今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

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~侵入者編~

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キッチリ二時間後。
シロンが起こすまでもなく、男はパッチリと大きく目を見開いてゆっくり身を起こした。
「……起きた」
「じゃ、頼むわ」
とうてい『お願い』ではなく、完全強制でスォプを溶かした水の入ったバケツと雑巾、革の手袋を突き付けたシロンは、サクッと男を便所小屋へと追い立てた。
そのまま逃げて行ってしまうかもしれないのに、見張りをするわけでもなく、さっさとまた家に戻る。
「………マジかよ」
信用されているのか、逃げようのない罠が仕掛けられているのか、逃げたとたんに村の治安部担当にでも捕まるのか──
「都でもないのに、そんな役目の奴もいない…か……」
独り言を呟きながら男がヒクヒクと鼻を動かすと、花も咲いていないのに華やかというか気持ちがスッキリするような、ハーブのような匂いが漂ってきた。
「なんだぁ?……こ、これ?……」
白濁した水は腐っているわけではなく、確かにいい香りがする。
柄杓のようなものがバケツに突き立てられているから、一口啜ってみようと取り出してみると、先端はブラシになっていてドロリとした粘液が泡立ちながらまたバケツに滴り落ちた。
「こ…これ……どうしろってんだ?」
今よりも規則正しい──全寮制の学校に放り込まれていた間、何度か罰として便所掃除をやらされたことはあるが、掃除道具は水とブラシだけで、こんな変な液体やら雑巾やらを使ったことなどない。
「そのバケツの中の水を使って、壁も床も便器も洗うんだよ。ちゃんと水気は雑巾で拭けよ?」
「ハ?何だそれ?掃除夫だってそんな変な手間掛けねぇぞ?」
「いいからやれよ。やらなきゃ、次からこれを着けて『お仕事』してもらうからな」
いつの間にか男の背後に戻ってきたシロンに噛みついたが、その手にしている『隷属の首輪』を見ると、わずかに表情を歪めた。
罪人に対して使われるその首輪は、獣人に嵌められる木製の物よりも柔らかいなめし皮で作られていたが、魔術研究所で古代語で拘束と締め上げの秘術が刻まれ、購入した者の名前を同じく刻むことで効果を発する厄介なものである。
嵌められた者は購入者──『主人』の手が触れねば外れないようになっており、しかも逆らったと思えば魔術研究所で考えられた呪文で、隷属したものに首を絞める『罰』を与えてくるのだ。
「ど……どうして、あんたがそんなもんを……」
どう見ても一村人で、村長の次に裕福というわけでもなさそうなのに、最低でも金貨十枚は下らない代物を持っている理由がわからない。
かといってその首輪が『偽物』には見えず、首に嵌めて試してみるだけの勇気はなかった。
「クソッ……」
渋々男は学生だった時以来の『罰』を開始した。

「……マジかよ」
男は呆然とした。
なぜか悪臭はしなかったものの、見るに堪えない状態だった便所小屋を自棄になって磨きまくった結果、まるで新築のように清潔に一度も使用したことなどないかのように、そして何より掃除に使った白濁水と同じく清涼感のある匂いがする。

それは見たこともない魔法の水だった。

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