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~侵入者編~
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「……ん?」
あることに思い当たり、シロンは考え込んだ。
「どした?」
「いや……お前、『冒険者ギルド』で、この家…というか、俺のことを調べる依頼を受けたんだよな?」
「ああ。村の端っこにある空家にこっそり居座っているやつがいる。赤ん坊の泣き声らしき音も聞こえる。人攫いがねぐらにしてるんじゃないか、村中が心配しているから確認してくれ……だったか?そんな内容」
バディアスと名乗った男の依頼内容を聞いて、シロンはますます眉を顰めた。
確かにこの家は空家だった。
空家だったからこそ、シロンが滞在するためにと、村長から借り受けた『村長一族の家』である。
そもそも村には一ヶ月だけ滞在する予定が伸びているのは、赤ん坊の『魅了』に罹った大人たちの治癒を見守り、また村長の懇願もあって、半年どころかもうすぐ十ヶ月になるというのにまだ出立できないだけだ。
来た当時だって村長自ら村を見せて回ってくれたし──これはシロンが前回訪れてから十年も経ってしまい、新しく村に住むようになった者たちへの顔を見せておくための意味もあったのだが──赤ん坊に純粋な好意を寄せる子供たち以外はあまり近寄らなかったとはいえ、村長自身の知り合いで危険人物ではないことは十分知れていたはずである。
「……その『居座った』のがいつかとかは?」
「さあ?確か……いや、うん。『いつから』っていうか『いつの間にか』って言ってたような?」
「ここは村長に縁ある者が住んでいた家で、俺がこの家を借りたのは十ヶ月ほど前。村長に家に契約書があるし、そもそも俺は村長の妹の息子……つまり実の甥の、その息子」
「は?」
男の目が大きく見開かれた。
「ちょ…ちょ…ちょぉぉぉ───っと待て?待て待て待て待て?!?!」
バディアスは片手をシロンの前に突き出し、ガシガシと頭を掻いて依頼内容と今聞いた情報をすり合わせようと考えだした。
「……つまり。お前は元々この村に住んでいた?」
「いや」
「でも、村長と縁がある?」
「ああ」
「じゃ、お前の親は、どっか別の場所に住んでいる?」
「いや……うん。『住んでいる』というか。別々に」
そこでシロンは言い淀んだ。
これは──言っていいものなのか。
覚悟を決めるべきことかもしれない。
特に、この先のことを考えれば。
いろいろ考えこんで口を噤んだシロンに対し、男が先を促した。
「別々に?」
「……母親は、ここの村長家の墓地にいる。父の方は、これから向かう先にいる」
「あ、じゃあ、その親父さんのところに?」
「ああ。一緒に埋めてやるんだ」
あることに思い当たり、シロンは考え込んだ。
「どした?」
「いや……お前、『冒険者ギルド』で、この家…というか、俺のことを調べる依頼を受けたんだよな?」
「ああ。村の端っこにある空家にこっそり居座っているやつがいる。赤ん坊の泣き声らしき音も聞こえる。人攫いがねぐらにしてるんじゃないか、村中が心配しているから確認してくれ……だったか?そんな内容」
バディアスと名乗った男の依頼内容を聞いて、シロンはますます眉を顰めた。
確かにこの家は空家だった。
空家だったからこそ、シロンが滞在するためにと、村長から借り受けた『村長一族の家』である。
そもそも村には一ヶ月だけ滞在する予定が伸びているのは、赤ん坊の『魅了』に罹った大人たちの治癒を見守り、また村長の懇願もあって、半年どころかもうすぐ十ヶ月になるというのにまだ出立できないだけだ。
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「……その『居座った』のがいつかとかは?」
「さあ?確か……いや、うん。『いつから』っていうか『いつの間にか』って言ってたような?」
「ここは村長に縁ある者が住んでいた家で、俺がこの家を借りたのは十ヶ月ほど前。村長に家に契約書があるし、そもそも俺は村長の妹の息子……つまり実の甥の、その息子」
「は?」
男の目が大きく見開かれた。
「ちょ…ちょ…ちょぉぉぉ───っと待て?待て待て待て待て?!?!」
バディアスは片手をシロンの前に突き出し、ガシガシと頭を掻いて依頼内容と今聞いた情報をすり合わせようと考えだした。
「……つまり。お前は元々この村に住んでいた?」
「いや」
「でも、村長と縁がある?」
「ああ」
「じゃ、お前の親は、どっか別の場所に住んでいる?」
「いや……うん。『住んでいる』というか。別々に」
そこでシロンは言い淀んだ。
これは──言っていいものなのか。
覚悟を決めるべきことかもしれない。
特に、この先のことを考えれば。
いろいろ考えこんで口を噤んだシロンに対し、男が先を促した。
「別々に?」
「……母親は、ここの村長家の墓地にいる。父の方は、これから向かう先にいる」
「あ、じゃあ、その親父さんのところに?」
「ああ。一緒に埋めてやるんだ」
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