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平和
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だがルエナの言葉に棘はなく、エリー嬢は不思議そうな顔をしながらもアドバイスにキラキラと目を輝かせ、素直に頷いている。
イストフは逆にその言葉にわずかに俯いて、居心地が悪そうな表情になった。
「素晴らしい者ではない……俺はその言葉を、本当に理解しなければならないな」
「イストフお兄様?」
「俺は君の前では年上らしく、何も間違っていないという顔をしていたが……本当は人を見る目もなく、物事を見抜く目もなく、冷静に考えられる頭もない。足りない物ばかりだ」
どんなにイストフが後悔の言葉を溢しても、エリー嬢は嫌悪感を見せることもなく可愛らしく微笑み、新しい婚約者の大きな手に白い手を乗せた。
「大丈夫ですわ、イストフお兄様。わたくしはまだ子供で、お兄様はやっぱり年上のお兄様でいらっしゃって……でも、やっぱりわたくしたちはどちらも大人ではないんですもの。デビュタントもしていないのですから、これからたくさん人を見て、物事の是非の判断を考えて、いっぱい間違えていいんだと思います」
「エリー……」
「わたくし、故郷にいた時は今イストフお兄様がおっしゃったようなことすら考えたり、自分が間違えることがあるとか、そもそも判断したり意見することが許されるなんて……思ったこともありませんでしたもの。お父様も、テフラヌお兄様も、きっとわたくしが自分で決めたり考えたり感じたりすることを許してくださったりしなかったと思いますもの」
「そう……かも、しれない……たぶん、俺も今この席に座ることができていなければ、きっと兄や父たちと同じ人間のままだった」
エリー嬢のまっすぐな言葉にイストフの頭がゆっくりと上がり、眩しいものを見るように年下の恋人に微笑みかけた。
「あっまーい……」
「甘いねぇ……」
「『甘い』とは……?」
「あー…何というのかなぁ……微笑ましい?」
「ちょっと違うんじゃない?こう…『見ててこっちまで幸せな気分になる』?」
「ニヨニヨする?」
「に…によによ…ですか?」
リオンとシーナがそれぞれ「リア充爆発しろ」と思うだけで言葉にはせず、始まったばかりのエリー嬢とイストフの間で流れる空気感を言い表すが、スラングに近いその表現にルエナはキョトンとする。
説明されればさらにわからない。
でも何となく──テーブルの向こう側にいるふたりが良い雰囲気なのは理解でき、「可愛らしいこと」と自分の言葉に置き換えて納得する。
「いいねぇ。リア充。リオンも爆死な」
「えっ?!酷くない?それぇ……」
ニッと笑って両手をピストル型にしてリオンに向けると、ウグッと呻いてリオンは自分の胸元を押さえる。
ルエナがどこか痛むのかと慌てて覗き込むが、もちろん怪我をしているわけではない。
シーナを標的にしたイジメが横行していた今までと比べ、ゆったりとした空気がここにはあり、今ぐらいはこの優しい時間を味わうべきなのだとわかっていた。
イストフは逆にその言葉にわずかに俯いて、居心地が悪そうな表情になった。
「素晴らしい者ではない……俺はその言葉を、本当に理解しなければならないな」
「イストフお兄様?」
「俺は君の前では年上らしく、何も間違っていないという顔をしていたが……本当は人を見る目もなく、物事を見抜く目もなく、冷静に考えられる頭もない。足りない物ばかりだ」
どんなにイストフが後悔の言葉を溢しても、エリー嬢は嫌悪感を見せることもなく可愛らしく微笑み、新しい婚約者の大きな手に白い手を乗せた。
「大丈夫ですわ、イストフお兄様。わたくしはまだ子供で、お兄様はやっぱり年上のお兄様でいらっしゃって……でも、やっぱりわたくしたちはどちらも大人ではないんですもの。デビュタントもしていないのですから、これからたくさん人を見て、物事の是非の判断を考えて、いっぱい間違えていいんだと思います」
「エリー……」
「わたくし、故郷にいた時は今イストフお兄様がおっしゃったようなことすら考えたり、自分が間違えることがあるとか、そもそも判断したり意見することが許されるなんて……思ったこともありませんでしたもの。お父様も、テフラヌお兄様も、きっとわたくしが自分で決めたり考えたり感じたりすることを許してくださったりしなかったと思いますもの」
「そう……かも、しれない……たぶん、俺も今この席に座ることができていなければ、きっと兄や父たちと同じ人間のままだった」
エリー嬢のまっすぐな言葉にイストフの頭がゆっくりと上がり、眩しいものを見るように年下の恋人に微笑みかけた。
「あっまーい……」
「甘いねぇ……」
「『甘い』とは……?」
「あー…何というのかなぁ……微笑ましい?」
「ちょっと違うんじゃない?こう…『見ててこっちまで幸せな気分になる』?」
「ニヨニヨする?」
「に…によによ…ですか?」
リオンとシーナがそれぞれ「リア充爆発しろ」と思うだけで言葉にはせず、始まったばかりのエリー嬢とイストフの間で流れる空気感を言い表すが、スラングに近いその表現にルエナはキョトンとする。
説明されればさらにわからない。
でも何となく──テーブルの向こう側にいるふたりが良い雰囲気なのは理解でき、「可愛らしいこと」と自分の言葉に置き換えて納得する。
「いいねぇ。リア充。リオンも爆死な」
「えっ?!酷くない?それぇ……」
ニッと笑って両手をピストル型にしてリオンに向けると、ウグッと呻いてリオンは自分の胸元を押さえる。
ルエナがどこか痛むのかと慌てて覗き込むが、もちろん怪我をしているわけではない。
シーナを標的にしたイジメが横行していた今までと比べ、ゆったりとした空気がここにはあり、今ぐらいはこの優しい時間を味わうべきなのだとわかっていた。
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