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伝説
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伝説によればその部族は神と妖精の血を受け継ぎ、女だけで家族を作り、子をもうける場合は他部族の男と一夜だけの関係を結んだ。
産まれた赤子が女ならばそのまま育てるが、男なら殺してしまう──
「ヒッ……」
滔々とシーナが話していると、ルエナが顔を青褪めさせて息を飲む音が立った。
その声にハッとしてテーブルに着く面々を見回せば、平然とした顔をしているのは自分と同じく前世の記憶を持つリオンのみで、ルエナのように声は上げなかったもののイストフやリオネルとリュシアン兄弟も眉を顰めてやや仰け反っている。
「……ん?どうしたの?」
「い、いや……シーナ嬢は……ずいぶん、お、面白い話を知っているな……と」
「う、うん……でも……女性だけで生きていくなんて……そ、それに……一夜だけ……って……あの……」
「そんな部族なんて、図書館の歴史書にはなかったんですが……いや、どこかの王国の売春する女性たちをまとめて『部族』とか……?そうすれば、国としては汚点とはなりづらい……」
イストフが顔を引きつらせて話の内容を評価するとリュシアンも同意する。
少し違った反応を見せたのは本の虫であるリオネルだが、『伝説』という言葉や『多神教』という考え方は珍しいらしく、単純に売春を生業とする集団という考え方でその存在を『有り』だと考えたらしい。
とすると、シーナの描いてみせた女戦士はコスプレか何かと思われたのだろうか──
「天使・聖人は使徒故に複数あれど、神はただ唯一の尊き者なり……」
「まあそんなところだろうな。国としては同じ神を崇める国々と交易や外交を行っているから……一応多神教の国もこの世界にはあるけど、やっぱり邪教と不信心者の野蛮人として見下しているけどね」
そんなことだろうとは思うが、自分たちを『超越した文化の人間』だとシーナは思えなかった。
ただ「受け入れられない」という人の感情はともかく、信仰から対話を成り立たせられる外交相手を選別するのには有りな手段かもしれない。
「それはそうかもね……あ、ちなみにこれは実在の部族を元にしているという説もあるけど、アタシが知ってるのは『ギリシャ神話』っていう古代の神々の題材にしたお話の中のものよ?そして別に彼女たちは身体を売って子供をもうけたわけじゃなくて、自分たちで狩りをしたり戦ったり、ちゃんと自立した集団……むしろ、徹底して男を排除した一族っていう話なんだけど……まぁ、わからないよね」
この世界には──少なくともこの国には子供向けの『童話』はない。
代わりにあるのは聖書のようなもので、それらを話して聞かせるということはあっても、けっして内容をかみ砕いたものではなく、難しく理解が及ばないまま子供たちは丸暗記するぐらい聞かされる。
そして大人になって学べる者は言葉を学び、学べない者は自分なりに解釈してもそれを説明することなく、次代には聞かされたまま読めるままに話し伝えるのだ。
『子供』には決して優しくないこの世界は、やはりゲームとして創作されたものだからだろうか──
産まれた赤子が女ならばそのまま育てるが、男なら殺してしまう──
「ヒッ……」
滔々とシーナが話していると、ルエナが顔を青褪めさせて息を飲む音が立った。
その声にハッとしてテーブルに着く面々を見回せば、平然とした顔をしているのは自分と同じく前世の記憶を持つリオンのみで、ルエナのように声は上げなかったもののイストフやリオネルとリュシアン兄弟も眉を顰めてやや仰け反っている。
「……ん?どうしたの?」
「い、いや……シーナ嬢は……ずいぶん、お、面白い話を知っているな……と」
「う、うん……でも……女性だけで生きていくなんて……そ、それに……一夜だけ……って……あの……」
「そんな部族なんて、図書館の歴史書にはなかったんですが……いや、どこかの王国の売春する女性たちをまとめて『部族』とか……?そうすれば、国としては汚点とはなりづらい……」
イストフが顔を引きつらせて話の内容を評価するとリュシアンも同意する。
少し違った反応を見せたのは本の虫であるリオネルだが、『伝説』という言葉や『多神教』という考え方は珍しいらしく、単純に売春を生業とする集団という考え方でその存在を『有り』だと考えたらしい。
とすると、シーナの描いてみせた女戦士はコスプレか何かと思われたのだろうか──
「天使・聖人は使徒故に複数あれど、神はただ唯一の尊き者なり……」
「まあそんなところだろうな。国としては同じ神を崇める国々と交易や外交を行っているから……一応多神教の国もこの世界にはあるけど、やっぱり邪教と不信心者の野蛮人として見下しているけどね」
そんなことだろうとは思うが、自分たちを『超越した文化の人間』だとシーナは思えなかった。
ただ「受け入れられない」という人の感情はともかく、信仰から対話を成り立たせられる外交相手を選別するのには有りな手段かもしれない。
「それはそうかもね……あ、ちなみにこれは実在の部族を元にしているという説もあるけど、アタシが知ってるのは『ギリシャ神話』っていう古代の神々の題材にしたお話の中のものよ?そして別に彼女たちは身体を売って子供をもうけたわけじゃなくて、自分たちで狩りをしたり戦ったり、ちゃんと自立した集団……むしろ、徹底して男を排除した一族っていう話なんだけど……まぁ、わからないよね」
この世界には──少なくともこの国には子供向けの『童話』はない。
代わりにあるのは聖書のようなもので、それらを話して聞かせるということはあっても、けっして内容をかみ砕いたものではなく、難しく理解が及ばないまま子供たちは丸暗記するぐらい聞かされる。
そして大人になって学べる者は言葉を学び、学べない者は自分なりに解釈してもそれを説明することなく、次代には聞かされたまま読めるままに話し伝えるのだ。
『子供』には決して優しくないこの世界は、やはりゲームとして創作されたものだからだろうか──
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