今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

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~旅立ち編~

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ようやく騒ぎが収まり、シロンは布に包まれてすやすやと眠るエルミナを抱え、バディアスが汗だくになってだらしなく寄りかかる簡易ベッドの方へやってきた。
「……ひとつ目の秘。この子の『正体』だ」
布の間から見える顔は安らかに眠る可愛い女の子だ。
しかし──
「け…獣耳けものみみ?」
それはたった一瞬。
布の下は裸だった赤ん坊は、バディアスがその頭頂近くで髪を持ち上げる三角状の部分を確かめようとする前に、あっという間に背中から白い羽を伸ばしてくるりと自分自身を包んでしまう。
「え?は、羽根……?そ、それに今、なんか尻尾みた、みたいな………」
ゴクリと唾を飲み込み、バディアスは恐る恐るシロンの腕の中の繭を差した。
「そ、その子……は……人間じゃ…なく、て………」
「たぶん……いや、間違いなく、どんな種族のものかはわからないが、獣人だ」
「でっ、ですよね───っ!?」
カクカクと顎を揺らし、先程とは違う意味で目を見開くバディアスを、シロンはおかしいとは思わない。

獣人族の膂力は、人間族をはるかに凌駕する。
故に、人はなるべく彼らに会わぬように、会ったとしても狩られぬように必死に抵抗する武器を持ち、そして隷属する術を会得した。
『人』と形容するのは人間に近しく二足歩行や、前足が人間のような手の形に酷似していることや、身体の形も似ていることに由来する。
だがその生態系や歴史、言語などはさっぱりわかっていないため、交流をはかって理解することもできない。
遭遇するのは成人状態の獣人ということもあり、一般的には赤ん坊や幼児がどのくらいの知能や膂力なのかなども、ほぼ知られていないのだ。
そんな未知のモノを目の前にして、恐怖を抱かない方がおかしい。
「だっだっだっだっだい…じょ……?」
「大丈夫だ。というか、さっきの酒を飲んでいる・・・・・から大丈夫だ」
「へ……?」
シロンにそう保証されてもバディアスは一気に酔いが醒めた顔で、今は綺麗に片付けられているテーブルの上に視線をさ迷わせ、またシロンの腕の中で羽根に包まれたソレ・・を見る。
「まあ……俺も拾った時にはちょっと大丈夫ではなかったんだが……すぐに対処法はわかったし、この状態なら薬酒を飲む必要も無いんだが……特にお前にはエルミナのことをちゃんと知っておいてもらわないと、契約が完了しないからな」
「え?」
「喜べ。本当に『今』が契約完了だ」
「え?え?え?」
シロンが指さすのは床の上──バディアスが踊っている最中に落ちてしまった古代語の呪文を刺繍された『契約布』は、先程とは違って淡く光っていた。

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