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~誕生編~
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シロンの今の住処は、森と村のちょうど中間ぐらいにある人里離れた場所、数本の木の陰に寄りそうように建てられた一軒家である。
ひとり暮らしには広い二階建ての建物だが、この家で生まれ、各地を回る父とは数年間離れて母とふたりきりで暮らしていた、どこよりも住み慣れた家だった。
人の体温が心地いいのか、家に到着しても赤ん坊は身じろぎもせず、シロンの上着の中で丸まって寝続けている。
「さぁて……赤ん坊…か……参ったなぁ……」
獣人どころか、人間の赤ん坊だって触れ合ったことはない。
なのに上着の内側にいるのは、間違いなくふにゃふにゃと柔らかい生き物である。
「食べ物……は、もう少し後か?いや、でも獣人の赤ん坊ってそもそも人間の食べ物、食べれるのか……?」
戸棚を漁ってみても柔らかいものはひとつもなく、干し肉や乾燥パンなど大人でもそのまま食べるには苦労するものばかりだ。
だいたい言葉も通じず、どうやって暮らしているかもわからない異種の育児なんて、さらに想像が及ばない。
隷属させられている獣人は皆『狩り』などで遭遇しているが、体格などで推測するに人間の成人だし、否応なしに人間の食べる物でも屑野菜を煮たスープなどを与えられ、最低限の栄養状態で生存している。
ではどうやって主人の命令を聞かせているのか──元より獣人の話す言語など、原始的で意味不明のものだと思い込んでいる『人間』は、獣人には理解できない言葉で命令を発し、当然理解できなければ暴力を振るった。
暴力から逃れるためにまず「~しろ」という音を理解し、命令する方角を指差し──要はジェスチャーで行動させて正解ならば暴力を振るわない、または徹底的に魔力の残滓すら搾り取った魔物の舌の屑肉を子指の爪ほどだけ「褒美」として与えるというのが、奴隷商からのアドバイスだという。
そんな聞きたくもないその知識を何故シロンが知っているかというと、数年前に魔素毒が濃くなりかけた森で採集する際に、同行させた冒険者が自分専属だと言う美しい雄の獣人奴隷を引き連れて自慢したからだった。
ひとり暮らしには広い二階建ての建物だが、この家で生まれ、各地を回る父とは数年間離れて母とふたりきりで暮らしていた、どこよりも住み慣れた家だった。
人の体温が心地いいのか、家に到着しても赤ん坊は身じろぎもせず、シロンの上着の中で丸まって寝続けている。
「さぁて……赤ん坊…か……参ったなぁ……」
獣人どころか、人間の赤ん坊だって触れ合ったことはない。
なのに上着の内側にいるのは、間違いなくふにゃふにゃと柔らかい生き物である。
「食べ物……は、もう少し後か?いや、でも獣人の赤ん坊ってそもそも人間の食べ物、食べれるのか……?」
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ではどうやって主人の命令を聞かせているのか──元より獣人の話す言語など、原始的で意味不明のものだと思い込んでいる『人間』は、獣人には理解できない言葉で命令を発し、当然理解できなければ暴力を振るった。
暴力から逃れるためにまず「~しろ」という音を理解し、命令する方角を指差し──要はジェスチャーで行動させて正解ならば暴力を振るわない、または徹底的に魔力の残滓すら搾り取った魔物の舌の屑肉を子指の爪ほどだけ「褒美」として与えるというのが、奴隷商からのアドバイスだという。
そんな聞きたくもないその知識を何故シロンが知っているかというと、数年前に魔素毒が濃くなりかけた森で採集する際に、同行させた冒険者が自分専属だと言う美しい雄の獣人奴隷を引き連れて自慢したからだった。
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