婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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それはともかく──
「絵本……か……面白い物ですね、それは」
「これなら大丈夫?」
シーナがデッサン用のスケッチブックに描いてみせたのは絵本というよりも紙芝居に近い。
最初は男の子と女の子の絵を描き、手を繋いで歩いているのに『あるところにおんなのことおとこのこがいました』と文章を添えたのだが、アルベールには理解してもらえなかったためだ。
どうも絵と文章が一緒にあるという意味がわからないらしい。
「ああ……なるほど。これならば。でも、『アルトコロ』というのは、どの地方にあるのか……王国内の地域はだいたい頭に入っているのだが、そんな場所があったか……いや、新しく出来た村かそれとも過去に滅んだ集落か何かなのか?何故シーナは……いや、以前生きていた時の記憶があるとは聞いているが、どうやらこの国の過去ではなかったようだし……」
「え……ええっ?!」
不特定というか、お伽噺の常としての『あるところ』を、どうやら童話とか子供向けお話の存在しないこの世界の住人であるアルベールは『絶対存在する場所』と捉えたようだった。
だがその言葉に驚いたのはシーナだけでなく、当然彼女の前世の双子の兄であるリオンも同じである。
「あー…アルベール……」
「はい?」
「『アルトコロ』っていうのは、過去にも未来にもない」
「は?」
「いや、ひょっとしたらあるかもしれないが、特定できな」
「違うわよ!特定しちゃダメなのよ!聖地巡礼が始まっちゃうじゃん!」
「え?そ、そうか?」
「そうよ!アタシ知ってるもん!何かコスプレして、『ここがあのアニメの舞台となった場所です!』ってテレビに紹介されて、いっぱい人が集まって、荒らされて、んで地元の人が『いや~、すごい迷惑なんですよねぇ』って取材されて……」
「こ、こすぷれ?あにめ?てれび……?」
聞き慣れない単語をまくしたてるシーナに首を傾げるアルベールにリオンも頭を抱える。
「その言葉はアルにはわかんないから……後で説明するよ。ついでに紹介するのは『テレビ』じゃなくて『番組』な」
「そう!それ!どっちでもいいけど!」
「いや、確かにどっちでも通じなくはないけど……」
苦笑するリオンがそれぞれに言うと、アルベールは「それならば」と頷き、シーナはムゥッと唇を尖らせつつもとりあえずは気持ちを落ち着かせるように溜息をついた。
「うーん……まあ、とにかく……『どこか誰も知らない場所に住んでいる、どこの誰とも知らない少年と少女のお話』って言えばわかる?」
「おはなし……説法のようなものだろうか?」
「あー…うん、もうそれでいいや……宗教的な説法を子供向けに優しくするっていう方が受け入れられやすい……?」
「もうこうなったらこいつは話を聞かないから、とりあえずこっちはこっちで、エリー嬢の教育とかルエナの悪評改善についてもう少し犯人の特定と罰し方とか、話を整理しよう」
「あ、はい……わかりました」
そう言いながらもアルベールの視線が名残惜しそうにシーナに向けているのを見て、リオンは2人に聞こえないように声を潜めてフッと笑った。


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