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人材
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どうしたって無理なものは無理──とまではいかないが、今トップデザイナーが不在の王都内で将来有望な新進気鋭など見つけられるか。
「……仕上げの早いドレスデザイナーが雇っているお針子さんなどは当たれませんか?」
「仕上げの早い?」
「ええ」
ふっとシーナの表情が年齢よりも大人びたのを見て、ディーファン公爵の妻であるフルール夫人の表情も変わる。
「言い方は悪いですが、おそらく貴族領に招かれたのは仕立て屋の経営者、トップデザイナーの他にはそのお店の中で仕上げを行う者やチーフレベルの者でしょう」
「そう…ね……」
いくつか理解できない言葉があったものの、おそらくは店の中でも地位の高い者たちという意味だろうと汲み取り、フルール夫人は少女の言葉に頷いた。
「確かに店中の者全員と言うわけにはいかないでしょう。招く貴族家の資産状況によってはそんなことは些細なものでしょうけれど、さすがにお得意様すべてが王都からいなくなるわけではないから……呼び出しに対応できるくらいの腕の子はいるでしょうね」
「王都で生まれ育って、こういう機会に実家に帰るという人もいるのでは?」
シーナの前世的知識で考えれば、王都に残されたお針子さんは庶民であまりお金持ちではなく、おそらく奉公生活で自宅に帰るというより住み込みで修行しつつ店の中で働いているはず。
そしてそんな彼女らの夢と言えば縫製師の中でトップに上がり、できれば自分でデザインしたドレスを売り出し、欲を言えばどこかの貴族家のお抱えデザイナーとなって家族みんなで裕福に暮らすこと、だろう。
であれば腕はありつつも若さや勤めの短さゆえに才能を認めてもらえなかったり、軽視されて自分の作品を見てもらう機会を奪われている可能性はある。
「才能ある者を見つけたならば、引退したお針子さんを再雇用して、若さゆえに見逃してしまうような穴を文字通り埋めてもらうんです」
「それって……」
「我が家で新しいドレス専門の縫製師やデザイナーをお抱えにするってことかしら?」
「えっ」
さすがにそこまで考えてはいなかったが、夫人が考えこむのと同時にルエナが目を輝かせてグッと身を乗り出した。
思ったよりもノリがよくてちょっと驚くが、シーナもそれはそれでありかもと思う。
何よりシーナ自身は風景画や人物画を描くことは好きだし職業にできるほど才能はあるが、ドレスのデザインに興味があるとは言い難いから専門の人間がいれば色遣いやある程度見え方のアドバイスぐらいはこの世界にない知識などで行える。
そうして信用のできるデザイナーや縫製専門の者がルエナの周りを固めた上で、いつでも公爵家で新しいドレスを作れる環境ができているというのはリオンも安心するはずだ。
「ディーファン家出資のドレスメーカー……というか、専門部署を作るってことですね。いいと思います。しかしそれではこれまでディーファン家のドレスを作っていた人たちはどうなるんですか?」
「それが……『今シーズンは王都を離れるので、しばらく新しいドレスを作れません』という連絡が来たのよ。でも、わたくしたちのためにいつでも専任でドレスを作ってくれる者がいるっていうのはいいかもしれないわね……まあ、まるで王家や大公家のようではなくて?」
ディーファン公爵家専任ではなく、人気の服飾店のデザイナーを何人か呼んで作ってもらうのが普通だったというのを聞いてシーナは目を丸くする。
何となく高位貴族で大金持ちならばそんな職人を専任で雇っているのが普通だと思っていたが、この世界では使用人として雇用するのは王族の特権だったらしい。
それでは慣習を犯したと非難されるのではと高貴な夫人と、これから国最高位の女性となるはずの令嬢を止めた方がいいかと口を出そうとしたが、どうやら2人ともいいアイデアだと王都の中にある有名デザイナーで自分のお気に入りの店をさっそく調べようとノリノリになっている。
「……仕上げの早いドレスデザイナーが雇っているお針子さんなどは当たれませんか?」
「仕上げの早い?」
「ええ」
ふっとシーナの表情が年齢よりも大人びたのを見て、ディーファン公爵の妻であるフルール夫人の表情も変わる。
「言い方は悪いですが、おそらく貴族領に招かれたのは仕立て屋の経営者、トップデザイナーの他にはそのお店の中で仕上げを行う者やチーフレベルの者でしょう」
「そう…ね……」
いくつか理解できない言葉があったものの、おそらくは店の中でも地位の高い者たちという意味だろうと汲み取り、フルール夫人は少女の言葉に頷いた。
「確かに店中の者全員と言うわけにはいかないでしょう。招く貴族家の資産状況によってはそんなことは些細なものでしょうけれど、さすがにお得意様すべてが王都からいなくなるわけではないから……呼び出しに対応できるくらいの腕の子はいるでしょうね」
「王都で生まれ育って、こういう機会に実家に帰るという人もいるのでは?」
シーナの前世的知識で考えれば、王都に残されたお針子さんは庶民であまりお金持ちではなく、おそらく奉公生活で自宅に帰るというより住み込みで修行しつつ店の中で働いているはず。
そしてそんな彼女らの夢と言えば縫製師の中でトップに上がり、できれば自分でデザインしたドレスを売り出し、欲を言えばどこかの貴族家のお抱えデザイナーとなって家族みんなで裕福に暮らすこと、だろう。
であれば腕はありつつも若さや勤めの短さゆえに才能を認めてもらえなかったり、軽視されて自分の作品を見てもらう機会を奪われている可能性はある。
「才能ある者を見つけたならば、引退したお針子さんを再雇用して、若さゆえに見逃してしまうような穴を文字通り埋めてもらうんです」
「それって……」
「我が家で新しいドレス専門の縫製師やデザイナーをお抱えにするってことかしら?」
「えっ」
さすがにそこまで考えてはいなかったが、夫人が考えこむのと同時にルエナが目を輝かせてグッと身を乗り出した。
思ったよりもノリがよくてちょっと驚くが、シーナもそれはそれでありかもと思う。
何よりシーナ自身は風景画や人物画を描くことは好きだし職業にできるほど才能はあるが、ドレスのデザインに興味があるとは言い難いから専門の人間がいれば色遣いやある程度見え方のアドバイスぐらいはこの世界にない知識などで行える。
そうして信用のできるデザイナーや縫製専門の者がルエナの周りを固めた上で、いつでも公爵家で新しいドレスを作れる環境ができているというのはリオンも安心するはずだ。
「ディーファン家出資のドレスメーカー……というか、専門部署を作るってことですね。いいと思います。しかしそれではこれまでディーファン家のドレスを作っていた人たちはどうなるんですか?」
「それが……『今シーズンは王都を離れるので、しばらく新しいドレスを作れません』という連絡が来たのよ。でも、わたくしたちのためにいつでも専任でドレスを作ってくれる者がいるっていうのはいいかもしれないわね……まあ、まるで王家や大公家のようではなくて?」
ディーファン公爵家専任ではなく、人気の服飾店のデザイナーを何人か呼んで作ってもらうのが普通だったというのを聞いてシーナは目を丸くする。
何となく高位貴族で大金持ちならばそんな職人を専任で雇っているのが普通だと思っていたが、この世界では使用人として雇用するのは王族の特権だったらしい。
それでは慣習を犯したと非難されるのではと高貴な夫人と、これから国最高位の女性となるはずの令嬢を止めた方がいいかと口を出そうとしたが、どうやら2人ともいいアイデアだと王都の中にある有名デザイナーで自分のお気に入りの店をさっそく調べようとノリノリになっている。
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