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~誕生編~
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灰色と黒の毛並みの『彼』は、魔力を無効化する首輪や手錠だけでなく、突き出ている犬のような顔半分を覆う籠状の口枷を嵌められ、死んだような目をしていた。
「ハハハッ。すごいだろう?こいつは犬型…というか、狼族らしくてな。人狼《ワーウルフ》というらしいんだが、母親の腹の中にいたんだ。子供を孕んだ獣人なんて、どんな王侯貴族でも珍獣中の珍獣だ」
その冒険者は──確かガバリネスと名乗った。
冒険者が素性を隠すために家名を捻ったり、偽名を名乗るのは当たり前にあったので、シロンは別に気にしなかったが、上半身裸の奴隷を連れてきたのはそいつが最初で最後だった。
普通の人間ではとうてい歩くどころか持ち上げるのも無理な量の荷物をその獣人に持たせ、歩くのがノロいと薄い腰布を巻いただけの足を後ろから蹴りつける。
「俺はこうやって冒険者をしているが、王弟の孫の従弟なんだ。ちょっとドラゴン狩りで手柄を立てて、こいつの母親を奴隷にもらったんだ。まさかその三ヶ月後に子供を産み落とすなんて思ってもいなかったが……おかげで珍しい子供型の獣人の研究で、ずいぶん稼がせてもらったよ」
ドカッ。
ドカッ。
そう言いながら忌々しそうに、ガバリネスはよろける獣人をまた蹴った。
「こいつが半年もしないうちにでかくなりやがって、研究所の人間を殺しちまうまではなぁ……そのせいで領地を追い出されるわ、トップクラスの冒険者だったのにこうやって護衛系にしかつけないEランクまで落とされて……全部こいつのせいだっ!」
「おっ、おいっ!止めろ!」
思いっきり横腹を剣の柄で殴ったせいで、獣人は荷物を抱えたまま地面に転がる。
さすがに見かねてシロンが注意したが、ガバリネスは今回の『雇い主』であるシロンを睨みつけると、ようやく口をつぐんで先へ進みだした。
「大丈夫か……?」
シロンが問いかけても獣人は答えず、小さく二回ほど頷いただけでまた荷物を抱え上げて立ち上がった。
「ああ、そいつの喉は煩いから潰してある。呻き声ぐらいは出せるから、夜に使うんなら適当に使ってくれ」
「……は?」
一瞬言われた意味が解らなかった。
「街でなら大銀貨一枚ってとこなんだけど、今回は魔物退治もクエストに入っているし、まぁお試しってことで」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたガバリネスがバシッと獣人の尻を叩き、巻き布をたくし上げてみせた。
人間にはあり得ないふさふさの尻尾が臀部の少し上から足に向けて垂れ下がっており、うっすらと灰色に光る毛が肌を覆っている。
「雌の娼婦獣人なんて街じゃあ珍しくも無くなってきてるが、雄を味わえることなんてめったにないからな。こいつは赤ん坊の頃から仕込んできたから、こうやって荷物持ちも旅最中のお楽しみにも使えるってもんなのさ」
尻尾の付け根あたりを主人の手のひらで撫でられている獣人は嫌悪感を目に滲ませているが、喉を潰されてるせいもあるのか小刻みに震えながらも黙って耐えている。
本当にこいつは元お貴族様なんだろうか……
あまりの下品さに辟易しながら、シロンは自分には不要だとガバリネスに向かって手を横に振ることで、無言で伝えた。
「ハハッ。あんたはゲテモノはお断りってか。まあ、気持ちが変わったらいつでも言ってくれよ」
シロンの気分は悪くなったが、とりあえずはなんとか収めた──つもりだった。
「ハハハッ。すごいだろう?こいつは犬型…というか、狼族らしくてな。人狼《ワーウルフ》というらしいんだが、母親の腹の中にいたんだ。子供を孕んだ獣人なんて、どんな王侯貴族でも珍獣中の珍獣だ」
その冒険者は──確かガバリネスと名乗った。
冒険者が素性を隠すために家名を捻ったり、偽名を名乗るのは当たり前にあったので、シロンは別に気にしなかったが、上半身裸の奴隷を連れてきたのはそいつが最初で最後だった。
普通の人間ではとうてい歩くどころか持ち上げるのも無理な量の荷物をその獣人に持たせ、歩くのがノロいと薄い腰布を巻いただけの足を後ろから蹴りつける。
「俺はこうやって冒険者をしているが、王弟の孫の従弟なんだ。ちょっとドラゴン狩りで手柄を立てて、こいつの母親を奴隷にもらったんだ。まさかその三ヶ月後に子供を産み落とすなんて思ってもいなかったが……おかげで珍しい子供型の獣人の研究で、ずいぶん稼がせてもらったよ」
ドカッ。
ドカッ。
そう言いながら忌々しそうに、ガバリネスはよろける獣人をまた蹴った。
「こいつが半年もしないうちにでかくなりやがって、研究所の人間を殺しちまうまではなぁ……そのせいで領地を追い出されるわ、トップクラスの冒険者だったのにこうやって護衛系にしかつけないEランクまで落とされて……全部こいつのせいだっ!」
「おっ、おいっ!止めろ!」
思いっきり横腹を剣の柄で殴ったせいで、獣人は荷物を抱えたまま地面に転がる。
さすがに見かねてシロンが注意したが、ガバリネスは今回の『雇い主』であるシロンを睨みつけると、ようやく口をつぐんで先へ進みだした。
「大丈夫か……?」
シロンが問いかけても獣人は答えず、小さく二回ほど頷いただけでまた荷物を抱え上げて立ち上がった。
「ああ、そいつの喉は煩いから潰してある。呻き声ぐらいは出せるから、夜に使うんなら適当に使ってくれ」
「……は?」
一瞬言われた意味が解らなかった。
「街でなら大銀貨一枚ってとこなんだけど、今回は魔物退治もクエストに入っているし、まぁお試しってことで」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたガバリネスがバシッと獣人の尻を叩き、巻き布をたくし上げてみせた。
人間にはあり得ないふさふさの尻尾が臀部の少し上から足に向けて垂れ下がっており、うっすらと灰色に光る毛が肌を覆っている。
「雌の娼婦獣人なんて街じゃあ珍しくも無くなってきてるが、雄を味わえることなんてめったにないからな。こいつは赤ん坊の頃から仕込んできたから、こうやって荷物持ちも旅最中のお楽しみにも使えるってもんなのさ」
尻尾の付け根あたりを主人の手のひらで撫でられている獣人は嫌悪感を目に滲ませているが、喉を潰されてるせいもあるのか小刻みに震えながらも黙って耐えている。
本当にこいつは元お貴族様なんだろうか……
あまりの下品さに辟易しながら、シロンは自分には不要だとガバリネスに向かって手を横に振ることで、無言で伝えた。
「ハハッ。あんたはゲテモノはお断りってか。まあ、気持ちが変わったらいつでも言ってくれよ」
シロンの気分は悪くなったが、とりあえずはなんとか収めた──つもりだった。
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