婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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シーナの『絵本』はもうそのまま『エホン』という名称で出版する運びとなった。
まだまだ印刷技術が優れているとは言い難いものの、一色だけの版刷りは大衆情報誌──前世でいう新聞に似た物で出されているので、多色刷りでできないかと試行錯誤中である。
シーナの納得がいくものが出来上がるまでは、手間はかかるが製紙の中でも分厚い紙に本人が直書きすることになった。
もちろんそんなものでは製本になど至らず、本当に紙芝居に似た一枚ものの絵が数枚という形になる。
しかしそこは彼女のこだわりで絵と一緒に文章も綴られることとなり、やはりアルベールは理解しがたいと眉を顰めた。
「だいたいこれは子供に見せる物……ということだが、子供では字など読めないだろう?」
「え?でも、この絵を見せながら親が読み上げれば、どんどん識字率は高くなるんじゃないの?」
親が子供に字を教える──『あ』とは『あ』という形なのだというように。
「……低位貴族ならばそういう場合もあるかもしれないが……伯爵以上の貴族家や王家では、親は子育てをしない」
「子育てをしない……は、ある意味デフォなのね」
「でふぉ?」
「デフォルトってことよ」
「でふぉると……とは?」
まあそれはお約束よね、と小さく口の中で呟き、シーナは説明を省いた。
前世の記憶があるというのはもうアルベールに打ち明けてはいるが、そこに英語だの日本語だの略語だのなんだのと言い出せばキリがない。
乙女ゲームが基本の世界観のせいかもしれないが、こちらでは言語はそんなに複雑ではなく、しかもどうやら東洋的な国も言語も存在していないと、他国と交流する術を持つリオンが教えてくれた。
「この世界があのゲームと類似してるのか、この世界が前世のあのゲームに影響を与えたのか……まあ、どちらにせよ、俺たちが知っている情報とほぼ変わらないっていうのは確かだし」
「まあそうね……っていうか、逆にアタシたちの存在がこの世界に影響を与えたってことは……」
「誰かがそこに存在すれば、どこかしら影響するだろう。たぶん、あのゲームや派生した物も、こっちからやってきた人に影響されて表に現れたのかもしれない」
「こっちから……あっちに……?」
「時間の流れが同じなのか違うのか、死んでこの世界に生まれ変わった俺たちにはわからない。だけど、前の人生で俺が凛音で、シーナが詩音で、そんで酷い兄貴が2人いたことと、いけ好かない親父と、大切にしてくれたじいちゃんと母さんがいたってことを2人とも覚えてる」
「……うん」

言われてみれば、そうかもしれない。
あっちからこっちに来る、だけ。
一方通行とは限らない。
ひょっとしたら、こことあっちだけじゃなく──

「うわぁ!何か魑魅魍魎じゃん!」
「四次元だか五次元だか?並行世界がどうとかだっけ?」
「あー、なるほど……そういうアレかぁ」
リオンとシーナが交わす会話の大半はわからないが、何か結論が出たようで、2人は何か頷いているのをアルベールは黙って見ていた。


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