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職業
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王太子という立場でなくとも、王家に生まれた子供は、継承順位に関わらず普通の貴族令息令嬢よりももっと多くの侍従や侍女に手を掛けられ、目覚めた瞬間から世話を焼かれると聞いている。
朝は掛け布団を取り払われ、床に足裏がつく前に室内履きを履かされ、指を伸ばせばその時必要なカラトリーが乗せられる──それはまあ冗談だろうが、男装幼女だったシーナがこっそりと持ち込んだ焼き菓子を摘まんだ指を舐めながら、リオンはいつも「めんどくさい」と言っていたのを思い出した。
身分的に言えばシーナのような子爵令嬢であれば公爵家では上級侍女として雇われるので、着付けぐらいは手伝ってもらうのが普通だが、学園だけでなくディーファン公爵家でもコルセットなど窮屈な物は着けていないため、1人でさっさとドレスも脱ぎ着する。
もっともそんなことが可能なのは幼児期にあまり食生活に恵まれなかったための腰の細さゆえだが、膨らむところが膨らんでいるのはヒロイン補正なのだろうか。
「まあ、家政クラスでは繕い物も教えてもらえるから、前留めの服とか作れたんだけどね」
「ああ、あの授業いいよな!できれば男子も混合にすればいいのに」
「そっ、それはっ……」
シーナやリオンの前世でも家庭科は女子生徒の選択肢で、通信教育でずっと家にいた詩音と違って通学を選んだ凛音ですら被服やら調理実習室に入ることは稀だった。
男女の格や差別が当然のこの世界ではそれはなおさら顕著で、料理人や裁縫師、ボタンや刺繍などを施す飾り職人はあまり尊重される仕事ではない。
だから王族であるリオンが気軽に家政の授業を受けたいと本音を漏らすと、ルエナが顔を青褪めて発言を止めようと慌てた。
「……城でも料理人や縫製を請け負ったり、洗濯や掃除などを行う者たちは下人として舐められるんだ」
「はぁ~……そういえば上級、下級って言うわね?」
「仕事に貴賎なしっていうけどな……現実には難しい」
「世界は変われど、常識はあんまり変わんないのねぇ……」
そしてそんな仕事でも市井にあれば重宝されたり地位は上なのかと言えばそうでもなくて、使用人を雇うほどの余裕はないが外注を頼めるほどの余裕がある家々を回る、いわゆるクリーニング屋とか買い物代行などはやはり格下に見られてしまう。
だがまだ王政を任される立場ではないリオンたちが職業格差を今すぐ解消できるわけもなく、当面の問題はそれじゃないと整理し直したところで休み時間は終わってしまった。
朝は掛け布団を取り払われ、床に足裏がつく前に室内履きを履かされ、指を伸ばせばその時必要なカラトリーが乗せられる──それはまあ冗談だろうが、男装幼女だったシーナがこっそりと持ち込んだ焼き菓子を摘まんだ指を舐めながら、リオンはいつも「めんどくさい」と言っていたのを思い出した。
身分的に言えばシーナのような子爵令嬢であれば公爵家では上級侍女として雇われるので、着付けぐらいは手伝ってもらうのが普通だが、学園だけでなくディーファン公爵家でもコルセットなど窮屈な物は着けていないため、1人でさっさとドレスも脱ぎ着する。
もっともそんなことが可能なのは幼児期にあまり食生活に恵まれなかったための腰の細さゆえだが、膨らむところが膨らんでいるのはヒロイン補正なのだろうか。
「まあ、家政クラスでは繕い物も教えてもらえるから、前留めの服とか作れたんだけどね」
「ああ、あの授業いいよな!できれば男子も混合にすればいいのに」
「そっ、それはっ……」
シーナやリオンの前世でも家庭科は女子生徒の選択肢で、通信教育でずっと家にいた詩音と違って通学を選んだ凛音ですら被服やら調理実習室に入ることは稀だった。
男女の格や差別が当然のこの世界ではそれはなおさら顕著で、料理人や裁縫師、ボタンや刺繍などを施す飾り職人はあまり尊重される仕事ではない。
だから王族であるリオンが気軽に家政の授業を受けたいと本音を漏らすと、ルエナが顔を青褪めて発言を止めようと慌てた。
「……城でも料理人や縫製を請け負ったり、洗濯や掃除などを行う者たちは下人として舐められるんだ」
「はぁ~……そういえば上級、下級って言うわね?」
「仕事に貴賎なしっていうけどな……現実には難しい」
「世界は変われど、常識はあんまり変わんないのねぇ……」
そしてそんな仕事でも市井にあれば重宝されたり地位は上なのかと言えばそうでもなくて、使用人を雇うほどの余裕はないが外注を頼めるほどの余裕がある家々を回る、いわゆるクリーニング屋とか買い物代行などはやはり格下に見られてしまう。
だがまだ王政を任される立場ではないリオンたちが職業格差を今すぐ解消できるわけもなく、当面の問題はそれじゃないと整理し直したところで休み時間は終わってしまった。
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