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~誕生編~
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勝手知るこの森だから、草の生えている位置に間違いはない。
だとしたら、この森の危険性を知らないか無視した命知らずがランタンを灯したまま、行き倒れているのかもしれない──命があれば、だが。
「まったく……確かに月宵草が手に入ればひと財産とはいえ……比較的この森はまだ大丈夫ではあるけ……ど……!」
慎重に歩を進めていたが、シロンの目の前には信じられない光景が広がっていた。
草一本生えていない剥き出しの地面に、柔らかな毛布にくるまれただけの赤ん坊が、籠にも容れられずに転がっている。
それどころか頭上には夜空が広がり、覆い尽くすはずの枝葉を持つ樹木すら見当たらない。
「な……何だ、これ……」
あり得ない光景だった。
魔素毒溢れる地面が剥き出しになり、その上ですやすやと眠る赤ん坊など──確かに魂の器として存在が安定していない赤ん坊なら、魔素毒に犯される危険性は大人よりも少ないかもしれない。
しかもそれが──
「獣人……の赤ん坊……?」
人間ならば顔の横にあるはずの耳がなく、薄い金色の巻き毛を持ち上げるように短い髪の毛に繋がる尖った猫を思わせる耳が、頭頂近くでピコピコと小さく動いている。
目をしっかりと瞑るその様子からは、自分の状況を知らずにただ眠っていることがわかったが、親がそばにいないことが不可解だ。
結束と警戒心が強い獣人族は、大人はおろか、子供をたったひとりでさ迷いださせることはけっしてない。
確かにさっきシロンが刈った魔素毒をたっぷり含んだ月宵草の匂いが広がりつつあり、酔っぱらった獣人が群れで現れることもないとは言えないが、さすがに赤ん坊を放置していくなんて──
しかも整地されたかのようなこんな広場なんて、どの森でも見たことはない。
「……いや、でも親は……いない…のか………?」
恐る恐るシロンが近づいても、草陰からカサリと動く気配もない。
確実にシロンとその赤ん坊以外、生きているものは何もいないのだ。
「お前……捨てられた、のか?」
あり得ない。
あり得ないのだが──
不思議なことに、その赤ん坊からは獣人特有の魔力の揺らぎは感じられない。
「……ぁう?」
寝ぼけているのか、薄く目を開けたその色は透き通るような金色だった。
お腹が空いていたのか、眠ったまましゃぶっていた親指を口から離し──
「は…ね……?猫族と鳥…のハーフ……?」
はらりとほどけたのは毛布ではなく、真っ白な羽根。
その下は何も着ておらず、女の子であることがわかる。
獣人族はそれぞれのカテゴリーがはっきりと決まっており、人間のように種族や国を超えて番うことはめったにない──はずだ。
シロンがそっと伸ばした指を赤ん坊の柔らかい指がキュッと握ると、我知らずにその小さな体を抱き上げてしまった。
その動きに安心したようにまたくるりと羽根を丸めて体を包んだ赤ん坊が目をつむると、まるで催眠術が切れたようにシロンは瞬きを繰り返す。
「み……魅了?そんな……猫族も鳥族も、そんな能力はないはず……」
ひょっとしたら今まで知られていない新種の獣人族の子供なのか──しかし鳴き声とも寝息ともつかない音を漏らしながら眠り続ける赤ん坊の重みは、人間のそれと何ら変わらない。
そして抱きつづけるその体からは、やはり何の魔力も感じられない。
「これは………」
ヤバい。
普通の獣人族は生まれつき魔力に溢れ、しかもその種族独特の強靭さも持ち合わせているはずなのに、何も感じないこの赤ん坊は見かけはともかく『普通の人間』と変わらない。
つまり──これは確実に稀少種。
だとしたら、この森の危険性を知らないか無視した命知らずがランタンを灯したまま、行き倒れているのかもしれない──命があれば、だが。
「まったく……確かに月宵草が手に入ればひと財産とはいえ……比較的この森はまだ大丈夫ではあるけ……ど……!」
慎重に歩を進めていたが、シロンの目の前には信じられない光景が広がっていた。
草一本生えていない剥き出しの地面に、柔らかな毛布にくるまれただけの赤ん坊が、籠にも容れられずに転がっている。
それどころか頭上には夜空が広がり、覆い尽くすはずの枝葉を持つ樹木すら見当たらない。
「な……何だ、これ……」
あり得ない光景だった。
魔素毒溢れる地面が剥き出しになり、その上ですやすやと眠る赤ん坊など──確かに魂の器として存在が安定していない赤ん坊なら、魔素毒に犯される危険性は大人よりも少ないかもしれない。
しかもそれが──
「獣人……の赤ん坊……?」
人間ならば顔の横にあるはずの耳がなく、薄い金色の巻き毛を持ち上げるように短い髪の毛に繋がる尖った猫を思わせる耳が、頭頂近くでピコピコと小さく動いている。
目をしっかりと瞑るその様子からは、自分の状況を知らずにただ眠っていることがわかったが、親がそばにいないことが不可解だ。
結束と警戒心が強い獣人族は、大人はおろか、子供をたったひとりでさ迷いださせることはけっしてない。
確かにさっきシロンが刈った魔素毒をたっぷり含んだ月宵草の匂いが広がりつつあり、酔っぱらった獣人が群れで現れることもないとは言えないが、さすがに赤ん坊を放置していくなんて──
しかも整地されたかのようなこんな広場なんて、どの森でも見たことはない。
「……いや、でも親は……いない…のか………?」
恐る恐るシロンが近づいても、草陰からカサリと動く気配もない。
確実にシロンとその赤ん坊以外、生きているものは何もいないのだ。
「お前……捨てられた、のか?」
あり得ない。
あり得ないのだが──
不思議なことに、その赤ん坊からは獣人特有の魔力の揺らぎは感じられない。
「……ぁう?」
寝ぼけているのか、薄く目を開けたその色は透き通るような金色だった。
お腹が空いていたのか、眠ったまましゃぶっていた親指を口から離し──
「は…ね……?猫族と鳥…のハーフ……?」
はらりとほどけたのは毛布ではなく、真っ白な羽根。
その下は何も着ておらず、女の子であることがわかる。
獣人族はそれぞれのカテゴリーがはっきりと決まっており、人間のように種族や国を超えて番うことはめったにない──はずだ。
シロンがそっと伸ばした指を赤ん坊の柔らかい指がキュッと握ると、我知らずにその小さな体を抱き上げてしまった。
その動きに安心したようにまたくるりと羽根を丸めて体を包んだ赤ん坊が目をつむると、まるで催眠術が切れたようにシロンは瞬きを繰り返す。
「み……魅了?そんな……猫族も鳥族も、そんな能力はないはず……」
ひょっとしたら今まで知られていない新種の獣人族の子供なのか──しかし鳴き声とも寝息ともつかない音を漏らしながら眠り続ける赤ん坊の重みは、人間のそれと何ら変わらない。
そして抱きつづけるその体からは、やはり何の魔力も感じられない。
「これは………」
ヤバい。
普通の獣人族は生まれつき魔力に溢れ、しかもその種族独特の強靭さも持ち合わせているはずなのに、何も感じないこの赤ん坊は見かけはともかく『普通の人間』と変わらない。
つまり──これは確実に稀少種。
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