今日も隠して生きてます。~モフ耳最強なんて、誰が言った?!~

行枝ローザ

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~村里育児編~

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その手に握られたグリーン色の背の高い瓶の中身はどろりと重たい液体だが、司祭は見たことがないのかキョトンとしている。
「お前さんにも勧めたいんじゃが、まずはこいつを『自称・赤ん坊の保護者にふさわしい者』たちに振舞ってやらんといかんのだ……飲みたいかどうかは、その後に決めていい。とりあえず、シロンの育て方に異論のある者たちをすべて村長宅へ寄こすようにして下され」
「は、はい」
意味深長にが話される内容が理解できず、ただ頷くだけの市債を後ろに従え、村長はドアを開けたとたんに暗闇に向かって声をかけた。
「まずはお前らじゃ。一緒に来い」
「ヒャッ!ハッ、ハイィッ!!」
シロンが火を点けたランタンを開いた窓枠に置き、さらにドアの外に潜んでいた者たちに厳しい目線を向ける村長に渡すと、ぼんやりと浮かんだその陰に向かってゆらゆらとその光を揺らすのを黙って見つめて数えた。
ひとり…ふたり…
その数はなんと十六人も潜んでおり、しかもそのうちの半分は手斧をぶら下げている。
ゆらり。
ゆらり。
村長が手にしたランタンの灯りと甘い匂いが揺れるのに合わせて、大きな身体がユラユラと揺れているのを確認すると、シロンと村長はそろって頷いた。
「ではの。司祭様も我が家でこ奴らと話してくれ」
「え…えぇ……」
催眠術にかかった様子の男たちがゾロゾロと暗闇から現れると、司祭はシロンが渡した酒瓶を抱えたまま夜目にもわかるほど顔を青褪めたが、村長の有無を言わさぬ強い要請に頷いた。
ひとり残らず村長たちの後についていくのを見送ったシロンは、やっと気を抜いて溜息をつく。
「……村長たちが来てくれて助かったな」
スリングの中でまるまる赤ん坊を優しくなでると、ふにゃぁ…と寝息のような声を立てて、シロンの腹の前でふくらみがぐるりと回転した。

まるで猫みたいだ。

ふと思いついてスリングの中を覗いてみる。
「………へっ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
簡易的な赤ん坊の服やおむつはいつの間にかその役目を放棄し、白い羽がその代わりを果たしている。
「なっ…いつの間に……」
家の周りの気配を探るだけでなく、実際に誰もいないのをわざわざ家の外まで出て確認してから、シロンはスリングを肩から外した。
はらりと解けたその包みはの中からは、いつの間にかまた獣人化した赤ん坊が転がり出てきたが、軽く身じろぎしてからまた丸まって、安心しきった寝息を立てている。

まるで繭のように、幼い体をまるごと包んでしまうほどの大きな白い羽。
絹のように細くなめらかな金色の巻き毛はチラチラと煌めいている。
その頭頂からわずかに覗く二つの尖った耳。
手慰みのためか腰骨の下から長く伸びた尻尾を足の間から前に持ってきて──尻尾?なんてあったのか?──その小さな腕で抱き締めている。
「……知らないことばかりだな……当たり前だが」
家の中の灯りをすべて消し、万が一誰かが忍び込んでも見つけられないようにと秘術を施した屋根裏の寝室で、シロンは獣人化したその赤ん坊の頭を撫で──
「……ん?こぶ?どこかに打った覚えはないが……」
緩いウェーブがかった前髪に触れる指の腹に、微かな膨らみを感じた。
ここ最近はほとんど赤ん坊を腹のあたりに抱えたままだから、動く時はよほど慎重にしている。
わずかにその部分を押してみるが、まるで骨のように固く、こぶとは違うように感じた。
「生まれつき……か?いや、最初に見た時にあったか……?」
いや……それよりも……この子の………名…………

エルミナ

ぽぅ…と雲間から満月が現れ、いつの間にか白い羽に包まる赤ん坊を抱えたまま眠りに落ちたシロンを照らし、すぐにまた雲に隠れた。


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