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『公爵』という貴族の行動力と経済力と影響力というものを、自分は軽く見ていたのかもしれない。
シーナが呆然としたことに、次の日の昼過ぎに玄関ホールに呼ばれて行ってみれば、そこにはフルーフ夫人とルエナ、そしてエリー嬢の他にも色とりどりの成人女性が十数名もいた。
貴族女性のように装飾品過多というわけではないが、庶民というには少しばかり派手である。
だが例外なく言えることは、全員が『自分に似合う服』を着ているのだ。
中にはもちろんシンプル過ぎるほどシンプルな女性もいるが、それでもきちんと自分の身体に合っているテキスタイルでできており、パッと見た限りでもどこかの古着屋で購入した物でもなく自作であっても『着られればいい』という適当な物でもない。
「……あの、えっと」
「すごいわ!シーナちゃん!本当にこんなにお針子さんがいるなんて!みんなに『自分の作品を着てくるように』と伝えたの。夜会では見たことのないドレスばかりだけど、ねえ…あなたの使っている生地はどちらの物?」
「え…えぇ……あ、あのっ……」
おそらく彼女たちの大半──いや、ほとんどは店の売り子として店頭に出るより、縫製などで作業場にこもりきりで仕事をする者たちだろう。
貴族なんて遠目で見るだけで直接話したこともないに違いない。
それなのにいきなり呼ばれた王国でも最高位のディーファン公爵家の奥方がニコニコと笑いながら、様々な『青』を組み合わせて作った庶民のおしゃれ着を少し豪華にしたドレス未満のワンピースを着た女性に気軽に話しかけたのだ。
引き攣った笑みを浮かべているがどう返事をすればいいかと助けを求めるかのように、自分からわずかに距離を取った女性たちに流し目をする。
「……おばさま」
「あら?なあに、シーナちゃん?」
「あの、皆さん緊張しているみたいなので、いったん落ち着いてはいかがでしょう?」
「あらっ!そうね!では皆さんをあちらの庭に案内して差し上げて」
そう言うとパーラーメイドに手を振り、『客人』たちを大食堂から友人レベルの令嬢や婦人を招き入れることのある庭へと連れて行くようにと指示を出した。
ぞろぞろと彼女たちは促されるままに廊下を歩いていくが、チラチラと周囲を興味深く観察している。
「……へぇ……」
「ねぇ?やっぱりそうよね?あの方たち、とってもいいわよね?」
「そうですね」
フルール夫人とシーナがコソコソと囁き合うが、ルエナとエリー嬢は意味がわからずキョトンと顔を見合わせていた。
庭には5台の円卓に3人か4人ほどに分かれて座らされており、簡易的なお茶会が始まった。
シーナの慣れた目で見ればフルール夫人が侍女頭に命じたわけではなく、どうやら顔見知り同士で座っている。
それは色は様々でも、座っている女性たちが着ている物の傾向が似ているのを見たためだ。
おそらく縫い方だとか仕立て方で癖が出ているのだろうが、こうやって見比べることはこの国では見たことがないので、ずいぶんと楽しい。
もちろんそれはシーナ自身が幼い頃は貧民で貴族家には肖像画を描く時だけ父に連れて行かれるという生活をしており、よほどの事がなければその家の仕立てというのは同じテーラー、ドレスメーカーで家族全員の物となるためだ。
「ああ、そっか……コスプレみたいなものよね」
「こすぷれ?」
「あ、いいえ、何でもないですわ…おほほ」
シーナがポツリと零した言葉を拾ったルエナとエリー嬢がピタリと動きを止めて、不思議そうな顔をする。
実際はほとんど家を出たことがないから、前世での言葉で置き換えたとしてもそれは正解ではないのだが、シーナとしては『自分自身をマネキンにしている』と言ったつもりだった。
つまりは『何とかコレクション』のようなファッションショーというのに近いのだが、もちろんフルール夫人にそんな知識があるわけではなく、単純に彼女たちの腕が見たいと思っての服装指定だったのである。
