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衝撃
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知らないままに──そういう割には歪な知識を植え付けようとしているのは、イストフの実兄だ。
自分が言おうとしたことに矛盾があることに自分で気づいたのか、気不味そうに皆の視線を避けるように顔を俯けたイストフだったが、シーナが誰よりもキツい眼差しで睨みつけているのに気が付くとさらに顔を伏せて頭を項垂れる。
それは辺境という地の特異性なのか、見捨てた祖国への尽きぬ忠誠心か。
そんなことはどうでもいい。
だがそれは、無垢な少女を制奴隷の如き存在に陥れていいという理由にはならない。
そんなのはただの言い訳であり、男にとってのみ都合の良いラブドールを作り出すだけの目くらまし。
「……あ…あの!……えぇと……でもその、『生野菜』というものは、お、美味しかった……ですわ……?」
問題はそのことではないのだが、エリー嬢は何となく雰囲気が悪くなったのをどうにか中和しようと声を張り上げる。
「あの!で……あの……どれが、そのお姉様たちのおっしゃる『生野菜』だった……のですか?」
「え?」
さすがにエリーのその質問には全員がポカンとし、次いで気が抜けたようにそれぞれ苦笑や溜息を洩らした。
帰宅後にルエナやシーナからエリー嬢が「生の野菜や果物を知らない」と教えられたディーファン公爵夫人は青褪め、さっそく次の食事からすべての料理に何が使われているかの説明をするようにと家政婦長へと申しつけたのである。
「何てこと……確かに自分で果物をもいだり、野菜を土から掘り起こすことをする令嬢は少なくないでしょう……しかし、さすがに調理された後とはいえ、野菜を野菜と認識できないということなどありえません。まさか……花を摘んだこともないというの?」
公爵夫人の最後の言葉に、思わずルエナとシーナは顔を見合わせた。
エビフェールクス辺境侯爵地がどんな気候かまではわからないが、かなり寂れた村や無人となってしまった廃村などもあるということだから、あまり楽しい場所ではないだろう。
そこに定住する貴族の令嬢は自分の足で草を踏むことすらないのかもしれず、屋敷の外に気を紛らわすことを許されていないと言っても過言ではないらしい。
「いえ、でもさすがに屋敷に花は飾られそうなものですから……」
「まさかその花を見繕う役割を、お母様から受け継いだりは……?」
そういえば、とふたりは思う。
エリー嬢は町を散策している時に、美しい装飾品に目を輝かせてはいたけれど、花屋にはまったく興味を示さなかったような気がしていた。
自分が言おうとしたことに矛盾があることに自分で気づいたのか、気不味そうに皆の視線を避けるように顔を俯けたイストフだったが、シーナが誰よりもキツい眼差しで睨みつけているのに気が付くとさらに顔を伏せて頭を項垂れる。
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そんなことはどうでもいい。
だがそれは、無垢な少女を制奴隷の如き存在に陥れていいという理由にはならない。
そんなのはただの言い訳であり、男にとってのみ都合の良いラブドールを作り出すだけの目くらまし。
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「あの!で……あの……どれが、そのお姉様たちのおっしゃる『生野菜』だった……のですか?」
「え?」
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そこに定住する貴族の令嬢は自分の足で草を踏むことすらないのかもしれず、屋敷の外に気を紛らわすことを許されていないと言っても過言ではないらしい。
「いえ、でもさすがに屋敷に花は飾られそうなものですから……」
「まさかその花を見繕う役割を、お母様から受け継いだりは……?」
そういえば、とふたりは思う。
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