婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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エリー嬢のいない場所だからこそ、イストフは促されるままに告白した。
「兄は……無垢なままのエリーを、エルネスティーヌ・フェリース・イェンという貴族令嬢を、快楽奴隷にしようと……していたと、思います」
「…………はぁっ?!」
数拍置いてから声を上げて反応したのはシーナである。
リオンはすでにその情報を得ていたし、ルエナは息を詰まらせて顔を青くした。
「しかも……自分と愛人の行為を見せつけ、『女とは自分の夫に触れられればこうなるモノだ』と間違った知識を植えつけながら、実際は初夜に忘れられないほどの苦痛と侮辱を与えて破瓜させ、幼いままに後継を孕ませるつもりだと……」
「鬼畜?!ねえ、そいつ鬼畜なの?!」
「……鬼畜……そんな言葉じゃ足りない」
シーナがダンッとテーブルを叩いて叫んだが、イストフは顔を俯け、さらに低く恥ずべき兄の『愛の計画』を話す。
「……妊娠した女を甚振ったことはないから、愉しみだ……と……他人の妻ならば問題になるが、我が子が流れようとそれは己の妻の問題。胎の子を抱えて慈悲を仰ぐエリーの顔を腫れあがらせることを想像しただけで滾ると……あんな……美しい子をっ……」
「……リオン、イストフ兄ちょん切っちゃってよ」
「まあまあまあ」
イストフは自分の兄を絶望の眼差しで見ることしかできなかった過去を悔いながら顔を歪ませ、シーナは男の手を借りずに自分が男性のシンボルを欠損しに行きそうな顔つきで王太子を睨みつけた。
それを宥めたのはリオン王太子であるが、その言葉にはルエナさえ非難の眼差しを向けた。
「……いや、放置するわけじゃなく。ル、ルエナ……『大丈夫だから』って意味で……」
「何が大丈夫なの?!」
シーナはまたダンダンッとテーブルを叩いたが、無言のルエナは視線すら王太子から外して、両手を膝の上に置いた。
公爵家の令嬢ともなれば言葉ではなくチラリと投げかける視線やふとそらした顔つき、そして微かな溜息で言葉にせずとも自分の言いたいことを表現するものらしい。
前世よりももっと察しのいい男に育ったらしいリオンは、自分から少しだけ距離を置こうと身体を僅かに離した婚約者の機嫌を直そうと言葉を続ける。
「……ちょっとね。怪しい奇術や魔術じみたことを生業としている者たちと繋ぎを取ってもらってね……報酬は『定住の場を与える』ということで承諾してもらえた」
「ま、魔術………?」
この世界が『地球』やリオン、シーナが生きていた前世とは別物であっても、『魔法』は存在しない。

ただ文明的にはお約束通り中世ぐらいのものだから──

イストフにとってはお伽噺の中のさらに眉唾的ないかがわしい話だと思えるだろう。
シーナにとっては──
「奇術…魔術…定住……流浪の民?」
「うん。ジプシーみたいな……って」
「ほぁ~……そんなの、本当にいるんだ……」
「うん、いるんだ。しかも女ばかりの、まるでアマゾネスだよ……流浪しながらその土地の男と交わり、子供を産んで……『代理母』的な役割も果たしているらしいけど」
「あまぞねす?」
知らない単語にルエナも拗ねるのを忘れて、キョトンと反応する。


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