218 / 267
流浪
しおりを挟む
エリー嬢のいない場所だからこそ、イストフは促されるままに告白した。
「兄は……無垢なままのエリーを、エルネスティーヌ・フェリース・イェンという貴族令嬢を、快楽奴隷にしようと……していたと、思います」
「…………はぁっ?!」
数拍置いてから声を上げて反応したのはシーナである。
リオンはすでにその情報を得ていたし、ルエナは息を詰まらせて顔を青くした。
「しかも……自分と愛人の行為を見せつけ、『女とは自分の夫に触れられればこうなるモノだ』と間違った知識を植えつけながら、実際は初夜に忘れられないほどの苦痛と侮辱を与えて破瓜させ、幼いままに後継を孕ませるつもりだと……」
「鬼畜?!ねえ、そいつ鬼畜なの?!」
「……鬼畜……そんな言葉じゃ足りない」
シーナがダンッとテーブルを叩いて叫んだが、イストフは顔を俯け、さらに低く恥ずべき兄の『愛の計画』を話す。
「……妊娠した女を甚振ったことはないから、愉しみだ……と……他人の妻ならば問題になるが、我が子が流れようとそれは己の妻の問題。胎の子を抱えて慈悲を仰ぐエリーの顔を腫れあがらせることを想像しただけで滾ると……あんな……美しい子をっ……」
「……リオン、イストフ兄ちょん切っちゃってよ」
「まあまあまあ」
イストフは自分の兄を絶望の眼差しで見ることしかできなかった過去を悔いながら顔を歪ませ、シーナは男の手を借りずに自分が男性のシンボルを欠損しに行きそうな顔つきで王太子を睨みつけた。
それを宥めたのはリオン王太子であるが、その言葉にはルエナさえ非難の眼差しを向けた。
「……いや、放置するわけじゃなく。ル、ルエナ……『大丈夫だから』って意味で……」
「何が大丈夫なの?!」
シーナはまたダンダンッとテーブルを叩いたが、無言のルエナは視線すら王太子から外して、両手を膝の上に置いた。
公爵家の令嬢ともなれば言葉ではなくチラリと投げかける視線やふとそらした顔つき、そして微かな溜息で言葉にせずとも自分の言いたいことを表現するものらしい。
前世よりももっと察しのいい男に育ったらしいリオンは、自分から少しだけ距離を置こうと身体を僅かに離した婚約者の機嫌を直そうと言葉を続ける。
「……ちょっとね。怪しい奇術や魔術じみたことを生業としている者たちと繋ぎを取ってもらってね……報酬は『定住の場を与える』ということで承諾してもらえた」
「ま、魔術………?」
この世界が『地球』やリオン、シーナが生きていた前世とは別物であっても、『魔法』は存在しない。
ただ文明的にはお約束通り中世ぐらいのものだから──
イストフにとってはお伽噺の中のさらに眉唾的ないかがわしい話だと思えるだろう。
シーナにとっては──
「奇術…魔術…定住……流浪の民?」
「うん。ジプシーみたいな……って」
「ほぁ~……そんなの、本当にいるんだ……」
「うん、いるんだ。しかも女ばかりの、まるでアマゾネスだよ……流浪しながらその土地の男と交わり、子供を産んで……『代理母』的な役割も果たしているらしいけど」
「あまぞねす?」
知らない単語にルエナも拗ねるのを忘れて、キョトンと反応する。
「兄は……無垢なままのエリーを、エルネスティーヌ・フェリース・イェンという貴族令嬢を、快楽奴隷にしようと……していたと、思います」
「…………はぁっ?!」
数拍置いてから声を上げて反応したのはシーナである。
リオンはすでにその情報を得ていたし、ルエナは息を詰まらせて顔を青くした。
「しかも……自分と愛人の行為を見せつけ、『女とは自分の夫に触れられればこうなるモノだ』と間違った知識を植えつけながら、実際は初夜に忘れられないほどの苦痛と侮辱を与えて破瓜させ、幼いままに後継を孕ませるつもりだと……」
「鬼畜?!ねえ、そいつ鬼畜なの?!」
「……鬼畜……そんな言葉じゃ足りない」
シーナがダンッとテーブルを叩いて叫んだが、イストフは顔を俯け、さらに低く恥ずべき兄の『愛の計画』を話す。
「……妊娠した女を甚振ったことはないから、愉しみだ……と……他人の妻ならば問題になるが、我が子が流れようとそれは己の妻の問題。胎の子を抱えて慈悲を仰ぐエリーの顔を腫れあがらせることを想像しただけで滾ると……あんな……美しい子をっ……」
「……リオン、イストフ兄ちょん切っちゃってよ」
「まあまあまあ」
イストフは自分の兄を絶望の眼差しで見ることしかできなかった過去を悔いながら顔を歪ませ、シーナは男の手を借りずに自分が男性のシンボルを欠損しに行きそうな顔つきで王太子を睨みつけた。
それを宥めたのはリオン王太子であるが、その言葉にはルエナさえ非難の眼差しを向けた。
「……いや、放置するわけじゃなく。ル、ルエナ……『大丈夫だから』って意味で……」
「何が大丈夫なの?!」
シーナはまたダンダンッとテーブルを叩いたが、無言のルエナは視線すら王太子から外して、両手を膝の上に置いた。
公爵家の令嬢ともなれば言葉ではなくチラリと投げかける視線やふとそらした顔つき、そして微かな溜息で言葉にせずとも自分の言いたいことを表現するものらしい。
前世よりももっと察しのいい男に育ったらしいリオンは、自分から少しだけ距離を置こうと身体を僅かに離した婚約者の機嫌を直そうと言葉を続ける。
「……ちょっとね。怪しい奇術や魔術じみたことを生業としている者たちと繋ぎを取ってもらってね……報酬は『定住の場を与える』ということで承諾してもらえた」
「ま、魔術………?」
この世界が『地球』やリオン、シーナが生きていた前世とは別物であっても、『魔法』は存在しない。
ただ文明的にはお約束通り中世ぐらいのものだから──
イストフにとってはお伽噺の中のさらに眉唾的ないかがわしい話だと思えるだろう。
シーナにとっては──
「奇術…魔術…定住……流浪の民?」
「うん。ジプシーみたいな……って」
「ほぁ~……そんなの、本当にいるんだ……」
「うん、いるんだ。しかも女ばかりの、まるでアマゾネスだよ……流浪しながらその土地の男と交わり、子供を産んで……『代理母』的な役割も果たしているらしいけど」
「あまぞねす?」
知らない単語にルエナも拗ねるのを忘れて、キョトンと反応する。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです
灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。
それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。
その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。
この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。
フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。
それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが……
ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。
他サイトでも掲載しています。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる