婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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リオンもシーナの抱える問題はわかっている──否、詩音の問題、だ。
解決のできない問題。
すでに通りすぎてしまったこと。
取り戻せない平穏。
詩音自身ではなく、凛音のせいでもなく、兄と認めたくも呼びたくもない存在による加害の果て。
転生しながらも前世の記憶が蘇ったことを嘆きはしないが、詩音の恐怖と悲しみが取り除かれていなかったことが辛い。
それは誰にも共有できない、双子として繋がりがあっても、引き受けてあげられないものだ。
「それについては……彼女自身が幼い頃から女の子であるというのを隠さなければならなかったこともあり、僕が態度を改めるように諭さなかった結果とも言えるね。だからその件に関しては、学園内側近の者たちを必要以上には咎めない。詳細は言えないが、ちょっとした計画もあってね」
「計画?」
リオンの言葉に首を傾げたのはイストフだけでなく、ルエナやエリーも同様だ。
だがリオンもシオンもその内容を話すつもりはなく、微妙な雰囲気のままティーカップを持ち上げる。
「……エリーはその、どうだい?授業にはついて…いけているのか?」
「え……あ、はい……ルエナ様とご一緒させていただくことはありませんが、侯爵家で侍女長をされていらっしゃったご夫人が講師様で、わたくしの年齢もあって気にしていただけてます」
「そこは『いただけてます』よ。言葉は正しく発音なさい。いずれ格上の家に嫁ぐのならば、言葉尻を捕らえられて揚げ足を掬われるような隙は見せないことが大切よ。わたくしが言えたことではないけれど……」
「そ、そんな……」
ルエナがエリーの言葉を正すが、つい自戒の念も溢してしまう。
毒され正気を失っていた頃のルエナを知らないエリーは、ただ病的に痩せていたお嬢様が普通に生活できるようになったとしか思っておらず、こんな完璧な淑女に後悔するようなことがあるのかと驚いて首を振った。
「ふふ……いいのよ……ちゃんとすべて覚えているわけではないけれど……わたくしはそんなに素晴らしい者ではないの。今だって……だから、今度は……」
さすが公爵家の使用人たちによる手入れのおかげで髪の毛も肌も艶やかではあるが、ルエナの頬やドレスの袖から覗く手首から先はまだ骨ばっている。
クスリは抜けているが、完全に健康的な生活に戻るにはまだもう少しかかるだろうと、口数の少なくなったシーナは思案気に冷めたお茶を口にした。


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