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距離
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リオンは被虐趣味のある女性を、年齢も容姿も国籍も様々に揃えた。
実際にはそのような人間を手配できる人物と繋がりがあるということなのだが、そこらへんは曖昧にして簡単に説明を進める。
「ぜんせ……いや、遠い異国で『サーカス』という団体があってね。表向きは調教して人間の言うことをよく聞く動物たちを見世物にするんだが……やたらと女性が多い。十二歳ぐらいにしか見えない小人族や、私たちの母ぐらいになるとあまり容姿の変わらなくなる長命族…髪色も金髪、茶髪、赤毛、白銀、黒…SでもMでもお好み次第…ってね」
「えす?えむ?」
「……ルエナ、そこはあまりツッコまないで?というか、何でその単語を拾うの……」
「で、でも…だって…リオンが聞き慣れないことを言うんですもの……」
今までは学園内でも外でも必要以上に接してこなかったため、王太子と婚約者の間には距離があると言われていたが、この数ヶ月でかなり関係は親密になった。
さすがに他人の目があるところでは敬称で呼び合うが、この四人でいる間はずいぶん砕けた話し方になったのを、シーナはニヤニヤと嬉しそうに眺める。
──公式では、この距離感はヒロインと攻略対象のもの。
だがここはバグを徹底的に排除され作られたプログラムの中ではなく、似て非なる世界。
こうあるべきが正しい世界。
だから、幸せそうなふたりが嬉しい。
むしろ、前世で最も身近な双子の兄だったからこそ、自分に付き合って死んでしまった片割れだからこそ、現世で幸せになれそうで嬉しい。
問題はまだ完全に解決したわけではないけれど、少しずつは前進していっているような気がしている。
いいかげん陰に隠れている者を焙りだす頃合いかもしれない。
だいたい詩音と凛音が同じ世界に転生したことから、シーナ嬢がリオンと幼い頃に既に再会している時点で、ゲームシナリオからは大きくズレているのだ。
前提としてあるはずの『庶民として育った子爵令嬢がヒーローである王太子と互いに惹かれ合い、悪役である婚約者の公爵令嬢からの迫害にも負けず、持ち前の明るさで周囲の支持を得て王太子妃となる』の王道ストーリーは、前世で双子であることを思い出した時点で破綻している。
『持ち前の明るさ』とやらは本来のシーナという少女の性質であると思うし、きっと『詩音』が普通の家庭で普通に育っていれば、今とあまり変わらない性格に育っていたかもしれない。
だからといって『ロイヤルストレートフラッシュ』的な逆ハーレムを狙うというのは自分の前世での嫌な経験からいってあり得ないし、毛並みの違う男たち全部がストライクゾーンだとしたら、ハッキリ言ってヒロインの頭のネジと貞操観念の緩さを自分で疑うだろう。
なのにゲームと同じ本来の婚約者であるルエナ嬢に対し、王太子との仲を悪化させようと──或いは疎遠にしようと、シーナ嬢との『不貞な逢瀬』を匂わせる『悪意ある忠告』を、誰かは手間を惜しまず他の令嬢たちを使ってルエナに囁いていた。
本気で聞いていれば身分の上下が緩やかとはいえ、貴族学園内で畏れ多くも王太子殿下に手を預けるような不埒な低位貴族令嬢に対して何らかのアクションを起こしていたかもしれない。
そうはならなかったのが、皮肉にもルエナ嬢を王太子婚約者の座から引きずり降ろそうと誰かが長い間秘かに与えていた違法薬のせいであるのは、それこそバグかもしれない。
実際にはそのような人間を手配できる人物と繋がりがあるということなのだが、そこらへんは曖昧にして簡単に説明を進める。
「ぜんせ……いや、遠い異国で『サーカス』という団体があってね。表向きは調教して人間の言うことをよく聞く動物たちを見世物にするんだが……やたらと女性が多い。十二歳ぐらいにしか見えない小人族や、私たちの母ぐらいになるとあまり容姿の変わらなくなる長命族…髪色も金髪、茶髪、赤毛、白銀、黒…SでもMでもお好み次第…ってね」
「えす?えむ?」
「……ルエナ、そこはあまりツッコまないで?というか、何でその単語を拾うの……」
「で、でも…だって…リオンが聞き慣れないことを言うんですもの……」
今までは学園内でも外でも必要以上に接してこなかったため、王太子と婚約者の間には距離があると言われていたが、この数ヶ月でかなり関係は親密になった。
さすがに他人の目があるところでは敬称で呼び合うが、この四人でいる間はずいぶん砕けた話し方になったのを、シーナはニヤニヤと嬉しそうに眺める。
──公式では、この距離感はヒロインと攻略対象のもの。
だがここはバグを徹底的に排除され作られたプログラムの中ではなく、似て非なる世界。
こうあるべきが正しい世界。
だから、幸せそうなふたりが嬉しい。
むしろ、前世で最も身近な双子の兄だったからこそ、自分に付き合って死んでしまった片割れだからこそ、現世で幸せになれそうで嬉しい。
問題はまだ完全に解決したわけではないけれど、少しずつは前進していっているような気がしている。
いいかげん陰に隠れている者を焙りだす頃合いかもしれない。
だいたい詩音と凛音が同じ世界に転生したことから、シーナ嬢がリオンと幼い頃に既に再会している時点で、ゲームシナリオからは大きくズレているのだ。
前提としてあるはずの『庶民として育った子爵令嬢がヒーローである王太子と互いに惹かれ合い、悪役である婚約者の公爵令嬢からの迫害にも負けず、持ち前の明るさで周囲の支持を得て王太子妃となる』の王道ストーリーは、前世で双子であることを思い出した時点で破綻している。
『持ち前の明るさ』とやらは本来のシーナという少女の性質であると思うし、きっと『詩音』が普通の家庭で普通に育っていれば、今とあまり変わらない性格に育っていたかもしれない。
だからといって『ロイヤルストレートフラッシュ』的な逆ハーレムを狙うというのは自分の前世での嫌な経験からいってあり得ないし、毛並みの違う男たち全部がストライクゾーンだとしたら、ハッキリ言ってヒロインの頭のネジと貞操観念の緩さを自分で疑うだろう。
なのにゲームと同じ本来の婚約者であるルエナ嬢に対し、王太子との仲を悪化させようと──或いは疎遠にしようと、シーナ嬢との『不貞な逢瀬』を匂わせる『悪意ある忠告』を、誰かは手間を惜しまず他の令嬢たちを使ってルエナに囁いていた。
本気で聞いていれば身分の上下が緩やかとはいえ、貴族学園内で畏れ多くも王太子殿下に手を預けるような不埒な低位貴族令嬢に対して何らかのアクションを起こしていたかもしれない。
そうはならなかったのが、皮肉にもルエナ嬢を王太子婚約者の座から引きずり降ろそうと誰かが長い間秘かに与えていた違法薬のせいであるのは、それこそバグかもしれない。
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