シーナが呆然としたことに、次の日の昼過ぎに玄関ホールに呼ばれて行ってみれば、そこにはフルーフ夫人とルエナ、そしてエリー嬢の他にも色とりどりの成人女性が十数名もいた。
貴族女性のように装飾品過多というわけではないが、庶民というには少しばかり派手である。
だが例外なく言えることは、全員が『自分に似合う服』を着ているのだ。
中にはもちろんシンプル過ぎるほどシンプルな女性もいるが、それでもきちんと自分の身体に合っているテキスタイルでできており、パッと見た限りでもどこかの古着屋で購入した物でもなく自作であっても『着られればいい』という適当な物でもない。
「……あの、えっと」
「すごいわ!シーナちゃん!本当にこんなにお針子さんがいるなんて!みんなに『自分の作品を着てくるように』と伝えたの。夜会では見たことのないドレスばかりだけど、ねえ…あなたの使っている生地はどちらの物?」
「え…えぇ……あ、あのっ……」
おそらく彼女たちの大半──いや、ほとんどは店の売り子として店頭に出るより、縫製などで作業場にこもりきりで仕事をする者たちだろう。
貴族なんて遠目で見るだけで直接話したこともないに違いない。
それなのにいきなり呼ばれた王国でも最高位のディーファン公爵家の奥方がニコニコと笑いながら、様々な『青』を組み合わせて作った庶民のおしゃれ着を少し豪華にしたドレス未満のワンピースを着た女性に気軽に話しかけたのだ。
引き攣った笑みを浮かべているがどう返事をすればいいかと助けを求めるかのように、自分からわずかに距離を取った女性たちに流し目をする。
「……おばさま」
「あら?なあに、シーナちゃん?」
「あの、皆さん緊張しているみたいなので、いったん落ち着いてはいかがでしょう?」
「あらっ!そうね!では皆さんをあちらの庭に案内して差し上げて」
そう言うとパーラーメイドに手を振り、『客人』たちを大食堂から友人レベルの令嬢や婦人を招き入れることのある庭へと連れて行くようにと指示を出した。
ぞろぞろと彼女たちは促されるままに廊下を歩いていくが、チラチラと周囲を興味深く観察している。
「……へぇ……」
「ねぇ?やっぱりそうよね?あの方たち、とってもいいわよね?」
「そうですね」
フルール夫人とシーナがコソコソと囁き合うが、ルエナとエリー嬢は意味がわからずキョトンと顔を見合わせていた。
庭には5台の円卓に3人か4人ほどに分かれて座らされており、簡易的なお茶会が始まった。
シーナの慣れた目で見ればフルール夫人が侍女頭に命じたわけではなく、どうやら顔見知り同士で座っている。
それは色は様々でも、座っている女性たちが着ている物の傾向が似ているのを見たためだ。
おそらく縫い方だとか仕立て方で癖が出ているのだろうが、こうやって見比べることはこの国では見たことがないので、ずいぶんと楽しい。
もちろんそれはシーナ自身が幼い頃は貧民で貴族家には肖像画を描く時だけ父に連れて行かれるという生活をしており、よほどの事がなければその家の仕立てというのは同じテーラー、ドレスメーカーで家族全員の物となるためだ。
「ああ、そっか……コスプレみたいなものよね」
「こすぷれ?」
「あ、いいえ、何でもないですわ…おほほ」
シーナがポツリと零した言葉を拾ったルエナとエリー嬢がピタリと動きを止めて、不思議そうな顔をする。
実際はほとんど家を出たことがないから、前世での言葉で置き換えたとしてもそれは正解ではないのだが、シーナとしては『自分自身をマネキンにしている』と言ったつもりだった。
つまりは『何とかコレクション』のようなファッションショーというのに近いのだが、もちろんフルール夫人にそんな知識があるわけではなく、単純に彼女たちの腕が見たいと思っての服装指定だったのである。
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