婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

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そうしてディーファン公爵夫人その人が陣頭指揮を執り、エリー嬢の植物認識と装飾知識の洗い出しと、エビフェールクス辺境地内のイェン伯爵領及び領邸での生活を聞き取ることになった。

結果────

「……伯爵令嬢としての礼儀作法は、王都で過ごしている令嬢たちと比べて遜色はないとはいえ……あまりにも非力すぎるわ。ドレスに着ける装飾品を選ぶことすら許されず、父親が差し出す物を黙って身に着けるだけなんて」
「まさか邸内の装飾についても家政婦長という名の愛人がすべて取り仕切り、令嬢の室内におけるそれすらも『すべて父親、あるいは婚約者好みになるよう』など……許せません」
エリー嬢の伯爵邸内の自室は赤とピンクを基調としているものらしく、話を聞きながらシーナが描いたスケッチブックを見てディーファン公爵夫人は頭が痛むかのように顔を青褪めさせて額を抑え、ルエナ嬢はプルプルと怒りに身を震わせる。
それはそうだろう──前世の記憶から引き出された言葉は「これは…ラブホテルか?」と疑いたくなるような配色と家具の位置であった。
ベッドだけ見ればピンクのフリルのついたお人形のベッドだが、何故かベッド回りの壁には姿見が何枚も使われ、吊り下げられる天蓋は紫色の紗で、カーテンと絨毯は赤。
壁も赤と白とピンクの配色で、何と寝る時には赤いランプが灯されるらしい。
「……マジかよ……」
思わずボソリと呟いてしまったが、まさかこの世界に視界による性的興奮を理解して年若い令嬢の居室室礼を行うバカがいるとは思わなかった。
もっとも描きとったシーナの美的感覚からすれば、ルエナ嬢の居室はシック過ぎ、ブラウン系で纏められた居間も寝室ももっと華やかに明るい色で飾りたいと思わないでもない。
しかしこんな部屋を幼い頃から使わせるとは、まさしく狂気の沙汰だ。
「……では、この屋敷に来た時は、エリー嬢はずいぶん驚かれたのでは?」
「そういえば………」
シーナがパッと公爵夫人に顔を向ければ、コテンと可愛らしく首を傾げて視線をさ迷わせる。
ルエナも邸内でエリー嬢にあてがわれた客室でのことは聞いていなかったらしく、興味有りげに母に目を向けた。
「我が邸があまりに落ち着いた雰囲気だからか、少し元気がなかったとか……でも、夜はぐっすり眠れたようなのよ?」
「それはまあ……そう、でしょう……」
「どういうことかしら……?」
「赤という色は本能的に人を惹きつけます。そして興奮も呼ぶんです。同系色の桃色は色味の強さにもよりますが、今までエリー嬢が住んでいた伯爵邸の自室で使われていたこの色の強さでは、可愛らしく落ち着くというよりも、意味もわからず落ち着きよりも性的興奮を呼び起こさせる配色です。色による些細な違いを敏感に感じられる女性にはこの桃色や紫色、男性には性的に訴えるような赤……そして逆に興奮を冷まさせる青や緑といった寒色、中間的な黄色は徹底的に省かれています」
「なっ………」
母娘はシーナの説明に絶句する。
「だから病人や怪我人などは清潔感がある白、気持ちが穏やかになるように青、そして元気が出るような黄色を配した部屋がふさわしいんですが……」
「えぇと……では、茶色、は……?」
「茶色は主に『落ち着きたい』とか『安心感』を得る効果がありますね。ルエナ様の部屋は少し茶色が多めですから、カーテンなど白や象牙色の大きな布などを増やされて、薄い紫や同じく薄い桃色の挿し色的な小物などもいいと思います」
「そっ……そうなの……」
自分が好んで──というか、ずっと『こういうものだ』と思って替えさせずにいた居室の色に悪い意味がなかったことにほっとしたのか、ルエナはシーナのアドバイスに考えるような顔つきをした。


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