婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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ディーファン公爵夫人は眉を寄せて微笑みながらも困った顔をするという、珍しい表情を浮かべていた。
原因は予定されていない舞踏会の招待状が突然届いたせいである。
「まったく陛下の気紛れにも困ったものねぇ……子供たちが貴族学園にいるこの時期は、領地に帰っている者もいるのにねぇ」
「そうなんですか?」
今やディーファン公爵家の食客と言われてもおかしくないような扱いになっているシーナ・オイン子爵令嬢が、大きな丸テーブルにずらりと並べられた甘いお菓子たちのひとつを手にしたまま、コテンと首を傾げる。
「ええ。オイン子爵様は確か王都からあまり離れていないところに領地をお持ちだから行き来が楽でしょうけれど、伯爵家以上でかなり遠くに領地をいただいていたり、広すぎると全体を視察するために、だいたい今ぐらいの時期に王都を離れるのよ」
「そうね。特に子供たちが貴族学園に通っている間は寄宿舎に入っている場合もあるから、特に社交を積極的に行う必要もないわ」
「ああ、そうか……」
シーナの右隣に座るルエナが微笑みながら説明すると、ディーファン夫人が補足してくれた。
納得したシーナはお茶を少しだけ飲んでから音を立てずにソーサーに戻したが、自分のその仕草が身についてきたことに気付いて、何となくくすぐったく思う。
「でも、今回の舞踏会は突然ですわね?お母様」
「本当に……どなたの気紛れなのかしら?これではドレスを支度してあげることもできないわ」
「ドレスって……いつ、その舞踏会が開かれるんですか?」
「それがねぇ……来月なのよ」

来月。
ひと月。
いや、もう少し時間は少なくて20日余りらしい。

普通ならば社交シーズンが始まる2ヶ月ぐらい前からドレスやら装飾品やらを揃えねばならない。
パートナーのいない者ならばともかく、夫婦や婚約者同士で衣装を合わせるのが当然だからそれだけ時間がかかる。
それだというのに季節外れもいいところで、新しく仕立てることなどできはしない。
「いえ、でもドレスを仕立てる職人まで王都にいないってことはないですよね?」
「それがねぇ……」
公爵夫人が溜息をつくのも無理はない。
何故なら高位貴族たちは新しいドレスや装飾品のイメージを掴んでもらいたいと目をつけたデザイナーや服飾職人を自分の領地に誘って滞在させ、領地の本邸で新しいドレスを作ってもらうのだ。
そのため腕のいい者ほど好条件を示されて王都から出てしまい、王都にいる宮廷貴族たちは誘われなかったそこそこの腕の者にいつもより劣るドレスを作ってもらうか、作ってはいたがまだ袖を通していないドレスのどれかを渋々着なければならない。
言い方は悪いが、金銭的に余裕のない低位貴族ならばともかく、さすがに公爵家がそんな恥を晒すわけにはいかないだろう。


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