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~村里育児編~
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『シロン』という余所者が、いつの間にか村の空家に住み着き、どこからか攫ってきたらしい赤ん坊を使用して情欲を解消している。あんな下種な男の下に純粋無垢な赤ん坊を置いておくわけにはいかない。うちには幸い妻も子供もいる。自分だっていい父親になる──
異口同音に訴える十数人の男たちが司祭の元に押し寄せたのは、シロンがふらふらと近づいてくる女子供から逃げるように家に入って数時間経った夕方。
だがその男たちは一様に異常な光を目に湛え、訴えたはずの『シロンの異常な情欲』をその全身から発し──口の端から涎を溢していた。
「つまり、その……シロンさんがお連れになっているその赤ん坊に対して『異常な情欲』を抱いているのは、あなたではなく……」
「情けないことに、この村にいるいい歳をした子持ちの男どもというわけだ……」
幸いなことに村長と司祭は、そのけしからん輩には含まれていないようだ。
とはいえ──
この村に移ってきてからかなり時間が経っているが、村人の多くは見慣れないシロンを遠巻きにして関わろうとはしなかった。
お互いの家業を代々知っている村長家族以外の、特に大人たちのその態度は顕著だった。
だからシロンが連れてきた赤ん坊に対しての邪推も含まれているとはいえ、今まで一度も疑惑を訴えなかった男どもが、示し合わせたように司祭の元に押し寄せるなんて──
「……やはり、この子の………」
思わず呟いたシロンの言葉に、司祭と村長が問いかける視線を投げてきた。
「シ…シロン殿?まさか…その幼子が、まさか……本当に獣人のように魔力を持っている……?」
「いやっ!そ、そういうわけでは……」
「詳しく聞かせてもらわんといかんか……」
村長と司祭に詰め寄られ、シロンはどうにか話さずに済ませられないかと考えた。
「………ああ、あの手が」
シロンは魔素毒の森で採取する際に魔物や獣人に襲われない用心をいつもしているため、常人より聴力も感覚も優れている。
そのおかげで、村長たちの問いに答える前に家の窓近くでひっそりと聞き耳を立てているらしい複数の気配に気づいて、大事なことを打ち明ける前に注意を促せた。
『おそらくこの家の周りに、司祭様を訪れた者たちがいます』
「えっ!!」
「ああ、すいません……家に乳母役以外の誰かが来てくれるなんて久しぶりで……いや、良い酒があったな、と。実は森の方の家からも良いつまみを持って来たんですが、なんせ赤ん坊を見ないといけないからひとりで飲むわけにもいかなくて……」
「おお、そういえば大人になったお前さんと飲むのなんぞ……いつぶりぐらいかのぅ?親父さんがまだ健在であれば三人で飲みたいと話しておったのだが」
父が病に倒れて数ヶ月後に息を引き取ったのは、今レビウスに管理してもらっている家で、この村からは馬車を使って半年以上もかかる国の反対側で、国境に近い場所になる。
そのためにここの村長に父の死去を伝えられたのは、この地に戻ってきたついこの間だった。
「ええ……そう、でしたね……では司祭様が私の父代わりということで。この子の名届けのご相談もちょうどしたかったし」
「なんと!お前……いかに世事から離れておるからといって、養い子のことを後回しになんぞしおってからに!」
そうして一時怒りに満ちた瞬間などなかったかのように当り障りなく、赤ん坊の名とそれを村にある教会に届ける打ち合わせから酒盛りが始まり、だが卓上の空いた部分では、獣人であることは伏せたままこの赤ん坊を拾った顛末と、今後のこと、いずれはこの地を離れること──シロンはほとんど腕を動かさずに、筆で殴り書く密談が続いた。
異口同音に訴える十数人の男たちが司祭の元に押し寄せたのは、シロンがふらふらと近づいてくる女子供から逃げるように家に入って数時間経った夕方。
だがその男たちは一様に異常な光を目に湛え、訴えたはずの『シロンの異常な情欲』をその全身から発し──口の端から涎を溢していた。
「つまり、その……シロンさんがお連れになっているその赤ん坊に対して『異常な情欲』を抱いているのは、あなたではなく……」
「情けないことに、この村にいるいい歳をした子持ちの男どもというわけだ……」
幸いなことに村長と司祭は、そのけしからん輩には含まれていないようだ。
とはいえ──
この村に移ってきてからかなり時間が経っているが、村人の多くは見慣れないシロンを遠巻きにして関わろうとはしなかった。
お互いの家業を代々知っている村長家族以外の、特に大人たちのその態度は顕著だった。
だからシロンが連れてきた赤ん坊に対しての邪推も含まれているとはいえ、今まで一度も疑惑を訴えなかった男どもが、示し合わせたように司祭の元に押し寄せるなんて──
「……やはり、この子の………」
思わず呟いたシロンの言葉に、司祭と村長が問いかける視線を投げてきた。
「シ…シロン殿?まさか…その幼子が、まさか……本当に獣人のように魔力を持っている……?」
「いやっ!そ、そういうわけでは……」
「詳しく聞かせてもらわんといかんか……」
村長と司祭に詰め寄られ、シロンはどうにか話さずに済ませられないかと考えた。
「………ああ、あの手が」
シロンは魔素毒の森で採取する際に魔物や獣人に襲われない用心をいつもしているため、常人より聴力も感覚も優れている。
そのおかげで、村長たちの問いに答える前に家の窓近くでひっそりと聞き耳を立てているらしい複数の気配に気づいて、大事なことを打ち明ける前に注意を促せた。
『おそらくこの家の周りに、司祭様を訪れた者たちがいます』
「えっ!!」
「ああ、すいません……家に乳母役以外の誰かが来てくれるなんて久しぶりで……いや、良い酒があったな、と。実は森の方の家からも良いつまみを持って来たんですが、なんせ赤ん坊を見ないといけないからひとりで飲むわけにもいかなくて……」
「おお、そういえば大人になったお前さんと飲むのなんぞ……いつぶりぐらいかのぅ?親父さんがまだ健在であれば三人で飲みたいと話しておったのだが」
父が病に倒れて数ヶ月後に息を引き取ったのは、今レビウスに管理してもらっている家で、この村からは馬車を使って半年以上もかかる国の反対側で、国境に近い場所になる。
そのためにここの村長に父の死去を伝えられたのは、この地に戻ってきたついこの間だった。
「ええ……そう、でしたね……では司祭様が私の父代わりということで。この子の名届けのご相談もちょうどしたかったし」
「なんと!お前……いかに世事から離れておるからといって、養い子のことを後回しになんぞしおってからに!」
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