6 / 109
~誕生編~
6
しおりを挟む
シロンの今の住処は、森と村のちょうど中間ぐらいにある人里離れた場所、数本の木の陰に寄りそうように建てられた一軒家である。
ひとり暮らしには広い二階建ての建物だが、この家で生まれ、各地を回る父とは数年間離れて母とふたりきりで暮らしていた、どこよりも住み慣れた家だった。
人の体温が心地いいのか、家に到着しても赤ん坊は身じろぎもせず、シロンの上着の中で丸まって寝続けている。
「さぁて……赤ん坊…か……参ったなぁ……」
獣人どころか、人間の赤ん坊だって触れ合ったことはない。
なのに上着の内側にいるのは、間違いなくふにゃふにゃと柔らかい生き物である。
「食べ物……は、もう少し後か?いや、でも獣人の赤ん坊ってそもそも人間の食べ物、食べれるのか……?」
戸棚を漁ってみても柔らかいものはひとつもなく、干し肉や乾燥パンなど大人でもそのまま食べるには苦労するものばかりだ。
だいたい言葉も通じず、どうやって暮らしているかもわからない異種の育児なんて、さらに想像が及ばない。
隷属させられている獣人は皆『狩り』などで遭遇しているが、体格などで推測するに人間の成人だし、否応なしに人間の食べる物でも屑野菜を煮たスープなどを与えられ、最低限の栄養状態で生存している。
ではどうやって主人の命令を聞かせているのか──元より獣人の話す言語など、原始的で意味不明のものだと思い込んでいる『人間』は、獣人には理解できない言葉で命令を発し、当然理解できなければ暴力を振るった。
暴力から逃れるためにまず「~しろ」という音を理解し、命令する方角を指差し──要はジェスチャーで行動させて正解ならば暴力を振るわない、または徹底的に魔力の残滓すら搾り取った魔物の舌の屑肉を子指の爪ほどだけ「褒美」として与えるというのが、奴隷商からのアドバイスだという。
そんな聞きたくもないその知識を何故シロンが知っているかというと、数年前に魔素毒が濃くなりかけた森で採集する際に、同行させた冒険者が自分専属だと言う美しい雄の獣人奴隷を引き連れて自慢したからだった。
ひとり暮らしには広い二階建ての建物だが、この家で生まれ、各地を回る父とは数年間離れて母とふたりきりで暮らしていた、どこよりも住み慣れた家だった。
人の体温が心地いいのか、家に到着しても赤ん坊は身じろぎもせず、シロンの上着の中で丸まって寝続けている。
「さぁて……赤ん坊…か……参ったなぁ……」
獣人どころか、人間の赤ん坊だって触れ合ったことはない。
なのに上着の内側にいるのは、間違いなくふにゃふにゃと柔らかい生き物である。
「食べ物……は、もう少し後か?いや、でも獣人の赤ん坊ってそもそも人間の食べ物、食べれるのか……?」
戸棚を漁ってみても柔らかいものはひとつもなく、干し肉や乾燥パンなど大人でもそのまま食べるには苦労するものばかりだ。
だいたい言葉も通じず、どうやって暮らしているかもわからない異種の育児なんて、さらに想像が及ばない。
隷属させられている獣人は皆『狩り』などで遭遇しているが、体格などで推測するに人間の成人だし、否応なしに人間の食べる物でも屑野菜を煮たスープなどを与えられ、最低限の栄養状態で生存している。
ではどうやって主人の命令を聞かせているのか──元より獣人の話す言語など、原始的で意味不明のものだと思い込んでいる『人間』は、獣人には理解できない言葉で命令を発し、当然理解できなければ暴力を振るった。
暴力から逃れるためにまず「~しろ」という音を理解し、命令する方角を指差し──要はジェスチャーで行動させて正解ならば暴力を振るわない、または徹底的に魔力の残滓すら搾り取った魔物の舌の屑肉を子指の爪ほどだけ「褒美」として与えるというのが、奴隷商からのアドバイスだという。
そんな聞きたくもないその知識を何故シロンが知っているかというと、数年前に魔素毒が濃くなりかけた森で採集する際に、同行させた冒険者が自分専属だと言う美しい雄の獣人奴隷を引き連れて自慢したからだった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる