婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
237 / 267

聖夜

しおりを挟む
シーナは実父と義父──実父の兄であり、血の繋がった伯父というのが正確な関係なのだけど──と一緒に、この子爵邸では先代のオイン子爵夫人がいた頃に開催した夜会のようなご馳走を前にしていた。

普通は社交のためダンスと酒とおしゃべりがメインとされるが、シーナの祖母は大変食べることが好きで、どちらかというと晩餐会のようだったと2人の父が懐かしそうに話してくれた。
「しかし何だな……シーナの料理の腕は、うちの料理長も感心していたよ」
「そうだろう?いつの間に覚えたのか、殿下にこっそり分けてもらった王宮の晩餐のような料理だって作れるんだよ、うちのシーナは」
「まったくすごいな、僕らの娘は!それに今は殿下ではなく、陛下だぞ?」
「あぁっ!そうか…そうだったなぁ。王宮に画家として呼ばれても、いつもあんまり気安いから、つい昔と同じ呼び方をしてしまう……」
「まったくお前ときたら……」
似た顔と笑い方でハッハッハッと笑う父たちは紛れもなく兄弟で、しかも驚いたことに現国王陛下とは幼馴染だという──

「まさかシーナまで、王太子殿下と親しくさせてもらうことになるとはなぁ……」
「さすがにこの子1人で貧民街のあばら屋に置いておくわけにはいかなかったからね……注目されないように髪色も変えたんだけど、いつの間にやら仲良くなってしまって」
「まぁ……さすがに身分差があるから、たとえ親しくされても王太子妃に選ばれることはないだろうが、妃殿下の相談役ぐらいには取り立ててもらえるかもなぁ」
「兄さん!変なこと考えないでくれよ?この子には俺よりも絵の才能があるんだ。この国では女画家として身を立てることは難しいかもしれないが、他国に留学生として推薦してもらえればいいと思っているんだから……」
自分むすめを何だと思っているのか、勝手な将来設計を語る父たちにウンザリしつつも、今日のローストビーフはうまくいったと、シーナは無言で頷く。

この国に某唯一神の生誕を祝うような風習はない。
というかそもそも信仰する神が違うし、しかもその神の誕生日を制定するなどという不遜な考え自体忌避されるだろう。
だが、幸いなことにたまたま今日は母と父が婚姻を決め、後に一人娘の生誕が叶った祝いの日である。
それを知った義父は、子爵家としてはずいぶん大盤振る舞いのお祝いを屋敷で働く使用人たちにまで振る舞った。
それは異性に対して恋愛感情どころか下半身すら反応することができない伯父の──いや義父の、先祖や先代、一族への罪悪感と、思ったよりも姪が可愛いという感情が爆発したものだと、父はこっそり耳打ちしてくれた。

「……だからね、お前はただ愛されていればいいのだよ」
「はいはい」
養女となれば、本来は実の親と会うことなどなくなると思った方がいい。
それなのに身柄を引き受けてくれたのが父の兄で、しかも実父は生きていて、今現在一緒に暮らせている。

双子の兄が同じ世界に転生していたというのは驚きではあったが、嬉しくもあり、そして違う家庭に生まれたという寂しさもあった。
それでも──


私は、幸せだ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました

さこの
恋愛
 婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。  そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。  それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。  あくまで架空のゆる設定です。 ホットランキング入りしました。ありがとうございます!! 2021/08/29 *全三十話です。執筆済みです

処理中です...