婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
263 / 267

追放

しおりを挟む
いつまで待ってもオイン子爵令嬢が、ディーファン公爵家から解放されない。
なんということか。
彼女が王太子に押し付けられた『公爵令嬢の罪滅ぼし』のための『行儀見習い』が完了すれば、ちゃんと家に戻されると思っていたのに。
低位貴族ではあったが彼女の礼儀作法は完璧だったし、今さら彼女が公爵家に行儀見習いに入る意味はないはずなのだ。
それに期間は『長期休暇中』だったはずなのに、学園が再開してもオイン子爵令嬢は相変わらずディーファン公爵家の馬車に同乗させられ、常にディーファン公爵令嬢のそばに置かれている。

そのせいで声がかけられない──

「……い……って……ル…」
「あ?」
「えっ」
思わず低い声で振り返ると、仲間・・がビクッと怯えたように一足下がった。
「…んだよ」
シーナや王太子の前では甘えん坊弟キャラを貫いていたルイフェン・クウェンティ・ダンビューラは、声を掛けてきたジェラウス・クーラン・クリシュアを睨みつけた。
「っあ…い、いや、その、ルイ…フェン…。その、ごめん…ディ、ディディエのこと……聞いた?」
「ああ」
ふいっと顔を逸らしたが、ジェラウスはおどおどしながらルイフェンの横に立った。
シーナたちと同じ学年の彼が二つ下の子息令嬢がいるこの教室までやってくることは珍しく、ヒソヒソとした声と視線を感じてルイフェンはスタスタと廊下を歩きだすと、何も言わないのにジェラウスは勝手についてくる。

いつだってこうだ。

シーナー・ティア・オイン子爵令嬢に目をつけたのはルイフェンの方が早かったのに、リオン王太子がさっさとその横に立った。
しかも王太子の学園内側近であるはずのディディエ・ファーケン・ムスタフやイストフ・シュラー・エビフェールクス、そして彼の兄であるベレフォン・ジュスト・ダンビューラまでが同学年だというだけでルイフェンを除け者にしてシーナの手を取ろうと競ったのである。

ズルイ、と単純に考えた。

だから自分の容姿を思いっきり生かして『可愛い弟キャラ』を作り上げて、シーナにとっての特別になろうとしたのに──
「ディディエさんがどうしたの?」
「あの……学園内側近の任を、解かれた、って……」
「え?」
思わず鼻の穴が膨らみ、口角が持ち上がる。
「は?」
「え……ンンッ…そ、そう……」
ジェラウスが目を見開いて『信じられない』という表情を浮かべたのに気が付いて素早く顔を伏せ、驚き過ぎたせいで表情筋が誤作動したというていで口元に拳を当てた。
込み上げる笑いを堪えつつ眉を顰めて困惑した感じを装い、上目遣いでジェラウスに確認する。
「任を解かれた…って……新しい学園内側近を選ぶってこと?」
「うん……そ、それが、さ……」


ルイフェンは呆然とした。
彼らと同じ学園内側近であるイストフ・シュラー・エビフェールクスは変わらずリオン王太子のそばにいるが、ルイフェンの一つ上の学年にいる年子のクルーファニー男爵子息のリオネル・ドゥーファンとリュシアン・ラオネスが学園内側近だというのである。

何故か自分が呼ばれずにいるなとは思っていたが、まさか新しい側近たちが王太子のそばにいるとは──

「なっ、何でっ……」
「何でって、ぼ、僕に言われても……」
しかもディディエは学園内側近どころか領地に帰還するようにと命じられ、貴族学園から除籍ということになっているらしい。
王宮に勤められずとも領地持ちの貴族ならば必ずしも王都の貴族学園を卒業する必要はないが、逆に言えばこの学園を卒業しなければ王宮に勤めることはおろか、王太子側近になる道すら閉ざされる。
自らその道を選んだとは思えないが──
「……ぼ、僕も……実は、その、薬学専門学術院にしょ、所属するように…って、父上に言われて……」
「は?」
「だ、だから…その、お別れ、を言いに……」
人脈と宮廷職につくための知識を得るための貴族学園ではなく、研究員として報酬を得る職員になるための薬学専門学術院に転学するということは、つまり王太子ひいては国王直属の宮廷貴族にはなれないということ。
「勝った」
「え?」
「あ、ううん……そう、その…いつ……?」
小さく溢した勝利宣言は相手には届かなかったらしく、ジェラウスに疑わしそうな目付きで見られたが、慌てて誤魔化したルイフェンはまた上目遣いで心細そうな表情を作ってみせた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

処理中です...