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議論
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反対意見を出す者たちが「もっともだ」と考えるのは、端的に『戦闘経験が少ないこと』と上げる。
しかしながら王宮内でも王妃や側妃、王女や最上級の侍女などを守るのは女騎士であり、王都以外では貴族家に仕えているわけではない地方の領民は、男女関係なく自分の身は自分で守るのが鉄則である。
だが学園内に外部からの侵入者を阻むための兵以外の武力があるということは、『王都内はとても危険な場所です』と宣伝しているようなものであり、か弱い令嬢たちを守るのは戦闘系の授業を受けている令息たちでも大丈夫だという建前を持ち出すなど、なかなか矛盾と隙だらけの理想論で、いまだ大人たちは喧々諤々としているらしい。
「……アホらし。結局のところ、自分たちの領地やらなんやらから、戦闘力のある女性護衛を引き抜かれては困るっていうことなんでしょう?」
「それもあるだろうけど……ちょっと聞き捨てならないのは、『令嬢たちが自分の護衛を身代わりにして暴力的な解決策があると知ってしまうような状態は避けるべきだ』という者もいるんだ」
「暴力的……『代理決闘』のこと?」
多くは自分の婚約者や恋人に対して不埒な真似をしただとか、意見の相違で埒が明かないために、貴族子息が自分のレディの代わりに大人を真似て模擬戦で『決闘』を行うということなのだが、女性護衛をつけていればわざわざ名乗りを上げてもらわなくとも済む。
むしろ女性の方から積極的に決着をつけるために『代理決闘』を申し出れるのだ。
むろん相手も女性護衛がいれば同格となるかもしれないが、実力に圧倒的差がある場合や、そもそも護衛を連れていない場合は『代理』ではなく本人が決闘を受けなければならない。
ではそれを卑怯だと言って自分の恋人や婚約者が名乗りを上げて『代理』になればなったで、今度は彼らを『卑怯者』呼ばわりをする愚かな令嬢も現れるだろう──
「何その水掛け論的な言い合い予想とか、愚の骨頂極まれりな言いがかり予想とか……どっちにしても、くだらない」
「そうなんだ。だから『個人に護衛をつけるのは認められない』ということを、まわりくどく、性差別的な言葉を使って論じているってわけ」
「はぁ~~~~………」
ぐったりと脱力したシーナは、中庭に置かれた椅子から半分ズリ落ちる。
隣に座っていたルエナが心配して抱き上げようとするが、そもそも筋力が貧民街育ちのシーナとは段違いにないため、一緒になってテーブルの下に潜り込みそうになった。
「……俺がいない間に、何だか難しいことになって……」
謹慎期間と試験が終わり、結果で再度『学園内側近』の座とリオン王太子の横に座る権利を取り戻したイストフ・シュラー・エビフェールクスが、向かい側でずいぶんと仲の良くなった令嬢ふたりをポカンと眺めて呟く。
その左隣にはクールファニー男爵兄弟が自然に収まり、中庭でも大きめのこの四角いテーブルは一辺を残して王太子ご一行が占領していた。
「いや実際さ?王都内の貴族邸で行われる舞踏会なんかにも一応女性の護衛やら近衛はいるんだけどさ、どの家もそれを公にしたくはないらしくて」
一見すればただのメイドお仕着せを着せた者たちが会場となった邸の大広間や廊下にいるのだが、それが誰かということがあからさまになると、その者を夫人や令嬢が出掛ける際の侍女として連れていけなくなるので困る──というのが、貴族たちの常識らしい。
しかしながら王宮内でも王妃や側妃、王女や最上級の侍女などを守るのは女騎士であり、王都以外では貴族家に仕えているわけではない地方の領民は、男女関係なく自分の身は自分で守るのが鉄則である。
だが学園内に外部からの侵入者を阻むための兵以外の武力があるということは、『王都内はとても危険な場所です』と宣伝しているようなものであり、か弱い令嬢たちを守るのは戦闘系の授業を受けている令息たちでも大丈夫だという建前を持ち出すなど、なかなか矛盾と隙だらけの理想論で、いまだ大人たちは喧々諤々としているらしい。
「……アホらし。結局のところ、自分たちの領地やらなんやらから、戦闘力のある女性護衛を引き抜かれては困るっていうことなんでしょう?」
「それもあるだろうけど……ちょっと聞き捨てならないのは、『令嬢たちが自分の護衛を身代わりにして暴力的な解決策があると知ってしまうような状態は避けるべきだ』という者もいるんだ」
「暴力的……『代理決闘』のこと?」
多くは自分の婚約者や恋人に対して不埒な真似をしただとか、意見の相違で埒が明かないために、貴族子息が自分のレディの代わりに大人を真似て模擬戦で『決闘』を行うということなのだが、女性護衛をつけていればわざわざ名乗りを上げてもらわなくとも済む。
むしろ女性の方から積極的に決着をつけるために『代理決闘』を申し出れるのだ。
むろん相手も女性護衛がいれば同格となるかもしれないが、実力に圧倒的差がある場合や、そもそも護衛を連れていない場合は『代理』ではなく本人が決闘を受けなければならない。
ではそれを卑怯だと言って自分の恋人や婚約者が名乗りを上げて『代理』になればなったで、今度は彼らを『卑怯者』呼ばわりをする愚かな令嬢も現れるだろう──
「何その水掛け論的な言い合い予想とか、愚の骨頂極まれりな言いがかり予想とか……どっちにしても、くだらない」
「そうなんだ。だから『個人に護衛をつけるのは認められない』ということを、まわりくどく、性差別的な言葉を使って論じているってわけ」
「はぁ~~~~………」
ぐったりと脱力したシーナは、中庭に置かれた椅子から半分ズリ落ちる。
隣に座っていたルエナが心配して抱き上げようとするが、そもそも筋力が貧民街育ちのシーナとは段違いにないため、一緒になってテーブルの下に潜り込みそうになった。
「……俺がいない間に、何だか難しいことになって……」
謹慎期間と試験が終わり、結果で再度『学園内側近』の座とリオン王太子の横に座る権利を取り戻したイストフ・シュラー・エビフェールクスが、向かい側でずいぶんと仲の良くなった令嬢ふたりをポカンと眺めて呟く。
その左隣にはクールファニー男爵兄弟が自然に収まり、中庭でも大きめのこの四角いテーブルは一辺を残して王太子ご一行が占領していた。
「いや実際さ?王都内の貴族邸で行われる舞踏会なんかにも一応女性の護衛やら近衛はいるんだけどさ、どの家もそれを公にしたくはないらしくて」
一見すればただのメイドお仕着せを着せた者たちが会場となった邸の大広間や廊下にいるのだが、それが誰かということがあからさまになると、その者を夫人や令嬢が出掛ける際の侍女として連れていけなくなるので困る──というのが、貴族たちの常識らしい。
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