせいで!お前があんな気持ちの悪い赤ん坊を、自分の慰み物をこれ見よがしに連れて!おかげで……あの人まで……おかしくなって……今もまだ、司祭様の元に閉じ込められたままなのよ!?」
シロンはその言葉に反論することができない。
あの子がどういうものであり、今後どうなるかわからないことは多いが──確かにエルミナを不用心にこの村に連れてきて人目に触れさせてしまったのは事実であるからだ。
「そのことについてはすまない……が、その後のことについては」
「うるさい!」
誰も止める間もなく、レイチャはシロンに向かってテーブルの上に置いてあった水差しの水を浴びせ、さらにその水差しまで投げつけた。
だがその水はともかく、水差しはシロンがふわりと受け止め、傷ひとつなくテーブルに戻される。
シロンだって手を打たなかったわけではなく、赤ん坊への執着やおかしな情欲を消し去るための秘薬も、村長の手を通してではあるが司祭監督の下に施しているのだ。
それをこの娘だって手伝っているのだ──レイチャの言うとおりに『恋人』があの中にいたのであれば。
「……お前の言う『あの人』とは、ガブスの息子のことだな?あいつにはもう三人も子供がいる。人の夫だ。いいかげん目を覚ませと言っているのに……」
「違うわ!あの人……あの人は騙されているのよ!本当なら、あの人がこの家を継ぐはずだったのに……なのに……あの女がっ!!ぐっ……」
何か変な薬でも飲んでいるのかと勘繰ってしまうほど目は血走り、シロンの方に掴みかかろうとテーブルに片足を乗せて身を乗り出したところに、逆にシロンはその頭を掴んで筒から直接『魔素毒の水』をその口に注ぎ込んでやった。
「ゲホッ!ガホッ!な…何をすっ…る……?あ……ら……?わ、わた………?」
「……やはり、何者かが手を出してきているみたいですね」
新月の水ではなく三日月の頃の水だったが効果はあったようで、レイチャは胸元を濡らしたままぼんやりとシロンに抱きかかえられている。
「そのようだな。何者かのぅ……とりあえず、この飴を食べなさい。それから落ち着いて話した方がよさそうじゃの。ほれ」
そう言われた娘は今度は抵抗せず、素直に飴を口に入れ、カシャリと淡い音を立てて噛み砕きながら嚥下した。
その様子を見て、村長自身も飴を噛み砕いて飲み込む。
「ひょっとしたら、先ほど飲ませた水のせいで効き目が薄いかもしれない。間違ってもあちらの『飴』を口にさせないようにしてください。念のためにもうひとつ保護の飴を渡したいのですが……手持ちがなくて」
それが嘘だということは村長もわかっている。
ディーヴァントの秘薬をおいそれと漏らすわけにはいかないからだ。
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