婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
220 / 267

伝説

しおりを挟む
伝説によればその部族は神と妖精ニンフの血を受け継ぎ、女だけで家族を作り、子をもうける場合は他部族の男と一夜だけの関係を結んだ。
産まれた赤子が女ならばそのまま育てるが、男なら殺してしまう──

「ヒッ……」
滔々とシーナが話していると、ルエナが顔を青褪めさせて息を飲む音が立った。
その声にハッとしてテーブルに着く面々を見回せば、平然とした顔をしているのは自分と同じく前世の記憶を持つリオンのみで、ルエナのように声は上げなかったもののイストフやリオネルとリュシアン兄弟も眉を顰めてやや仰け反っている。
「……ん?どうしたの?」
「い、いや……シーナ嬢は……ずいぶん、お、面白い話を知っているな……と」
「う、うん……でも……女性だけで生きていくなんて……そ、それに……一夜だけ……って……あの……」
「そんな部族なんて、図書館の歴史書にはなかったんですが……いや、どこかの王国の売春する女性たちをまとめて『部族』とか……?そうすれば、国としては汚点とはなりづらい……」
イストフが顔を引きつらせて話の内容を評価するとリュシアンも同意する。
少し違った反応を見せたのは本の虫であるリオネルだが、『伝説』という言葉や『多神教』という考え方は珍しいらしく、単純に売春を生業とする集団という考え方でその存在を『有り』だと考えたらしい。
とすると、シーナの描いてみせた女戦士はコスプレか何かと思われたのだろうか──
「天使・聖人は使徒故に複数あれど、神はただ唯一の尊き者なり……」
「まあそんなところだろうな。国としては同じ神を崇める国々と交易や外交を行っているから……一応多神教の国もこの世界にはあるけど、やっぱり邪教と不信心者の野蛮人として見下しているけどね」
そんなことだろうとは思うが、自分たちを『超越した文化の人間』だとシーナは思えなかった。
ただ「受け入れられない」という人の感情はともかく、信仰から対話を成り立たせられる外交相手を選別するのには有りな手段かもしれない。
「それはそうかもね……あ、ちなみにこれは実在の部族を元にしているという説もあるけど、アタシが知ってるのは『ギリシャ神話』っていう古代の神々の題材にしたお話の中のものよ?そして別に彼女たちは身体を売って子供をもうけたわけじゃなくて、自分たちで狩りをしたり戦ったり、ちゃんと自立した集団……むしろ、徹底して男を排除した一族っていう話なんだけど……まぁ、わからないよね」
この世界には──少なくともこの国には子供向けの『童話』はない。
代わりにあるのは聖書のようなもので、それらを話して聞かせるということはあっても、けっして内容をかみ砕いたものではなく、難しく理解が及ばないまま子供たちは丸暗記するぐらい聞かされる。
そして大人になって学べる者は言葉を学び、学べない者は自分なりに解釈してもそれを説明することなく、次代には聞かされたまま読めるままに話し伝えるのだ。

『子供』には決して優しくないこの世界は、やはりゲームとして創作されたものだからだろうか──


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

処理中です...