今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

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~村里育児編~

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エルミナ・レシャ・ディーヴァント

ろうそくが灯る即席の祭壇の上で眠る赤ん坊に向かい、厳かにその名が告げられた。
場所は本来命名の儀式が行われる司祭館ではなく、シロンの家である。
雲ひとつない空の上には星々だけが光り輝く新月の夜、ようやく赤ん坊の名がつけられた。
『エルミナ』とはもうすでに信仰が失われ、ただ『神話の神』として名ばかりが残る女神の真名。
『レシャ』とは真名を隠すために呼ばれる、今は亡きシロンの母の名。
名が書かれた紙は司祭館にある炎から移されたろうそくの火で燃やされ、その灰が赤ん坊の頭・両手・両足、そして腹へとわずかずつ落とされる。
「名は神に受け入れられ、滞りなく授かった。真名は父であるシロン・ディーヴァントの下に。父は子を守り、真名を守り、命ある限りその生きる道を照らす道しるべとして、心の光とならんことを……」
司祭の言葉が静かに消えると、シロンは儀式に従い、赤ん坊の誕生を祝うろうそくを吹き消した。

司祭が領都へ出掛けている間は、買い出しに出ようとシロンが前掛けのように首にかけていたスリングの中で大人しくしていた赤ん坊は、数日前から一歩でも敷地の外に出ると警報のような大声で泣き叫ぶようになってしまった。
「……長、手間をかけて申し訳ない」
「いや、人見知りが激しくなっただけじゃろうて。ほぉれ、アババババ……」
「うきゃ~♪あ~ぶ~」
シロンの家の裏庭にある木製のソファベンチに座る村長は、まるで自分の孫をあやすように赤ん坊と戯れていた。
いや、村長だけでなく、司祭がこちらに赴いても同じように機嫌よくあやされているのだが、どうにも他の村人には慣れてくれない。
「おかげでもう乳母も頼めなくなった……」
「ほっほっ……嫁をもらい損ねた罰だと思うがええ。幼いとはいえ、じゃ。父を独り占めしたいのじゃろ」
「ハハハ……」
虚ろな声で笑うしかない。
おそらく村長は、この赤ん坊が普通の・・・赤ん坊ではないと気がついているのだろう──特に急かすことはないが、あまりシロンたちが村に出てこないようにと、自らこの家に来たり、使用人に命じて裏庭に建てられた物置の中に食料品などを置いてくれる。
「……後悔は、ないのじゃな?」
「はい……」
それはあえて真名に女神の名をつけたことか?
間もなくこの地を去ることか?
それとも───
「村の女性たちにいつまでも警戒させたままでいては、子供に良い影響を与えるとは言いかねませんからね。まさか嫁をもらうより先に子供を持って、そういう見方もあると知るとは思いませんでしたが」
「ふん…奴らは自業自得さ。元々、性根にあったものだ」
村長は鼻を鳴らして、赤ん坊を膝から降ろす。
「露わになった者に嫌悪はあろうが、この村を捨てることができん限り、ここで生きていくしかない……ま、領都に行くぐらいならできても、王都まで行くには死を覚悟せんとな」
魔素毒の森が近くにあるとはいえ、その管理はディーヴァントの者が行い、一応は魔物が村に近づかないように、たとえ出てきてもシロンの家からは近づかないような特殊なまじないを施していた。
だが片道でも三週間ほどかかる遠方の国王や高位貴族が住まう王都に行くには、そんなありがたい守りがあるわけではなく、自然に溜まった魔素毒から発生した魔物やそれを狙う獣人たちがいる。
人を襲うのはそんな人外だけではない──領都や人里から離れたところでは強盗や人攫いが出る場合もあった。
「子孫を残すために、若い女を望むは必要な本能ではある……が、魅了であれ、惑わせの薬であれ、それ以前の情欲なぞ、村長として見過ごすわけにはいかんからの……」

犯して。
嬲って。
柔らかい。
美味そう。
美味そう。

男たちがひとり、ふたり──いや、その場にいたもの全員が口にした、『赤ん坊を喰いたい』という欲求。

美味そうだと。
柔らかそうだと。

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