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そうは言ってもやはり学園内での大きな事件というのは、王太子学園内側近たちが進んで起こした騒動以降は起こらず、シーナとしては大変快適な日々が送れている。
しかも送迎はディーファン公爵家の馬車でルエナと同乗し、学園内では張り切って護衛についているクールファニー男爵兄弟がやや後ろについてくるものの他の令嬢たちは遠巻きにして近付いてこないし、どこかの貴族家へ奉公に出るつもりで受けていた選択授業はすべて免除されて代わりにルエナとふたりで国内外の貴族を覚える特別授業を受けるという至福の時間ばかり。
しかもこの時になってシーナのチート能力が、少女といえる年齢の割に画家として一流の腕前を持つだけでなく、前世のスマートフォンに入れていた顔加工アプリ並みの『大人になったらこんな顔予想』っぽいナンチャッテ肖像画も描けることが判明した。
実際はずいぶん前に子供のいたずら描き程度の気持ちで描いたスケッチだったのだが、それをリオン付きの教育係のひとりが大事にしまっており、たまたま子供時代の玩具や本などを引っ張り出した際に見つけたのである。
まさかとは思ったが、それは王妃が主催した子供連れでの参加が許されたお茶会に参加した子供たちが『大人になったらどんな顔』とこっそり描いたもの。
それは幼児期から少年期へ成長した後の顔だったが、概ね違いがなく、リオンは王立貴族学園に入る前にそれらと家名を突き合わせて暗記したために『聡明で将来有望な王太子』という称号を手に入れることができたのだ。
当時はアルベールと共にこっそり見ているだけだったが、ルエナの王太子妃勉強に役に立つと王宮の教師に提出したところ、写真や成長アプリなどがない世界ではもう神アイテム扱いとなり、さらに成長した姿を描いてくれという依頼がシーナに発注され、もうついでに貴族当主と次期当主を覚えてしまえとばかりに、選択授業を変えられて現在に至る。
「クッ……何故……何故、俺は男なんだっ……」
「いいじゃん、王太子様。念願でしょーが?王太子でなかったら、ルエナを守ったり結婚したりアレしたりコレしたり…断罪から助けたりR18エンド無くしたり断頭台エンド潰したりできなかったのよ?」
「くぅぅぅっ……それっ……それなんだよなぁっ!!」
「ついでに転生先がモブ生徒だったらまあ……奇跡的にルエナ救済ルートとか自力で開通したかもしれないけどさ?その親とか逆に断罪後に生まれたモブ子供とか……」
「ウワッ!ヤメテっ!!想像するだけで鳥肌立つ!ルエナ様が悪役で死んじゃった後の世界……ウゥッ……想像しただけで死ねる……」
「えっ?!ダッ、ダメですわっ!殿下!わたくしの未来ごときで命を落とされるなどっ……」
もはやシーナとリオン王太子の会話は寸劇のようであり、前世だの記憶だのチートだの物語だのよく理解できていないイストフはドン引きするが、ルエナは徐々に慣れていってテーブルに突っ伏す婚約者の手にそっと自分のそれを重ねる。
しかも送迎はディーファン公爵家の馬車でルエナと同乗し、学園内では張り切って護衛についているクールファニー男爵兄弟がやや後ろについてくるものの他の令嬢たちは遠巻きにして近付いてこないし、どこかの貴族家へ奉公に出るつもりで受けていた選択授業はすべて免除されて代わりにルエナとふたりで国内外の貴族を覚える特別授業を受けるという至福の時間ばかり。
しかもこの時になってシーナのチート能力が、少女といえる年齢の割に画家として一流の腕前を持つだけでなく、前世のスマートフォンに入れていた顔加工アプリ並みの『大人になったらこんな顔予想』っぽいナンチャッテ肖像画も描けることが判明した。
実際はずいぶん前に子供のいたずら描き程度の気持ちで描いたスケッチだったのだが、それをリオン付きの教育係のひとりが大事にしまっており、たまたま子供時代の玩具や本などを引っ張り出した際に見つけたのである。
まさかとは思ったが、それは王妃が主催した子供連れでの参加が許されたお茶会に参加した子供たちが『大人になったらどんな顔』とこっそり描いたもの。
それは幼児期から少年期へ成長した後の顔だったが、概ね違いがなく、リオンは王立貴族学園に入る前にそれらと家名を突き合わせて暗記したために『聡明で将来有望な王太子』という称号を手に入れることができたのだ。
当時はアルベールと共にこっそり見ているだけだったが、ルエナの王太子妃勉強に役に立つと王宮の教師に提出したところ、写真や成長アプリなどがない世界ではもう神アイテム扱いとなり、さらに成長した姿を描いてくれという依頼がシーナに発注され、もうついでに貴族当主と次期当主を覚えてしまえとばかりに、選択授業を変えられて現在に至る。
「クッ……何故……何故、俺は男なんだっ……」
「いいじゃん、王太子様。念願でしょーが?王太子でなかったら、ルエナを守ったり結婚したりアレしたりコレしたり…断罪から助けたりR18エンド無くしたり断頭台エンド潰したりできなかったのよ?」
「くぅぅぅっ……それっ……それなんだよなぁっ!!」
「ついでに転生先がモブ生徒だったらまあ……奇跡的にルエナ救済ルートとか自力で開通したかもしれないけどさ?その親とか逆に断罪後に生まれたモブ子供とか……」
「ウワッ!ヤメテっ!!想像するだけで鳥肌立つ!ルエナ様が悪役で死んじゃった後の世界……ウゥッ……想像しただけで死ねる……」
「えっ?!ダッ、ダメですわっ!殿下!わたくしの未来ごときで命を落とされるなどっ……」
もはやシーナとリオン王太子の会話は寸劇のようであり、前世だの記憶だのチートだの物語だのよく理解できていないイストフはドン引きするが、ルエナは徐々に慣れていってテーブルに突っ伏す婚約者の手にそっと自分のそれを重ねる。
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