婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
204 / 267

供給

しおりを挟む
今日は三人だが、ここ最近はクールファニー男爵家の兄弟リオネルとリュシアンも同席することがよくある。
今はまだ寮で謹慎中のイストフを医療室に運び込むのを手伝ってくれたこの兄弟を新たに側近候補にしたいとリオンが働きかけているのだが、ふたりは卒業後も王太子のそばに痛いという希望を持っているわけではないので、まあ他の生徒よりは近い距離に王太子に近付いてよいとされていた。
もっともそんなことを言っているのは大人たちだけで、リオンもシーナもそういうことには頓着しないと決めているし、アルベールは下心も危険もないと判断している。
そしてルエナは──今まで積極的に他の令息令嬢と関わり合いになってこなかったことを反省するかのように、リオン王太子の交友関係に黙って付き合っていた。
「まあ…今日はあのふたりがいなくて良かったかもだけどな」
「え?」
「いや、あのな……」
周囲にいくつか四阿やベンチなどが設置されてはいるが、距離はある程度離れている。
だがそれでも用心するかのように凛音は周囲を見渡し、テーブルの上にグッと身を寄せた。
「イェン伯爵家に婚約者変更を勧めたがな……それだけじゃ弱いと思って、ちょっと踊り子の旅芸人団をエビフェールクス辺境地へ派遣したんだよ……」
「は?」
「ハァッ?!」
ルエナは口元を抑えるように息を飲んだが、派手に反応して立ち上がったのはシーナだ。
さすがにその行動は人目を引いたが、わざわざこちらに近付いてくるような勇気ある者はいない。

旅芸人団──しかも踊り子がいるということは、そういうことだ。
「イストフともう少し詳しい話をしてな……兄貴は」
「あにき?」
「あっ……うぅっ……うん…その……イ、イストフの兄上は」
聞き慣れない単語にルエナはキョトンと首を傾げると、リオンは咳払いをして言い直す。
「まあ……兄上のことを『兄貴』と呼ぶこともありますのね……あまり貴族階級ではお聞きしないような……」
「そうですわね、ホホホ。どちらかというと、庶民的な言い方ですの。あ~…あとはあまり品のよろしくない人なら、貴族家の者でも使ったり使わなかったり」
「そう…なのですね……シーナは本当はとても学がおありなのね……わたくし、知らないことが多くて恥ずかしいわ……」
「そっ…そんなぁ~……」
何故だか間違った方向にルエナが感心し、シーナが照れてクネるのをリオンとアルベールは呆れたような視線で見ていたが、間もなく休憩時間が終わる合図の咳ばらいをアルベールがすると、リオンはさっさと話の続きをした。
「その、イストフの兄は女性に対してあまりまともじゃない癖を持っている。少女を甚振るのもそうだが、大人の女にも手酷いコトをするのを好むんだ」
「うっわ…サイテー……」
「まあそうだろうけど……世の中には『割れ鍋に綴じ蓋』ってーもんがあって」
「……需要と供給?」
「とも言える」
「うっわ」
前世的言い回しにシーナは納得した。
納得はしたが、嫌悪感は薄れない。

ただしルエナはあまり理解できていなかった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。

藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。 「……旦那様、何をしているのですか?」 その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。 そして妹は、 「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と… 旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。 信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。 問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。 もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...