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~侵入者編~
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「はぁぁ~~~~……生き返ったぁ………」
服どころかブーツまで洗った男はシロンの着古しの作業着を着て、野菜を崩れるまで煮込んだスープを飲み干して満足の溜息をつく。
「……生き返るにはまだ顔色が悪いけどな。とりあえず寝ろ」
「はぇ?」
台所の隅に簡易ベッドを用意し、シロンはさっさとシーツを引いてやる。
思いがけない親切な言葉に男は拍子抜けした顔をして、シロンの顔を見てから窓へと視線をやって驚愕の表情になった。
「……おぇっ?!も、もう夜?……じゃないよ、な?……まだ昼前ぐらいだろう?」
「ああ。さっきも言ったが、あの薬は痛みが落ち着くだけで体力は戻らん。今飲んだスープで活力が完全に戻るわけじゃない。お前が汚した小屋を掃除してもらう前に寝て、体力を回復してくれ。だいぶ汚していたからな」
「へへっ……変な奴だな、あんた。正体もわからん俺を信用していいのかい?」
「別に。たぶん、俺の方が強いからな。気にするな」
「………へっ?」
ポカンと男が返答に詰まると、シロンは易々とその襟首をつかんで持ち上げる。
そのまま引きずるように簡易ベッドへ連れて行って放り出された男は、諦めたような笑いを浮かべ、両手を顔の横に持ち上げた。
「……降参。さっきだってブーツやら何やら身につけていたのに腕一本で引きずられて、今はさらに持ち上げられて……あんた、見た目ほど優男じゃねぇな?」
「二時間ぐらいで多少は元気になると思う。さすがに陽が落ちてからの便所掃除は危ないからな。じゃ、頼んだぞ」
「えっ…あっ!おい!便所掃除って…マジ……」
シロンが腕を伸ばしてトンッと軽く男の肩を押すと、疲れ切っていたらしいその身体はベッドに寝転び、抗議の声の代わりに寝息が聞こえた。
スープに混ぜたドゥールの葉は、いつもながらいい仕事をしてくれた。
嘔吐や下痢、大病後の体力はすぐには戻らない。
だから滋養のある野菜と共に薬草も一緒に煮込んだのだが、やっぱり一番の薬は『寝ること』なのだ。
「まぁ、拘束の呪いをかけてもいいんだが……解呪が面倒だしな。どうやったのかわからないが、庭に入ってきたわけも知りたいし……もう少し付き合ってもらうか」
苦悶する様子はなく、男は実に平和そうな顔で深く眠っている。
スォプの粉に先ほど便所の匂いを消した小瓶の中身を数滴垂らし、手のひらをかざして古代語を呟いた。
「『清浄なる精霊よ。汝が使命を持ちて、汝を使役する者に力を与え、汝が繁栄を見せよ。汚濁を清め、汚臭を散らし、塵芥を消し去りたまえ』……ついでに家の掃除にも使うか」
別にこうやって特別な力を加える必要はないのだが、『仕事』以外に必要のない古代語でも時々は使っておかないと忘れやすいし、一時凌ぎに便所に香りを撒いたが、どうせなら綺麗にしてもらうついでに匂いも勝手に消えるようにしておきたい──いずれは旅立つのだとしても。
服どころかブーツまで洗った男はシロンの着古しの作業着を着て、野菜を崩れるまで煮込んだスープを飲み干して満足の溜息をつく。
「……生き返るにはまだ顔色が悪いけどな。とりあえず寝ろ」
「はぇ?」
台所の隅に簡易ベッドを用意し、シロンはさっさとシーツを引いてやる。
思いがけない親切な言葉に男は拍子抜けした顔をして、シロンの顔を見てから窓へと視線をやって驚愕の表情になった。
「……おぇっ?!も、もう夜?……じゃないよ、な?……まだ昼前ぐらいだろう?」
「ああ。さっきも言ったが、あの薬は痛みが落ち着くだけで体力は戻らん。今飲んだスープで活力が完全に戻るわけじゃない。お前が汚した小屋を掃除してもらう前に寝て、体力を回復してくれ。だいぶ汚していたからな」
「へへっ……変な奴だな、あんた。正体もわからん俺を信用していいのかい?」
「別に。たぶん、俺の方が強いからな。気にするな」
「………へっ?」
ポカンと男が返答に詰まると、シロンは易々とその襟首をつかんで持ち上げる。
そのまま引きずるように簡易ベッドへ連れて行って放り出された男は、諦めたような笑いを浮かべ、両手を顔の横に持ち上げた。
「……降参。さっきだってブーツやら何やら身につけていたのに腕一本で引きずられて、今はさらに持ち上げられて……あんた、見た目ほど優男じゃねぇな?」
「二時間ぐらいで多少は元気になると思う。さすがに陽が落ちてからの便所掃除は危ないからな。じゃ、頼んだぞ」
「えっ…あっ!おい!便所掃除って…マジ……」
シロンが腕を伸ばしてトンッと軽く男の肩を押すと、疲れ切っていたらしいその身体はベッドに寝転び、抗議の声の代わりに寝息が聞こえた。
スープに混ぜたドゥールの葉は、いつもながらいい仕事をしてくれた。
嘔吐や下痢、大病後の体力はすぐには戻らない。
だから滋養のある野菜と共に薬草も一緒に煮込んだのだが、やっぱり一番の薬は『寝ること』なのだ。
「まぁ、拘束の呪いをかけてもいいんだが……解呪が面倒だしな。どうやったのかわからないが、庭に入ってきたわけも知りたいし……もう少し付き合ってもらうか」
苦悶する様子はなく、男は実に平和そうな顔で深く眠っている。
スォプの粉に先ほど便所の匂いを消した小瓶の中身を数滴垂らし、手のひらをかざして古代語を呟いた。
「『清浄なる精霊よ。汝が使命を持ちて、汝を使役する者に力を与え、汝が繁栄を見せよ。汚濁を清め、汚臭を散らし、塵芥を消し去りたまえ』……ついでに家の掃除にも使うか」
別にこうやって特別な力を加える必要はないのだが、『仕事』以外に必要のない古代語でも時々は使っておかないと忘れやすいし、一時凌ぎに便所に香りを撒いたが、どうせなら綺麗にしてもらうついでに匂いも勝手に消えるようにしておきたい──いずれは旅立つのだとしても。
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