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性欲
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「……そのモブ令嬢が……エリーちゃん?」
「あー……うん……その、モブ令嬢で、ルエナ様に『夫が黙っておりませんわよっ?!』と自分の身を守ろうとした時に、『あいつはあいつで、俺の幼な妻とよろしくヤッてるだろうよ』って……」
「はぁっ?!」
シーナの剣幕に、リオンはまさかそのシーンに幼な妻らしき裸の少女の後ろ姿と、その細い腰を抱き締めて舌なめずりをするイストフの絵が描かれていたとまではさすがに告げなかった。
あの体勢とイストフも裸体で描かれていたということは、まあ座位で少女を責め立てているというであろうこと──さらに片腕の位置がどう見ても腰よりもさらに低い位置に差し込まれているふうに捉えられる風だったことから、アレを描いた作者も、読者も少女もまた自分の意図しない性行為を強いられていると妄想してしまうような構図だったとは、口が裂けても言えない。
そんなことがシーナだけでなくアルベールの耳にでも入ってしまえば、今は純情そうにエリー嬢の喜びように頬を緩めているイストフに対して、嫌悪どころか排除の意志を持つかもしれないからだ。
どうやら幼いエリー嬢がルエナに懐いているのを見て、アルベールにとってはすでに『第二の妹』に近い感覚を持っているようである。
「……なぁんでそんなことまで知ってるの?」
「え~……」
「不潔っ!!」
斜め上明後日の方向を向いて誤魔化そうとするリオンの腹にグーパンを躊躇いなく叩き込むと、シーナはドカドカと貴族令嬢らしくない足音を立ててルエナたちの方へ向かった。
とはいえ、当時のリオンは詩音にとって悪夢以上の出来事があったとしても自身は正常な青少年であり、家を出れない詩音とはまた別の人間であり、正常な性欲を持ち年頃のお付き合いもしていたのである。
彼女の顔ももう朧気だったが、すべての行為がお互い初めてで固くなるその身体を労わりながら繋がった時には、その高揚感とは別に、覚悟を決めた少女ですら耐えるような痛みを恐怖の中で与えた自分の兄を恨む気持ちは薄れることはなかった。
だからこそそれがわかっていても、あのゲームの悪役令嬢ものといわれれば何でも手に入れたいという欲望に勝てず、そして扇情的な内容に興奮したのも事実である。
またあの同人誌の絵師が凄かった──まるでゲームキャラクター案を作った本人ではないかと思えるほどの完成度と、それよりも少し美少女度が高くて、まさしく凛音の理想の『ルエナ・リル・ディーファン』だったのだ。
「だとしても……」
エリー嬢に関してはゲームの中ではイストフの人物紹介で『兄には自分より若い婚約者がいるが、まだ自分の婚約者はいない』というぐらいだったが、あの同人誌では可愛らしい金髪の幼女の後ろ姿で、イストフに嬲られていた。
つまり絵姿すらゲームにも本筋の小説にも設定がなく、コミカライズすらされていなかった少女──それが『エルネスティーヌ・フェリース・イェン伯爵令嬢』だが、その名前すらもイストフが告白してくれるまで知らなかった。
異世界転生で悪役令嬢に転生した者が破滅を避けようと努力した結果、彼女にとって都合の良いように未来は改変されるというのはお約束だが、代わりに没落するはずのヒロインとそのお相手のバカ王子が転生者で激推しの悪役令嬢を断罪から救った後のこんな変化は予想していなかったのである。
「……つまり、俺たちは闇落ち令嬢をふたりも救った……?」
それにしてはシーナに対する攻撃が、ゲームシナリオや小説に沿う形でところどころ発現しており、完全に『誰も不幸にならない未来』に代わっているとは言い難かった。
「あー……うん……その、モブ令嬢で、ルエナ様に『夫が黙っておりませんわよっ?!』と自分の身を守ろうとした時に、『あいつはあいつで、俺の幼な妻とよろしくヤッてるだろうよ』って……」
「はぁっ?!」
シーナの剣幕に、リオンはまさかそのシーンに幼な妻らしき裸の少女の後ろ姿と、その細い腰を抱き締めて舌なめずりをするイストフの絵が描かれていたとまではさすがに告げなかった。
あの体勢とイストフも裸体で描かれていたということは、まあ座位で少女を責め立てているというであろうこと──さらに片腕の位置がどう見ても腰よりもさらに低い位置に差し込まれているふうに捉えられる風だったことから、アレを描いた作者も、読者も少女もまた自分の意図しない性行為を強いられていると妄想してしまうような構図だったとは、口が裂けても言えない。
そんなことがシーナだけでなくアルベールの耳にでも入ってしまえば、今は純情そうにエリー嬢の喜びように頬を緩めているイストフに対して、嫌悪どころか排除の意志を持つかもしれないからだ。
どうやら幼いエリー嬢がルエナに懐いているのを見て、アルベールにとってはすでに『第二の妹』に近い感覚を持っているようである。
「……なぁんでそんなことまで知ってるの?」
「え~……」
「不潔っ!!」
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だからこそそれがわかっていても、あのゲームの悪役令嬢ものといわれれば何でも手に入れたいという欲望に勝てず、そして扇情的な内容に興奮したのも事実である。
またあの同人誌の絵師が凄かった──まるでゲームキャラクター案を作った本人ではないかと思えるほどの完成度と、それよりも少し美少女度が高くて、まさしく凛音の理想の『ルエナ・リル・ディーファン』だったのだ。
「だとしても……」
エリー嬢に関してはゲームの中ではイストフの人物紹介で『兄には自分より若い婚約者がいるが、まだ自分の婚約者はいない』というぐらいだったが、あの同人誌では可愛らしい金髪の幼女の後ろ姿で、イストフに嬲られていた。
つまり絵姿すらゲームにも本筋の小説にも設定がなく、コミカライズすらされていなかった少女──それが『エルネスティーヌ・フェリース・イェン伯爵令嬢』だが、その名前すらもイストフが告白してくれるまで知らなかった。
異世界転生で悪役令嬢に転生した者が破滅を避けようと努力した結果、彼女にとって都合の良いように未来は改変されるというのはお約束だが、代わりに没落するはずのヒロインとそのお相手のバカ王子が転生者で激推しの悪役令嬢を断罪から救った後のこんな変化は予想していなかったのである。
「……つまり、俺たちは闇落ち令嬢をふたりも救った……?」
それにしてはシーナに対する攻撃が、ゲームシナリオや小説に沿う形でところどころ発現しており、完全に『誰も不幸にならない未来』に代わっているとは言い難かった。
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