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~誕生編~
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だが──
「『そいつ』はここに残していけ!」
シロンがふらりと立ち上がってうな垂れたまま進もうとするエレビウを指差すと、冒険者に向けて軽蔑の眼差しを向けた。
「『お前ひとり』で見回って来い。この森の魔素毒は薄まっていない。存分に狩って来いよ」
痛みを感じるほどの怒りを抱えたシロンがそう言って笑うと、ガバリネスは化け物でも見たような恐怖にひきつった顔をして、転げるように背中を向けて森の奥へと走り込んだ。
「エレビウ。お前の隷従の印はどこにある?」
むかつく相手がいなくなると、シロンはひと息吐いてから、人格が変わったかのような穏やかな顔を向けてエレビウに尋ねた。
が、その問いに返ってきたのは、左右に頭を振るジェスチャー。
「は?」
『隷従 の 印 は 母 に ある 私 には ない』
ガリガリと地面に書かれた文字を判読しても、シロンの理解を超えた言葉である。
「え……だって、あいつに従っていたじゃないか……?」
『母 は 別 逆らったら 殺す 従えば 私 が 凌辱 だけ』
「だけ…って……」
『隷従の印』がない獣人を好きに甚振る』なんて──しかも『見えない隷従の証』として、母親の命を服従の鎖とするなんて──
「つくづく腐った野郎だな!」
しかし──ふと気づく。
「じゃあ、母親の方は、とりあえずは生きている……んだな?」
『たぶん』
生存の確認はできていないらしい。
が、『生きているはず』と思わせることで、赤ん坊の頃から獣人の世界とは切り離された環境で育てられたエレビウは逃れられないと思い込んでいたのか。
「……じゃあ、主人のあいつが戻らなかったら、お前が『家』に帰らなくても……お前自身には、何も危険はないな?」
シロンの言葉に、エレビウは首を軽く傾げた。
「つまり……『隷属の印』は、契約者が奴隷に対して鞭を振るわずとも肉体的に加虐できる…罰を与えたり、殺してしまうこともできる印なんだ。距離は関係ないが、その契約内容と結びつきの強さによって、行使力は変わるけどな。直属の主人の強制力が一番強く、次いで血縁者、配偶者…の順にだが、それすらもないとすると……」
『マスター 帰らない ない』
「なくもないんだ、それが」
諦めたように首を振るエレビウに向かってニヤリと笑うシロンは、さっきガバリネスをけしかけた時と同じ顔をしていた。
「あいつはこの森に置いていく。いくらでも魔物を狩ればいい。お前のご主人は、『雇い主』であるこの俺との契約事項に違反した報いを受けるだけさ」
シロンの施す加護の力は、強力になればなるほど範囲は狭くなる。
今回は予想外に冒険者がアホな行動をしてくれたおかげで言い忘れていたが、シロン自身から半径三メートルほどには絶対に魔物は近づけない。
逆にいえばそれ以上離れてしまうと、たとえシロンが森の中にいたとしても、魔物は加護のない者を襲ってくる。
しかも奴は──ガバリネスは、魔石をすべて自分の物にしたいがために、獣人族への『捧げ物』を残すことを故意に忘れた。
「『そいつ』はここに残していけ!」
シロンがふらりと立ち上がってうな垂れたまま進もうとするエレビウを指差すと、冒険者に向けて軽蔑の眼差しを向けた。
「『お前ひとり』で見回って来い。この森の魔素毒は薄まっていない。存分に狩って来いよ」
痛みを感じるほどの怒りを抱えたシロンがそう言って笑うと、ガバリネスは化け物でも見たような恐怖にひきつった顔をして、転げるように背中を向けて森の奥へと走り込んだ。
「エレビウ。お前の隷従の印はどこにある?」
むかつく相手がいなくなると、シロンはひと息吐いてから、人格が変わったかのような穏やかな顔を向けてエレビウに尋ねた。
が、その問いに返ってきたのは、左右に頭を振るジェスチャー。
「は?」
『隷従 の 印 は 母 に ある 私 には ない』
ガリガリと地面に書かれた文字を判読しても、シロンの理解を超えた言葉である。
「え……だって、あいつに従っていたじゃないか……?」
『母 は 別 逆らったら 殺す 従えば 私 が 凌辱 だけ』
「だけ…って……」
『隷従の印』がない獣人を好きに甚振る』なんて──しかも『見えない隷従の証』として、母親の命を服従の鎖とするなんて──
「つくづく腐った野郎だな!」
しかし──ふと気づく。
「じゃあ、母親の方は、とりあえずは生きている……んだな?」
『たぶん』
生存の確認はできていないらしい。
が、『生きているはず』と思わせることで、赤ん坊の頃から獣人の世界とは切り離された環境で育てられたエレビウは逃れられないと思い込んでいたのか。
「……じゃあ、主人のあいつが戻らなかったら、お前が『家』に帰らなくても……お前自身には、何も危険はないな?」
シロンの言葉に、エレビウは首を軽く傾げた。
「つまり……『隷属の印』は、契約者が奴隷に対して鞭を振るわずとも肉体的に加虐できる…罰を与えたり、殺してしまうこともできる印なんだ。距離は関係ないが、その契約内容と結びつきの強さによって、行使力は変わるけどな。直属の主人の強制力が一番強く、次いで血縁者、配偶者…の順にだが、それすらもないとすると……」
『マスター 帰らない ない』
「なくもないんだ、それが」
諦めたように首を振るエレビウに向かってニヤリと笑うシロンは、さっきガバリネスをけしかけた時と同じ顔をしていた。
「あいつはこの森に置いていく。いくらでも魔物を狩ればいい。お前のご主人は、『雇い主』であるこの俺との契約事項に違反した報いを受けるだけさ」
シロンの施す加護の力は、強力になればなるほど範囲は狭くなる。
今回は予想外に冒険者がアホな行動をしてくれたおかげで言い忘れていたが、シロン自身から半径三メートルほどには絶対に魔物は近づけない。
逆にいえばそれ以上離れてしまうと、たとえシロンが森の中にいたとしても、魔物は加護のない者を襲ってくる。
しかも奴は──ガバリネスは、魔石をすべて自分の物にしたいがために、獣人族への『捧げ物』を残すことを故意に忘れた。
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