26 / 109
~侵入者編~
1
しおりを挟む
──さて。
妙な夢見で目覚めが悪くなるかと思ったが、早朝に目を覚ましたシロンの意識は逆にスッキリとして、頭どころかなぜか身体まで軽い。
父が他の一族の人間に関して話してくれたことは、ほとんどなかった。
夢でも父が旅をしていた間のことはすっぽりと抜けて、この村や魔素毒の森へ向かう道の半ばにあるディーヴァント一族の家々のことしか出てこない。
どうしてなのか疑問に思うことはなく、どの地方へ行っても父と母とシロンの生活は変わらず、母が病気で亡くなった際も──そういえば──
どうして忘れていたのか、あの家で母を見送った時、母の棺を乗せた荷馬車を引いていたのは村長とよく似た壮年の男だった。
「ひょっとしたら……あの人が母さんの、もうひとりの兄さん?」
だが、シロンがこの村に滞在してからは一度も見かけていない。
シロンとはまた違う郊外で生活しているのか、あれ以来別の町で暮らしているのか──どちらにしても積極的に関わるつもりはないから、どうでもいいことではある。
「とりあえず、腹が減った……」
一晩のうちに濃すぎる内容の夢を見たせいだろうか。
まるで三日三晩も断食していたかのような空腹で、シロンはめまいすら覚えてふらりとよろめいた。
「………う、ん?」
ガチャリと鍵を開けて裏口を開けると、ひとりの男が牛乳の大瓶──しかも口が開いて、中身が無くなっている──を抱きかかえて眠り込んでいる。
ここ最近ではめったに村の人間は近寄らなくなっており、服装からもどこからかの旅人のように見えたが、抱えている瓶の数を数えてさらに驚いた。
「え…さ、三本……?何で空になっているんだ?」
頑丈で清潔なガラスを製造することのできないこの村では、ガラス瓶はとても貴重なものだ。
たいていは新鮮な牛乳を乳牛を飼っている家から直接ブリキの鍋に分けてもらう。
ただ、シロンは赤ん坊を連れて出歩くことが多いため、布巾をかぶせただけの鍋ではたとえ村の端から端に移動するだけでも半分ぐらい溢したり、布に吸わせてしまった。
おまけに村人が近寄らなくなりつつあり、代わりに持ってきてもらうことも難しい。
「ならば、うちの者を遣わせればよかろう?」
あっさりと村長が自分たち用に購入した牛乳をシロンに回してくれることにしてくれた。
ついでに新鮮な野菜なんかも届けてくれて、必要以上にシロンが村人と接触しないでいられるようにしてくれる。
だからといって、この見知らぬ人間がここに寝っ転がっている理由にはならないが──
「うぅぅ……」
「あっ?あぁ…よかった……生きてる、のか……?」
「うぅ…は…腹ぁ、痛ぇ……」
「え?」
グギュルルルルルルゥッ!
よく聞き取れなかったシロンが聞き返そうとすると、おそらくはあまり人には聞かれたくなく、そして聞きたくもない内臓の悲鳴に、一気に飛び退った。
「べ、便所なら!そっち!そっちにあるから!」
叫びながら敷地を囲う塀の一部に作られた小屋を指さすと、グェェ…と地鳴りのような声を吐き出した見知らぬ人間は、恐ろしいほどの勢いで地面を這いながらその小屋に飛び込んだ。
アレが何で誰なのか興味はあったが、他人の排泄音に聞き耳を立てる趣味はないので、シロンはなぜか飲み損ねた牛乳瓶を割れないように気を付けながら家の中に運び込み綺麗に洗う。
しばらくあの不審者は出てこなさそうだと判断し、シロンは溜めていた雨水を大鍋に移して、裏庭に設置した竈で湯を沸かし始めた。
妙な夢見で目覚めが悪くなるかと思ったが、早朝に目を覚ましたシロンの意識は逆にスッキリとして、頭どころかなぜか身体まで軽い。
父が他の一族の人間に関して話してくれたことは、ほとんどなかった。
夢でも父が旅をしていた間のことはすっぽりと抜けて、この村や魔素毒の森へ向かう道の半ばにあるディーヴァント一族の家々のことしか出てこない。
どうしてなのか疑問に思うことはなく、どの地方へ行っても父と母とシロンの生活は変わらず、母が病気で亡くなった際も──そういえば──
どうして忘れていたのか、あの家で母を見送った時、母の棺を乗せた荷馬車を引いていたのは村長とよく似た壮年の男だった。
「ひょっとしたら……あの人が母さんの、もうひとりの兄さん?」
だが、シロンがこの村に滞在してからは一度も見かけていない。
シロンとはまた違う郊外で生活しているのか、あれ以来別の町で暮らしているのか──どちらにしても積極的に関わるつもりはないから、どうでもいいことではある。
「とりあえず、腹が減った……」
一晩のうちに濃すぎる内容の夢を見たせいだろうか。
まるで三日三晩も断食していたかのような空腹で、シロンはめまいすら覚えてふらりとよろめいた。
「………う、ん?」
ガチャリと鍵を開けて裏口を開けると、ひとりの男が牛乳の大瓶──しかも口が開いて、中身が無くなっている──を抱きかかえて眠り込んでいる。
ここ最近ではめったに村の人間は近寄らなくなっており、服装からもどこからかの旅人のように見えたが、抱えている瓶の数を数えてさらに驚いた。
「え…さ、三本……?何で空になっているんだ?」
頑丈で清潔なガラスを製造することのできないこの村では、ガラス瓶はとても貴重なものだ。
たいていは新鮮な牛乳を乳牛を飼っている家から直接ブリキの鍋に分けてもらう。
ただ、シロンは赤ん坊を連れて出歩くことが多いため、布巾をかぶせただけの鍋ではたとえ村の端から端に移動するだけでも半分ぐらい溢したり、布に吸わせてしまった。
おまけに村人が近寄らなくなりつつあり、代わりに持ってきてもらうことも難しい。
「ならば、うちの者を遣わせればよかろう?」
あっさりと村長が自分たち用に購入した牛乳をシロンに回してくれることにしてくれた。
ついでに新鮮な野菜なんかも届けてくれて、必要以上にシロンが村人と接触しないでいられるようにしてくれる。
だからといって、この見知らぬ人間がここに寝っ転がっている理由にはならないが──
「うぅぅ……」
「あっ?あぁ…よかった……生きてる、のか……?」
「うぅ…は…腹ぁ、痛ぇ……」
「え?」
グギュルルルルルルゥッ!
よく聞き取れなかったシロンが聞き返そうとすると、おそらくはあまり人には聞かれたくなく、そして聞きたくもない内臓の悲鳴に、一気に飛び退った。
「べ、便所なら!そっち!そっちにあるから!」
叫びながら敷地を囲う塀の一部に作られた小屋を指さすと、グェェ…と地鳴りのような声を吐き出した見知らぬ人間は、恐ろしいほどの勢いで地面を這いながらその小屋に飛び込んだ。
アレが何で誰なのか興味はあったが、他人の排泄音に聞き耳を立てる趣味はないので、シロンはなぜか飲み損ねた牛乳瓶を割れないように気を付けながら家の中に運び込み綺麗に洗う。
しばらくあの不審者は出てこなさそうだと判断し、シロンは溜めていた雨水を大鍋に移して、裏庭に設置した竈で湯を沸かし始めた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる