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視界が塞がれたせいかリオンが抱き締めているせいか、ルエナの身体が震えを止めてくったりと寄りかかるのを見て、シーナもいつの間にか詰めていた息を吐きだした。
イストフに庇われていたエリーもハッと小さく声を出し、短く息を継ぐ。
「……な、何が…いったい……?」
ゲーム補正か、ルエナがどんな状態かを見ることをしてこなかったイストフには、なぜ彼女が狂人のようになったのか、理由が分かっていなかった。
そのことに取り巻かれていたシーナは憮然としながらも、ルエナの身に起こっていたことを簡単に話す。
「ルエナ様、どっかのバカに毒性のあるお茶を飲まされていたのよ。子供の頃からね。どっかのバカはどうにかしてルエナ様を手に入れたかったのかもしれないけど……ディーファン公爵夫妻を侮っていたのかもね。跡取りのアルがいるから、ルエナ様はきっと政略結婚の道具としてしか扱われていないだろう…とかね」
「えっ?ち、違うのか?」
「アンタって本当に見る目ないわねぇ!ルエナ様がどれだけ夫妻に大事にされてるか、こちらにうかがったら分るでしょうに……」
シーナが呆れたように背後の公爵邸を指すと、イストフはキョトンとした。
男子継承社会であるダンガフ王国は、王家はもちろん、末端貴族どころか平民に至るまで長男が家長の次に大切にされ、スペアとして育てられる次男がいれば生母の立場は強固となり、女児は軽視される傾向にある。
造作が美しければそれなりに教育が施されるが、それはすべて実家の繁栄や両親に利益をもたらす結婚をするためのものであり、大切なのか娘自身ではなく、その娘が男児を産むかどうかが肝心なのだ。
孫が男児でさらに何人か産まれたのならばひとりぐらいはまた|妻の実家⦅じぶん》に戻し、婚家の財産を取りこめればさらに役に立ってくれたと褒められる。
女児の価値など、その程度だ。
王家ならば隣国の王家に対する取引材料だったり、高位貴族の裕福な財産を得るための手段であり、低位貴族ならば高位貴族の懐に入り込んで、少しでも自分の財布を重くするための方法。
イストフの記憶の中にあるルエナ嬢はさすがに高位貴族らしく艶やかに手入れされたプラチナブロンドを持つ氷のような美貌の令嬢ではあるが、その頃は病的に痩せており、不健康さを理由に婚約が解消されない方が不思議なぐらいだった。
もっともそれは辺境で育ったイストフ自身が子供の頃のルエナを知らないせいだが、彼女はとても美しい女児だったのである。
無傷でディーファン公爵家の財産諸共手に入れば将来的に容貌が優れた子供に恵まれるだろうし、どこかの貴族と婚約してても破棄されれば『傷物』として忌避され、婚姻を結ぼうとする家は『ありがたい引き取り手』として更に持参金が見込めると見下されるはずだ。
だが──
「王太子殿下は婚約破棄を宣言する代わりに、シーナ嬢をそばに置くように、と……」
「つまり傷があってもなくても、ルエナ様を手に入れられる機会は激減。というか本当は皆無。でも子息令嬢が『ルエナ嬢は王家の頂に立つにふさわしくない』って噂をし始めたら……ね」
「どんなに王太子が望んでも、他者が許さない……か。だからといって、シーナ嬢は爵位的に王太子妃には……」
「なれないでしょうね、そりゃ。子爵なんて、低すぎるもの。当然のようにもっと高位の貴族が捻じ込んでくるわよ。それこそ『政略結婚は貴族として当たり前』って王族を言いくるめようとするかもね」
「いやそれは……」
イストフは現国王陛下夫妻を思い浮かべたが、内裏のふたりは相思相愛で子供を溺愛するただの『親』にしか見えない。
とてもリオン王太子に対して『政略結婚』を強いるとは到底思えなかった。
イストフに庇われていたエリーもハッと小さく声を出し、短く息を継ぐ。
「……な、何が…いったい……?」
ゲーム補正か、ルエナがどんな状態かを見ることをしてこなかったイストフには、なぜ彼女が狂人のようになったのか、理由が分かっていなかった。
そのことに取り巻かれていたシーナは憮然としながらも、ルエナの身に起こっていたことを簡単に話す。
「ルエナ様、どっかのバカに毒性のあるお茶を飲まされていたのよ。子供の頃からね。どっかのバカはどうにかしてルエナ様を手に入れたかったのかもしれないけど……ディーファン公爵夫妻を侮っていたのかもね。跡取りのアルがいるから、ルエナ様はきっと政略結婚の道具としてしか扱われていないだろう…とかね」
「えっ?ち、違うのか?」
「アンタって本当に見る目ないわねぇ!ルエナ様がどれだけ夫妻に大事にされてるか、こちらにうかがったら分るでしょうに……」
シーナが呆れたように背後の公爵邸を指すと、イストフはキョトンとした。
男子継承社会であるダンガフ王国は、王家はもちろん、末端貴族どころか平民に至るまで長男が家長の次に大切にされ、スペアとして育てられる次男がいれば生母の立場は強固となり、女児は軽視される傾向にある。
造作が美しければそれなりに教育が施されるが、それはすべて実家の繁栄や両親に利益をもたらす結婚をするためのものであり、大切なのか娘自身ではなく、その娘が男児を産むかどうかが肝心なのだ。
孫が男児でさらに何人か産まれたのならばひとりぐらいはまた|妻の実家⦅じぶん》に戻し、婚家の財産を取りこめればさらに役に立ってくれたと褒められる。
女児の価値など、その程度だ。
王家ならば隣国の王家に対する取引材料だったり、高位貴族の裕福な財産を得るための手段であり、低位貴族ならば高位貴族の懐に入り込んで、少しでも自分の財布を重くするための方法。
イストフの記憶の中にあるルエナ嬢はさすがに高位貴族らしく艶やかに手入れされたプラチナブロンドを持つ氷のような美貌の令嬢ではあるが、その頃は病的に痩せており、不健康さを理由に婚約が解消されない方が不思議なぐらいだった。
もっともそれは辺境で育ったイストフ自身が子供の頃のルエナを知らないせいだが、彼女はとても美しい女児だったのである。
無傷でディーファン公爵家の財産諸共手に入れば将来的に容貌が優れた子供に恵まれるだろうし、どこかの貴族と婚約してても破棄されれば『傷物』として忌避され、婚姻を結ぼうとする家は『ありがたい引き取り手』として更に持参金が見込めると見下されるはずだ。
だが──
「王太子殿下は婚約破棄を宣言する代わりに、シーナ嬢をそばに置くように、と……」
「つまり傷があってもなくても、ルエナ様を手に入れられる機会は激減。というか本当は皆無。でも子息令嬢が『ルエナ嬢は王家の頂に立つにふさわしくない』って噂をし始めたら……ね」
「どんなに王太子が望んでも、他者が許さない……か。だからといって、シーナ嬢は爵位的に王太子妃には……」
「なれないでしょうね、そりゃ。子爵なんて、低すぎるもの。当然のようにもっと高位の貴族が捻じ込んでくるわよ。それこそ『政略結婚は貴族として当たり前』って王族を言いくるめようとするかもね」
「いやそれは……」
イストフは現国王陛下夫妻を思い浮かべたが、内裏のふたりは相思相愛で子供を溺愛するただの『親』にしか見えない。
とてもリオン王太子に対して『政略結婚』を強いるとは到底思えなかった。
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